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大丸、松坂屋などで買い取り事業 J.フロントがコメ兵と新会社設立の周到な戦略

大丸、松坂屋、パルコなどを運営するJ.フロントリテイリング(以下、JFR/東京都/小野圭一社長)がリユース買い取り事業に本格参入する。3月にコメ兵(愛知県/石原卓児社長)と合弁会社を設立し、夏に買い取り店舗を開店する予定だ。リユース企業との合弁会社設立は百貨店業界で初めて。その経緯と狙いについて、プロジェクトを推進するJFRの事業企画部事業創造の担当メンバーに話を聞いた。

事業創造のパートナーとしてコメ兵に声を掛けた

パルコヤ上野の買取店舗
パルコヤ上野の買取店舗

 全国主要都市に百貨店15店舗、パルコ16店舗、GINZA SIXを展開するJFRと、ブランド・宝飾品リユースの国内最大手であるコメ兵ホールディングスグループの中核企業・コメ兵が合弁会社を設立する。声を掛けたのはJFR。きっかけは2022年3月に、事業企画部事業創造の前身である事業ポートフォリオ変革推進部が立ち上げられたこと。百貨店とパルコで売上と営業利益の7~8割を占めるJFRグループのポートフォリオを変えていくことをミッションとし、自分たちの強みを生かして何ができるか。3~4か月にわたって考え、出てきたアイデアの1つがリユースだったという。提案した下垣徳尊マネジャーが振り返る。

 「キャリアの大半を梅田大丸で過ごしてきた中で、大手リユースショップがブランド品・腕時計・ジュエリー・貴金属などの買い取り店舗を出店したことがあった。場所は、年間80万円以上のお買い上げをいただいている顧客が使えるラウンジのとなり。わずか2坪のスペースしかない店舗で、初月に想定以上の買い取り実績を残した。タンス在庫を整理したい富裕層のニーズを目の当たりにして、これを自社でやったらおもしろいと思った」(下垣マネジャー)

 周知のとおり、JFRが大丸・松坂屋百貨店で展開するのは富裕層を中心顧客とする小売ビジネス。多くの優良顧客の支持を得るために、質の高い商品を提案・提供してきた自負がある。加えてJFRではサステナビリティ経営を推進しており、その面での貢献が見込まれることも追い風となった。

 JFRではすでに大丸・松坂屋で不用になった衣料品などを引き取る「エコフ」、サブスクリプション型ファッションレンタルサービスの「AnotherADdress(アナザーアドレス)」といった環境負荷を低減する取り組みを実施している。しかし社会貢献はできていても、経済価値を創出するまでにはまだ至っていない状況という。「環境とビジネス、2つを両立させていくうえで、リユースは大きなポテンシャルを秘めていると思われた」と丸岩昌正部長。30~40案出てきた中から絞り込み、残った6案から最終的に選ばれた。

 コメ兵との合弁会社設立に向けた交渉を担ったのは徳橋修平氏。「リユース事業を展開するノウハウを持っていて、一緒に取り組んでもらえるパートナーを探していたところ、金融機関に紹介された」と明かす。そして2024年2月、丸岩部長とともに名古屋にあるコメ兵の本社を訪問して腹案を明かした。

 その時の感触を「しっかり前向きに受け止めていただけた」と話す徳橋氏。分析してみると2つの理由が考えられるという。1つは顧客連携のメリットだ。「リユース事業者から見ると百貨店の顧客はブルーオーシャンで、そこを取り込めることが魅力的に映ったのでは」。もう1つは出店メリット。「4~5年前からリユース店舗が百貨店に進出してきており、その中での展開拡大が見込めると判断されたのだろう」と推察する。双方のアセットを生かしつつ、双方に利益が生まれる。そのことをお互いに確認できた手応えがあったという。

 設立10年で売上100億円を目指す

 昨今、リユース買い取りの競争は激化している。新聞を購読している家庭には毎日のように買い取りの折込チラシが届き、身の回りの至るところに買い取りショップを見かけるようになった。そこで喫緊の課題となっているのが、質の良い買い取り商材を、どのようにして入手するかだ。「百貨店の顧客は、まだまだ開拓する余地があり、自分たちの事業を強化することにつながると判断してもらえたのではないか」と丸岩部長。つれない反応も予想していたものの、驚くほどの好感触だったという。

 事業展開の具体的な仕組みとしては、設立した合弁会社が買い取り専門店を大丸・松坂屋・パルコに出店し、顧客からリユース品を買い取る。その後、買い取ったリユース品をコメ兵に売却する。買い取り専門店は大丸・松坂屋・パルコと出店契約を結ぶため、合弁会社からJFRには賃料が支われる。合弁会社にはコメ兵がリユース品を買い取ることによる利益が生じる。コメ兵は合弁会社から仕入れたリユース品を再販し、GMV(流通取引総額)を拡大させられる。

 買取専門店のスタッフは、JFRとコメ兵の双方からの出向でスタート。百貨店で接客に携わってきたスタッフが研修を経て買取専門店で鑑定にあたる。「百貨店のスタッフには、そもそも接客・接遇のスキルが身に付いている。そこに加えて鑑定のノウハウと技術、ブランドの知識などをコメ兵の研修・人材育成プログラムで習得してもらう。それほど時間はかからず独り立ちできる見通しがすでに立っている」(徳橋氏)

 そのうえで、念を入れて、各店舗にかならずコメ兵出身のスタッフを配置。「間違いがないように、買い取り査定に必要なあらゆる情報やデータをコメ兵に提供してもらうことで信頼性を担保する」(丸岩部長)

 JFRグループのポートフォリオを変えるミッションを背負ってローンチされるリユース買い取り事業。合弁会社の設立から10年以内で100億円規模の売上を目指すという。徳橋氏は「グループ内の他の事業会社と変わらない売上にして、ゆくゆくはリユースが1本の事業の柱となるように、しっかり取り組んでいきたい」と力を込める。社内で取り組みの進捗を報告する中でも反応がよく、ビジネスチャンスと受け止められ、期待されているようだ。「百貨店の現場からも歓迎する声があがり、全社的に同じベクトルを向いて進められていると感じる」(徳橋氏)

全国にある大丸・松坂屋・パルコに出店

 百貨店ならでは強みを最大限発揮するために、外商部門との密接な連携も欠かせないと考えている。JFRの外商部門に顧客として登録されているID数は約30万。「店舗での買い取りに加えて外商のお客さまへの訪問買い取りも検討している」と下垣マネジャー。「外商部門のスタッフに、自分が担当するお客さまのためになり、自身の成果や実績にもつながっていくことを理解してもらい、協力体制を築いていければ」と期待を寄せる。

 2024年3月から5月にかけて実施した84日間の実証実験では、大丸神戸店に買い取り専門店を設置し、DMをはじめざまざまな手法でプロモーションを展開。約500人の利用があった。その8割近くが外商の顧客で、多くはリユース買い取りが初めてだったという。

 その後、夏から秋にかけて行ったマーケティング・インタビューでは、リユース買い取りに関して多く抽出されたキーワードが「安心感」「信頼感」だった。徳橋氏は「リユース業界でコメ兵は非常にしっかりした会社として認知されている。そこに百貨店の安心感、信頼感が加わればどうなるか。きっと支持を集められるだろう」と前向きな見通しを示す。

 下垣マネジャーは「買い取りによって入るキャッシュを元手に、お客さまがまた新しい買い物体験をしてくださる。そういったサイクルをつくれれば理想的」と語る。美術、呉服、宝飾、特選ブランドなどの売場スタッフがリユース買い取りの案内をすることで購買のハードルを下げ、背中を押すこともできるだろう。

 合弁会社の設立は3月。買い取り専門店の1号店は夏に開店。3~4年で23店舗の出店を計画する。JFRが全国に展開している百貨店とパルコは計31店舗。4分の3の店舗で買い取り専門店が展開されることになる。

合弁会社を立ち上げた意味はどこに?

左から、事業企画部事業創造の徳橋修平氏、下垣徳尊マネージャー、丸岩昌正部長、三輪集輝氏

 百貨店が展開するリユース買い取り事業には、三越伊勢丹と「なんぼや」を展開するバリュエンスホールディングスが協業する「アイムグリーン」などもあるが、あえて合弁会社を立ち上げる意味について、徳橋氏は「双方のノウハウを共有し、強みを融合させて、これまでになかった、まったく新しいものを創造したい」と話す。そして「スピード感をもって展開を広げていきたい」と意気込む。

 「これまでに経験したことがないビジネスモデルで、進める中で壁にぶつかることがあるかもしれない。しかし新しい事業を創造し、JFRグループのポートフォリオを変えていく取り組みとして、貴重なモデルケースとなることは間違いない。新しい潮流が生まれるきっかけになることを願っている」と三輪集輝氏は話す。

 3月の合弁会社設立に向けて、コメ兵と週20~30時間のオンラインミーティングを重ねる中で、下垣マネジャーが印象に残っているやりとりがあるという。「『お客さまからはできるだけ高く買い取りたい。私たちにはそういう文化があります。安く買い取ろうとするスタッフには指導が入ります』そう言われた」。そこで感じたのがJFRが社是に掲げる「先義後利」に通じる考え方であり、顧客第一主義、社会への貢献を目指す姿勢。下垣マネジャーは「親和性が高いことを再認識した」と話す。

 合弁会社は東京都千代田区に本社を置き、社名は「JFR&KOMEHYO PARTNERS」、屋号は「MEGRUS(めぐらす)」と発表された。資本金・資本準備金は6億円を予定。出資比率はJFR51%、コメ兵49%だ。世の中にどれほどの存在感を示し、どのように認知されていくか。注目が集まる。