コロナ前比3割増!新富裕層が満足する大丸松坂屋百貨店の「デジタル外商」
ペットの誕生日にもプレゼント 凄腕外商のノウハウ
一方で、ニューリッチに対応するため、外商の営業体制は再構築も迫られている。
大丸松坂屋百貨店の外商も、「富裕層の邸宅を訪問し、顧客の好みに合わせ持参した高額商品を勧める」といった伝統的な営業スタイルが、これまでは主流だった。ところが、富裕層のライフスタイルも大きく変化している。現役世代のベンチャー経営者や医師といったニューリッチは多忙で、自宅にいる時間が限られている。
「ブランドストーリーといった商品説明は、今まで通り丁寧に行わなければならないが、“タイパ”を重視する方が多数派になっているので、顧客満足度を高めるためには、ニーズに即応するスピード、効率的なアプローチも求められる」(加藤氏)
そこで、活用されるようになったのがモバイルツール。自宅や職場に出向かなくても、いつでも顧客とコミュニケーションが取れる。外商部門でも、オンラインでの商談は10年以上前から導入されていたが、「非接触型営業」をせざるを得なかったコロナ禍が契機となって、本格的に普及した。2021年からは「LINE WORKS」の利用も開始。モバイルツールを使えば、マンツーマンのときよりも幅広い顧客とつながることができ、顧客データを集積・解析するにも便利だ。

大丸松坂屋百貨店の場合も一般顧客が一定以上の買い上げ金額に達すると、外商顧客としてカード口座を開くように勧めるが、口座開設に加え、現在では外商顧客専用サイト「コネスリーニュ」への登録を積極的に勧誘している。
大丸・松坂屋アプリの2024年8月末の有効会員数は約245万人だが、外商顧客のうち、アプリ会員なのは現在、約40%にとどまっている。シニアの外商顧客も依然、多いためだ。ただし、アプリ顧客かつコネス顧客の客単価は、いずれも非登録顧客に比べ客単価2.5倍と販促効果が断然高い。加藤氏は、「ニューリッチの割合が増え、世代交代が進む中で、外商顧客のアプリ会員も早期に100%にしたい」と意気込む。
ニューリッチは、仕事の合間に店舗を訪れるケースも多いため、2019年からは組織改編を断行、マンツーマンの営業を担う「自宅訪問型営業」(専任担当)と、6~8名のチームで顧客を担当する「来店型営業」(システム担当)に分けた。外商部門での来店型営業の売上構成比は、コロナ禍前は約25%だったが、2024年には約37%に上がっているという。
ただし、加藤氏は、「専任担当が長年培ってきたノウハウとスキルは、百貨店の外商の貴重な資産であり、差別化の源泉」と断言する。例えば、高齢で夫婦二人暮らしとなった富裕層の場合、“わが子”のようにペットを可愛がっているケースが多いのだが、「“ペットの誕生日”まで覚えていて、プレゼントを差し上げると非常に喜ばれ、“自分たちをよくわかっている”と、百貨店への信用がグッと高まる」(同)そうだ。
そこで、外商部門では経験豊富なトップセールスと若手の外商スタッフとでチームを組ませ、そうした独特のノウハウやスキルを伝承させることに余念がない。大丸松坂屋百貨店は、対面とモバイルのハイブリッドという「二刀流」で、外商部門のさらなる売上げ拡大を目指す。




