農林水産省の調べによれば、2017年度の食品ロス量は612万トン、国民一人当たりで換算すると1日約132g(茶碗1杯のごはんの量)になる。そのゴミ処理にかかるコストは年間2兆円といわれている。そうしたなか、食品を製造する側にとってはロス量を減らせる、消費者にとってはお得な値段で購入できる、さらに社会貢献というというウィンウィンをねらった新しいサービスがマーケットを拡大させている。その動きに迫った。
「食品ロス削減」と「社会貢献」をつなぐビジネスモデル
冒頭の612万トンにも及ぶ食品ロスの半数以上が事業系(食品製造業、食品卸売業、食品小売業、外食産業で312万トン)によるものだが、社会の関心の高まりもあって、食品ロス量の推計を開始した2012年度以降で最小となっている。
こうした流れを絶やさないようにするために、2019年10月、「食品ロスの削減の推進に関する法律」(略称食品ロス削減推進法)が施行された。
しかし、新型コロナウイルスの感染拡大による、飲食業への営業自粛要請、小中学校の休校による給食の中止、こども食堂の活動中止などにより、本来ならば、胃袋に収まるべき食材が、行き場を失い、意図せざる食品ロスが突然、クローズアップされることになった。
このタイミングで、農林水産省では、「新型コロナウイルス感染症対策に伴い発生した未利用食品の販売を促進するビジネス」を随時公表している。6月1日時点で、そこには13社が掲載されているが、新型コロナウイルスを契機にサービスを立ち上げたところ、これからサービスを開始をするといったところも含まれている。その中にあって、いち早く、食品ロス削減と社会貢献とをつなぐビジネスモデルを開発、食品製造業、食品卸売業、食品小売業を対象に、実績を積み上げてきている企業もある。
社会貢献型ショッピングサイト「KURADASHI.jp」を開発運営するクラダシ(東京都/関藤竜也社長)と、ネットオークション等の情報・価格検索や分析サービス行うサイトなどを運営する、東証マザーズ上場オークファンの子会社で、社会貢献型ECショッピングサイト「Otameshi」を運営するSynaBiz(東京都/武永修一社長)だ。
メーカーの余剰在庫品を買い取り最大97%オフで会員に販売
「KURADASHI.jp」が開設されたのは2015年2月。主に食品メーカーが、これまで廃棄品として処分していた余剰在庫商品をクラダシが協賛価格で買い取り、ECサイト「KURADASHI.jp」を通じて最大97%OFFで消費者(会員)へ販売するもので、売上の一部が社会貢献団体へ寄付される仕組みになっている。現在、医療支援団体、環境保護や動物保護の団体など、19団体を支援しており、これまでの累計支援総額は3821万1950円(2020年3月31日時点)となっている。
同社の設立は2014年7月。食品メーカーでは、当時すでに食品ロスに対する問題意識はあったものの、自社ブランドの毀損や取引先金融機関の目を心配し、(社販などの)クローズドマーケットや、ディスカウントストアルートを除けば、余剰在庫をECサイトのようなオープンなかたちで処分することには抵抗が強かった。
そのため、関藤社長は「トレーサビリティの担保、品質管理、ITによる手間のかからない販売手法などを、ジャブを打つようにコツコツ説明して営業をして回った」という。半年以上の時間をかけて、協賛企業を開拓、100社に達した時点でサイトをオープンさせた。
以来、5年余り、協賛メーカーは600社にまで増えた。食品や飲料・酒のほか、美容・健康、日用品・雑貨等、月間平均で500アイテム程を取り扱う。会員数は約8万9000人。そのうち65%が女性、残りの35%が男性だという。
2000から3000アイテム掲載する、社会貢献型「Otameshi」
一方、「Otameshi」の立ち上げは2017年7月のことだ。
「KURADASHI.jp」同様、運営会社のSynaBizが食品メーカー等から、処分価格に近い金額で在庫処分商品を仕入れ、「Otameshi」を通じて、一般的な販売価格の50~60%OFF程度で会員向けに販売し、売上の一部が社会貢献団体へ寄付される。これまでのところ、支援先団体は10、累計寄付金額は340万4907円(2020年6月4日現在)になる。
同社執行役員藤井厚氏は「もともと、アパレルや家電のデットストックを、B2Bで処分するビジネスを展開していた。ある食品メーカーから、食品でも同じような仕組みができないかと相談を受けたことがきっかけ」と語る。
当初は「ブランドが傷つかないように、クローズな仕組みにしてほしいという声があった」が、食品の場合、単価が安く、取引が相当量にならなければビジネスにはならないと同社では判断、自社のオープンな販売チャネルとして「Otameshi」を立ち上げることにした。大手食品メーカーに対しては、ブランドの毀損を心配するよりも、社会貢献企業として一面を訴求するほうが、これからの社会環境においては意義があるということを説いた。
「廃棄すれば費用がかかるし、ディスカウンター相手では買い叩かれる。それらに比べれば、通常の販売チャネルより安いとはいえ、メーカー側としてもメリットがある」(藤井氏)
月に1回以上取引のあるメーカー数は「数百の後半」(同氏)といい、食品、菓子・スナック、飲料・酒、美容・健康、日用品、ペット用品など、毎月、2000から3000アイテムが「Otameshi」に掲載されている。2019年12月には農林中金との業務提携を行ない、JAルートを通じて大手食品メーカーの在庫処分に関する情報も集まるようになった。新規の取引先開拓も順調に進んでいるという。
現在会員数は数万人規模、女性比率が圧倒的だ(約7割)。
同社で会員に対し、なぜ「Otameshi」を利用するのかを聞いたところ、「安い」と並んで「(食品ロス削減と社会貢献という)コンセプトに共感した」という声がトップだったという。「Otameshi」がテレビで取り上げられた際には、同社のサーバがダウンしたといい、それだけ社会から注目されているビジネスモデルということだろう。
OEMサイトとして、東京ガスの社会貢献型ECサイトも手掛ける
「Otameshi」モデルに対する関心は消費者だけのものではない。
東京ガスでは2019年4月から社会貢献型ショッピングサイト「junijuni sponsored by TOKYO GAS」を立ち上げているが、システムの裏側では「Otameshi」と連携しており、いわば「Otameshi」のOEMサイトだ。2020年3月には、東京ガスからの紹介で、東海地方を営業エリアとする東邦ガスも、同様スタイルで「junijuni sponsored by TOHOGAS」をスタートさせており、「Otameshi」モデルに対する認知度は確実に高まりをみせている。
新型コロナウイルスによる影響で、「KURADASHI.jp」、「Otameshi」への関心はますます高まるばかりだ。
「コロナ前の2月との比較で、4月の売上げは約2.5倍、会員数は4.5倍に増えている」(クラダシ広報担当者)
「もともと年率200%以上のペースで成長してきているが、コロナ感染拡大後は、従来比150%増だ」(藤井氏)
当面の目標として、クラダシでは「3年後の売上50億円」、「Otameshi」では「早期に売上100億円」を、それぞれ掲げている。