大丸松坂屋百貨店(東京都/宗森耕二代表取締役社長)の外商部門は、コロナ禍前の2019年と比べても約30%の増収と、快進撃を続けている。牽引しているのは59歳以下の現役世代、「ニューリッチ」だ。デジタルを使いこなす情報通で、商品を見る目が肥えた彼らが、百貨店の価値を再評価し、外商に流入しているという。ただし、仕事に飛び回り、在宅時間が限られるニューリッチに対応するため、モバイルツールを活用した販促、チームでの来店型営業の拡充といった、新たな外商体制も構築している。
外商売上の49歳以下のシェアは約10ポイント上昇

大丸松坂屋百貨店の外商部門が好調だ。2024年の外商部門売上高(免税品除く)は、コロナ禍前の2019年に比べても、約30%のプラスになったという。全社売上高(GINZA SIX除く)に占める外商部門の売上構成比も、2019年は23%だったのが、2024年には27%と4ポイントもアップし、重要性が増している。
ところが、外商部門の顧客数(カード口座数)は、2019年から現在まで横ばいで推移しているとのこと。同社の外商部門を取り仕切る取締役兼常務執行役員営業本部長の加藤俊樹氏は、「つまり、お客さまお一人当たりのお買い上げ金額が、それだけ上昇しているということ」と明かす。
売上増は、円安による輸入品価格の高騰といった影響も考慮されるが、一方で、株価上昇などを背景に、「富裕層」も増加している。野村総合研究所の調査によれば、2021年の富裕層&超富裕層(純金融資産を1億円以上保有)は約150万世帯で、2019年から約16万世帯も増えたという。コロナ禍明けの「リベンジ消費」の流れも受けて、富裕層の消費意欲が依然、旺盛であることを示しているとも言えよう。
とりわけ、注目されるのが外商部門売上高における年齢構成比の変化だ。49歳以下は現在では約30%まで大きく拡大。50~59歳も、27%まで増加。反対に、これまで主力だった60歳以上は、現在では44%まで下がっている。つまり、顧客層が若返っているわけで、百貨店にとっては、喜ばしい兆候と言えよう。
加藤本部長は、「60歳以上のお客さまの売上が大きく減っているわけではなく、若いお客さまが入ってこられ、外商部門全体のパイが大きくなった」と説明する。
「百貨店は適正価格で安心」と、ニューリッチに見直される

では、なぜ若い富裕層が、同社の外商を利用するようになったのか。「ニューリッチはITも使いこなし、さまざまなネットワークから情報を得ている。そうした中で、専門店などの他業態と比べた百貨店の価値に、気づかれたのではないか」と、加藤氏は自信をのぞかせる。
若い富裕層には、企業や病院の経営者といった代々続く資産家も含まれる。「高級車や美術工芸品、高級時計、高級ブランドのファッションなどに囲まれて暮らし、目が肥えておられる」(加藤氏)。どんなブランドの人気や価値が上がっているのか、それらの商品価格の動向にも詳しいそうだ。
例えば、大丸松坂屋百貨店が得意とし、専任バイヤーも配置しているアートのカテゴリーで、ニューリッチからの評価が高まっているという。
「美術品の取扱いでは、真贋の鑑定が重要になるわけだが、当社には目利きがそろっていて、海外を含めた有名な画商とも長年の取引実績がある。さらに、美術品の価格は“あってないようなもの”と思われがちだが、市場では適正な相場がある。当社は、それに則った値づけをしているので、美術品に精通したお客さまほど、百貨店は信用でき、安心して買い物ができるとおわかりになると思う」(同)
ペットの誕生日にもプレゼント 凄腕外商のノウハウ
一方で、ニューリッチに対応するため、外商の営業体制は再構築も迫られている。
大丸松坂屋百貨店の外商も、「富裕層の邸宅を訪問し、顧客の好みに合わせ持参した高額商品を勧める」といった伝統的な営業スタイルが、これまでは主流だった。ところが、富裕層のライフスタイルも大きく変化している。現役世代のベンチャー経営者や医師といったニューリッチは多忙で、自宅にいる時間が限られている。
「ブランドストーリーといった商品説明は、今まで通り丁寧に行わなければならないが、“タイパ”を重視する方が多数派になっているので、顧客満足度を高めるためには、ニーズに即応するスピード、効率的なアプローチも求められる」(加藤氏)
そこで、活用されるようになったのがモバイルツール。自宅や職場に出向かなくても、いつでも顧客とコミュニケーションが取れる。外商部門でも、オンラインでの商談は10年以上前から導入されていたが、「非接触型営業」をせざるを得なかったコロナ禍が契機となって、本格的に普及した。2021年からは「LINE WORKS」の利用も開始。モバイルツールを使えば、マンツーマンのときよりも幅広い顧客とつながることができ、顧客データを集積・解析するにも便利だ。

大丸松坂屋百貨店の場合も一般顧客が一定以上の買い上げ金額に達すると、外商顧客としてカード口座を開くように勧めるが、口座開設に加え、現在では外商顧客専用サイト「コネスリーニュ」への登録を積極的に勧誘している。
大丸・松坂屋アプリの2024年8月末の有効会員数は約245万人だが、外商顧客のうち、アプリ会員なのは現在、約40%にとどまっている。シニアの外商顧客も依然、多いためだ。ただし、アプリ顧客かつコネス顧客の客単価は、いずれも非登録顧客に比べ客単価2.5倍と販促効果が断然高い。加藤氏は、「ニューリッチの割合が増え、世代交代が進む中で、外商顧客のアプリ会員も早期に100%にしたい」と意気込む。
ニューリッチは、仕事の合間に店舗を訪れるケースも多いため、2019年からは組織改編を断行、マンツーマンの営業を担う「自宅訪問型営業」(専任担当)と、6~8名のチームで顧客を担当する「来店型営業」(システム担当)に分けた。外商部門での来店型営業の売上構成比は、コロナ禍前は約25%だったが、2024年には約37%に上がっているという。
ただし、加藤氏は、「専任担当が長年培ってきたノウハウとスキルは、百貨店の外商の貴重な資産であり、差別化の源泉」と断言する。例えば、高齢で夫婦二人暮らしとなった富裕層の場合、“わが子”のようにペットを可愛がっているケースが多いのだが、「“ペットの誕生日”まで覚えていて、プレゼントを差し上げると非常に喜ばれ、“自分たちをよくわかっている”と、百貨店への信用がグッと高まる」(同)そうだ。
そこで、外商部門では経験豊富なトップセールスと若手の外商スタッフとでチームを組ませ、そうした独特のノウハウやスキルを伝承させることに余念がない。大丸松坂屋百貨店は、対面とモバイルのハイブリッドという「二刀流」で、外商部門のさらなる売上げ拡大を目指す。