島村楽器・廣瀬利明社長に聞いた「過去最高売上」連続更新の裏側_過去反響シリーズ
ECで楽器販売を開始して10年で20倍に成長
業績を振り返ってみると、未知のウイルスの脅威にさらされた2020年から2021年にかけては店舗での営業ができなかった期間がたびたびあり、売上減となった。しかし、その後は2年連続で過去最高売上を更新した。売上高を見ると、2020年2月期386億円、2021年2月期360億円、2022年2月401億円、2023年2月432億円。廣瀬社長は反転攻勢に転じた裏側を次のように分析する。
「コロナ禍での巣ごもり需要の追い風で楽器販売が伸びたことは一つの要因としてある。しかし、それ以前に着手していた、さまざまな施策の効果が総合的に表れてきた成果だと受け止めている」(廣瀬社長)
その一つが自社オンラインストアをはじめとするECでの楽器販売だ。しかし楽器選びにあたっては、体型、扱いやすさといった楽器との相性、音の好みなどがあるため、店に行って直接触れるほうが判断しやすいはずだ。ECでの展開は難しそうに感じられ、オンラインストアを運営するにも工夫が必要と思えるが、どのように取り組んでいったのだろうか。
「確かに私が社長になった10年前は、島村楽器ではECに力を入れていなかった。なぜかというと、やはりしっかりと接客し、店舗スタッフが提案・アドバイスし、演奏して音を出して、その上でお買い求めいただくことこそが顧客が求める楽器店の姿だという考え方でやっていたから。しかし実は当時から楽器のEC市場は拡大しつつあり、売上を大きく伸ばしている競合店の話も複数聞いていた。確かに対面で接客してこそという考えがあり、ECから距離を置いていたが、もはやそういう時代ではないと判断し、踏み込むことにした。工夫したのは、何も特別なことではなく、商品情報を充実させること。掲載画像の充実もそうだし、音の特性を細かく解説することにも力を入れた。何よりも品ぞろえが少ないとお客さまをがっかりさせてしまうため、ラインナップの充実にも当然のこととして取り組んでいった。島村楽器の場合は、店舗の在庫が出店地域や顧客層の違いでそれぞれ異なり、特徴がある。それらを積極的にECのサイトにアップし、バラエティに富んだ商品を取りそろえることで、好調な売れ行きにつながっている」(廣瀬社長)
数字で示せる成果では、ECでの楽器販売をスタートした当初と比べて10年で約20倍になったという。ECでの展開においても、強く意識しているのは「提案すること」で、売上好調の理由もそこにありそうだ。
後編では、EC以外にも新たな取り組みを積極的に行う同社の戦略をまとめている。