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ブランドリユースのコメ兵が実店舗拡大へ 営業自粛と巣ごもりの“二重苦”でも勝算はあるのか

1年以上続くコロナ禍で、小売業界に大きな変革が訪れている。対面の接客を避ける消費者が増えたことで店舗の売上が下がる一方で、消費者の巣ごもりが影響しEC利用が増加傾向にある。
そんな中、ラグジュアリーブランドの買い取り・販売に強みを持つブランド品リユース大手のコメ兵ホールディングス(以下、コメ兵)は、実店舗拡大へと舵を切った。AIを使ったブランド品の真贋(しんがん)鑑定技術を導入することで、商品の買い取りをスムーズにするだけでなく、取引の透明性を強化する計画だ。しかしなぜ今、大量出店に踏み切ったのか。6月に行われた「コメ兵×K-ブランドオフ 合同戦略説明会」から、同社の持続的成長戦略を考える。

2020年10月にオープンした「KOMEHYO買取センター モザイクモール港北」。20坪の店舗に常駐スタッフは1名。宝石・貴金属、時計、バッグ、ブランド衣料の高価買い取りを行う

3年で120店舗規模に拡大

 コメ兵は、今年の6月、年間30店舗を3年連続で出店し、既存の28店舗と合わせて120店舗規模にする考えを示した。コメ兵傘下のブランドオフでは国内のフランチャイズ店舗を3年間で現在の約7倍となる100店舗規模達成をめざす。

 コメ兵の代表石原卓児氏は、「お客さまの生活圏と生活導線上にコメ兵があることを目標にしたい」とし、足元商圏への出店をめざす。出店するのは約20坪の買い取り専門店に限定し、当面は店舗運営の費用がかさむ大型店舗の出店は控えるという。

 同社の強みは、120万件ほどの顧客データを保持していることだ。事前に、イベント買い取りを繰り返し、「モノ」を持っている富裕層を探り、実績のあるエリアに自社のマーケティングデータと照らし合わせた上で買い取り専門店を展開していく。ものを無駄にしないサステナブルな買い物をサポートする同社のキーワードは、「いつもの」「近くの」。ターミナル駅周辺だけでなく、お客の生活圏や商業施設様へ出張買い取りも強化していく。

なぜいま、オフラインに投資するのか

「コロナ禍で厳しい面もあるが、国内のリユース市場は今後も成長し、2025年までには32500万円規模に拡大することが見込まれます」と、石原氏の表情は明るい。

「中古市場データブック2020」によると、日本のリユース市場規模は9年連続で右肩上がりに成長している。2018年度の21880億円に達し、中でもオンラインの売上の増加が目立つ。

「これまでリユースに触れる機会がなかった人が利用しはじめたことで、利用者の裾野が広がりつつあります。例えば、生産が終了したブランド品を『中古でもいいから』と求める人が増えたり、コロナを契機にサステナブルな考え方が浸透しつつあるのも、リユース市場拡大の追い風になっています」(同氏)

 日本の人口総数は減少していくものの、これまで利用率が低かった若年層、高齢層の利用が増えることでリユース経験者の人口は拡大していく見通しだ。

 中古品の売買を行うリユースビジネスにおいて、仕入れは生命線といえる。「買い取りを強化しないことには、我々のビジネスで大きなスケールは見込めない」と石原氏。競合他社との“買い取り合戦”を勝ち抜くためには、消費者が気軽にモノを売れる環境を整備すること、取引の透明性を強化することが極めて重要だ。

勝算はAIにあり?

 

ルイ・ヴィトンからスタートしたAIはシャネル、グッチと対応可能ブランドを拡大中。今後も2か月に1ブランドのペースで対応可能ブランドが追加される予定だ

「競合他社の一歩先を行くためには、少人数のスタッフでいかに魅力的な商品を多く仕入れられるかにかかっています」(同)

 そこで活躍するのが、「AI真贋」だ。狙いは二つある。一つは、年間30店舗以上の出店スピードに対して、買い取り担当の教育がボトルネックにならないためのツールとして活用すること。コメ兵の鑑定士は現在370名。独自の教育プログラムを受け、試験を合格したスタッフだけが品物を判定することができるのだが、型番判定、真贋判定、状態チェック、買い取り金額の算出、金額の説明といった査定の流れのうち、型番判定と真贋判定という2つの作業をAIに任せることで、買い取り担当者はお客とのコミュニケーションに気を配ることが可能になる。

 二つ目は取引の透明性を強化すること。昨今、偽物の流通量は増加傾向にある。AI真贋は、商品が本物かニセ物を見極めるだけでなくモデル名や型式なども特定可能。人とAIが協業することで、客を長時間待たせないスピーディな判定をめざし、顧客満足度を充実させる。

店舗面積と売上は比例しない

 しかし、買い取り専門店の拡大だけでは、支出が増えるだけではないか。

「多様な販売チャネルを展開するのが同社の強み。店舗で売るべきか、ECで売るべきか、オークションに出品する方法もある。適切な販売チャネルを選んでスピード感を持って売り切ることで収益化は十分見込める」(同)

 お客との接点は、店舗、宅配買い取り、出張買い取り、イベント買い取りの4つの“出会いの場”がある。買い取った商品は、愛知県内の商品センターに集められる。その数、年間160万の商品が流通するわけだが、リアル店舗とK O M E H YO O N L I NE(ウェブ)、KOMEHYOオークションで、もっとも早くお客に届けられるチャネルを選び販売する。実店舗×ECといった複数の販売チャネルで重複利用するほどLTV(顧客生涯価値)は高くなるそうだ。特に、店舗購入者はEC購入との組み合わせで単価向上が見込めることが分かっている。

「コメ兵グループにとって、サステナビリティとはビジネスモデルそのものです。我々は、持続可能な循環型社会に必要な存在として、人とモノと社会をつなげる“中継点”の役割を果たしていきます」

左からコメ兵ホールディングス石原卓児社長、K-ブランドオフ山内祐也社長