コンビニエンスストアの商品開発に深く携わってきた本多利範氏が、チェーンストア躍進のヒントを探る新連載。第3回は新型コロナウイルスの感染拡大を受け、消費マインドの変化、ビジネスの方向性などについて解説する。
人々の購買行動、嗜好が変化
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、国内の産業にも様々な影響を及ぼしました。小売業では、今年3月以降、食品スーパー(SM)やドラッグストア(DgS)が売上高を伸ばし、好調を維持しています。
それに対し百貨店は大きく落ち込みました。かつて不振業態でしたが、観光立国を掲げた政府の各種施策によって増えた訪日外国人観光客の恩恵を受け、持ち直していました。しかしインバウンド需要がなくなり、再び失速したかたちです。
商品に目を向けると、売れたもの、売れなかったものがあります。前者のキーワードは「家族需要」「衛生消毒」「お家料理」。SMでは青果、鮮魚、精肉の生鮮3品、カップラーメン等のインスタント食品、DgSではうがい薬、殺菌消毒剤など医薬関連品が動きました。
反対に「遠出減少」「外出控え」が広く浸透したことで、売れなくなった商品の代表格は化粧品。好調なDgSでも、商品により明暗が分かれたのは興味深い現象です。
新型コロナウイルスは、ある意味、企業や業態などの強み、また弱さをあぶりだした面があります。コンビニエンスストア(CVS)は近年、中食市場へ進出してきました。そのなか、競合他社に先んじ冷凍食品などで「内食」の分野を開拓しているセブン‐イレブン・ジャパン(東京都/永松文彦社長)の強さが目立つ結果となっています。前述の、百貨店の失速は弱さが出たケースのひとつです。
消費者の購買行動、嗜好も変化しています。たとえば弁当。これまでSM、CVSが得意としてきた分野ですが、飲食店が昼食時などにテイクアウト向け商品を販売するようになっています。おいしく、多くの人にとり選択肢が増えました。今後、SMやCVSは、味についてさらに磨きをかける必要に迫られるでしょう。
総じて、食はどの企業、業態も注目しています。これまで安さを訴求していたDgSでも、おいしさ、品質を追求するなど、食を深耕する動きは強まるはずです。
前向きな中国の経営者
新型コロナウイルスの影響で消費が低迷していますが、実は過去の不況とは少しタイプが異なります。リーマンショックのように、従来は金融に端を発していたのに対し、今回は観光、飲食、小売など第三次産業が震源地となっているのが特徴です。
金融は大きなダメージを受けていない、つまりカネは回るため、ユニークな中小企業がしわ寄せを受け破綻するケースはまだ多く出ていないのが救いです。
一方、私は仕事で海外によく足を運びますが、そのうち中国の状況に触れておきます。政治体制はじめ否定的な見方をする日本のマスコミもありますが、何といっても14億人の大きな市場は魅力的。あちらでも「巣ごもり」する人が多く、自粛ムードが続いているのは日本と同じです。
現地の企業、とくに私が懇意にしている小売りのトップと話していると、前向きな人が多い。危機をチャンスととらえ、新業態を出すなどの動きが見られます。
ここで話を日本に戻すと、今回の新型コロナショックにより社会の価値観、消費者の行動は大きく変化、もう以前の姿に戻ることはないだろうと見ています。そのなか、ことチェーンストアについて言えば、重要になるのは「コミュニケーション」ではないかと思うのです。
これまで小売業は、レジをはじめセルフ化を進めてきました。つまりお客との接点が少なくなってきているのが現状です。しかし、これからはデジタル化の推進とともに、お客とより「コミュニケーション」の接点を持ち、双方向の交流ができるような関係性によって、店・お客との間の信頼関係が構築されると予想しています。
会員カードを例にとれば、従来はポイントを貯める機能が中心でした。しかし、今後は会員向けの弁当メニューを提案するというのも一案です。
このように新型コロナショックを前向きにとらえ、新たな視点でビジネスを見直せば、他社と差別化を図る機会になるかも知れません。
(お知らせ)
今夏、第2回「本多塾」開催を予定しております。開催概要が決定しましたら、「DCSオンライン」で告知いたします。ご期待ください。
関連記事
- 本多塾塾長が語る 流通業界 時事放談 第2回「足し算だけでなく、引き算の考え方が求められる時代」
- 「大競争時代」チェーンストア躍進のヒントはここにある 『売れる化』著者・本多利範氏の「本多塾」開講!=第1回開催レポート
- 「本多塾」塾長が語る流通業界 時事放談 第1回「消費税増税を端緒にした消費スタイルの変化」
本多 利範 氏
1949年神奈川県生まれ。明治大学政治経済学部卒業。大和証券を経て、1977年セブン-イレブン・ジャパン入社。1996年、同社の最年少取締役に就任(取締役食品部長、当時)。98年に渡韓し、ロッテグループ専務取締役として韓国セブン-イレブンの再建に従事。帰国後、スギ薬局専務取締役、ラオックス代表取締役社長、エーエム・ピーエム・ジャパン代表取締役社長などを歴任。2010年よりファミリーマートにて常務取締役員として新規事業を担当、15年より取締役専務執行役員・商品本部長としておにぎりや弁当など多くの商品の全面改革に取り組む。17年に取締役専務執行役員・社長補佐就任、ユニー顧問を兼務。18年に株式会社本多コンサルティングを設立。著書に『売れる化』『おにぎりの本多さん』(プレジデント社刊)など
※このプロフィールは、DCSオンラインに最後に執筆した時点のものです。