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経常利益はコロナ前の3倍!ラウンドワンに行きたくなる“2つ”の戦略とは

屋内型複合型アミューズメント施設「ROUND1(ラウンドワン)」を運営するラウンドワン(大阪府/杉野公彦社長)。ボウリング・アミューズメント(ゲーム機など)・カラオケの3業態に、2004年から展開するスポーツを中心とした時間制の施設「スポッチャ」を加えた4業態の組み合わせが特徴で、とくに10代、20代の若年層にとっては地域の定番レジャースポットとして不動の地位を確立している。

国内のみならず米国での事業も好調で、新型コロナウイルス禍のピンチを乗り越え大幅に業績を伸ばしているラウンドワン。その好調の秘訣と今後の展望を、同社取締役 管理本部長の岡本純氏に聞いた。

コロナ禍前と比べて総売上は1.5倍、経常利益は約3倍に

スポッチャ ※写真はイメージ

 ラウンドワンの2024年3月期決算は、総売上が1591億円(昨対比12.1%)、経常利益が243億円(同45.7%)。同社の好調ぶりが数字にも表れている。

 新型コロナウイルス禍に入る直前の2020年3月期(総売上1047億円、経常利益87億円)と比較すると、総売上は約1.5倍、経常利益は実に約3倍に増加。さらに経常利益率(15.3%)もコロナ前(8.3%)の倍近くに上昇している。この利益率は、アミューズメント業界の同業種であるバンダイナムコHD(8.6%)、セガサミーHD(12.1%)、第一興商(12.7%)などと比べても高い数字だ。

 好調を支える要因は何だろうか。大きく国内と海外(主に米国)に分けてそれぞれ見てみよう。

 国内事業(2024年3月期決算)は、総売上979億円、経常利益138億円。2020年3月期(総売上842億円、経常利益88億円)と比較すると、売上、経常利益ともに堅調に増加している。

 ただ、国内の店舗数は100店舗(20243月現在)で、ここ数年は大きな変動はない。

国内事業を牽引する「ギガクレ」と「推し活」

ギガクレーンゲームスタジアム ※写真はイメージ

 では、なぜ数字が伸長しているのか。その要因は大きく2つある。

 1つは、クレーンゲームの改装によるテコ入れだ。ラウンドワンのクレーンゲームは、もともと1店舗あたり100台が通常だが、その約3倍の300台規模の「ギガクレーンゲームスタジアム(ギガクレ)」を約75店舗で導入している。この「ギガクレ化」を果たした店舗は、軒並み業績が向上している。

 普段、アミューズメント施設に縁がない人にとっては「クレーンゲームがなぜそこまで人気なの?」と驚くかもしれない。しかし、岡本氏によると「2005年までクレーンゲームの景品売上はアミューズメント事業の約20%だったが、コロナの直前の2019年ですでに50%台まで高まっていた」という。

「この約20年の間に、景品のIP(Intellectual Property:知的財産)としての価値が変わった」と岡本氏は語る。

 20年前は、クレーンゲームの景品といえばテレビアニメのキャラクターが主流だった。アニメ放映期間の前後数カ月間は売れるものの、放映が終わるとキャラクター自体はアップデートされないため、おのずと売上は減っていく。

 一方で、今日ではネットフリックスやAmazonプライムなどの動画配信サービスが普及し、繰り返し視聴するファン層も出てきた。また、レアな景品をメルカリなどのCtoC市場で売買する動きも見られるようになった。つまり、キャラクターのIPとしての価値が長寿命し、流行り廃りに左右されにくくなっているのだ。

 さらに、YouTubeやSNSを通じてクレーンゲームの「裏ワザ」といった攻略法を紹介する投稿が増えたことも、ラウンドワンへの集客を後押ししている。このように、クレーンゲームを取り巻く状況が大きく変化したことで、今やクレーンゲームはラウンドワンにとって最大のキラーコンテンツとなっているのだ。

日向坂46とのコラボ企画

 国内事業における、もう一つの好調の要因は「推し活」だ。

 ラウンドワンの公式サイトを見ると、アイドル、アニメ、Vtuberなど各種コンテンツとのコラボ企画が数えきれないほど並んでいることに驚かされる。

 一昔前のラウンドワンといえば、10代、20代の若年層が夜通しカラオケやスポッチャを楽しむ施設のイメージが強かった。ところが、今日の若年層にとっては、1人でも来場し、オリジナルのコラボグッズを手に入れる「推し活イベント」の場として定着しているのだ。

「みんなで集まってカラオケやスポッチャを楽しむ、定番の施設利用の需要も一定数はあるが、それだけに頼っていると来場者数は伸び悩んでしまう。その中で、『推し活』が新たな体験価値を創出し、集客につながっている。『推し活』需要は1人当たりの単価も高いので、収益向上にも寄与している」(岡本氏)

円安・インフレを追い風に米国事業が絶好調

米国44号店のペンブロークレイクスモール店(フロリダ州)

 一方の海外事業に目を向けると、とりわけ近年では米国での業績が爆発的に伸びている。2024年3月期の米国での総売上は595億円、経常利益は112億円。経常利益率は18.9%と国内事業(14.1%)よりも高い数字だ。

 店舗数も年々増えており、2016年は9店舗、2018年には21店舗だったが、2019年には32店舗、2024年には50店舗と、国内事業とは対照的にかなり積極展開している姿勢がうかがえる。

 利益率が高い要因として、岡本氏は「コロナ禍が明けたときに、初期コストを回収し終えて利益が一気に顕在化したのが大きい」と語る。ラウンドワンのビジネスモデルは、先に施設や設備の初期投資を行い、利用料金などの売上で回収するもの。コロナ禍の間でも積極出店を続けていたことで、コロナ禍が明けて集客が回復すると、コストを一気に回収し利益が積み上がる構造になっていたのだ。

 もう一つ、外部要因として大きいのは昨今の円安とインフレだ。「インフレ環境で値上げも積極的にできるようになった。値上げは1.4倍、かつ為替レートも1.3倍くらいになっているので、利益水準は2倍以上に伸びている」(岡本氏)

 さらに、米国は出店しやすい環境が整っていることも積極展開の追い風となっている。主な出店用地はシアーズ、メイシーズ、J.C.ペニーといった大手百貨店の跡地が多いという。

「百貨店跡地は、大きなところでは面積が約3000坪ある。当社としては1400坪くらいあれば出店できるので、全部または一部のフロアをお借りすることで一気に出店数を伸ばしていくことができた」(岡本氏)

日本食の魅力を海外に発信「ラウンドワンデリシャス」

 米国への初出店は、さかのぼること14年前の2010年。リーマンショックが起こった2年後にあたる。当時から危機感を抱いていたのは、ターゲットである10代、20代の国内人口の減少だった。

「それ以前は、ボリュームゾーンの団塊ジュニア世代が30歳以下で、その恩恵を受けていた。しかし、今後は人口が減少するのはわかっていたので、将来の種まきとして自社が成長できる地域を探さなければいけないという課題感の中で米国に注目した」(岡本氏)

 米国への出店は、今後も年間10店舗のペースで伸ばしていく方針だ。一方で、中国やロシアにも出店しているが、ロシアはウクライナ情勢を受け事業を撤退、中国でも深圳エリア以外の店舗は苦戦している。「まずは中国全土として展開できるだけの経済が回復するかどうかを見きわめる時期」と岡本氏は慎重な姿勢を見せる。

「将来の種まき」は、他にもある。

 2025年夏のオープンに向け米国で準備を進めている新たな事業が「ラウンドワンデリシャス」。ラウンドワンにとって初めての本格的な飲食事業だ。

「さまざまなジャンルの『本物の日本食』を味わうことができる」をコンセプトに、鮨、日本料理、中華、創作(イノベーティブ)、焼鳥、天ぷらなどを組み合わせて1つのレストランユニットを形成するもので、銀座「しのはら」をはじめ、日本国内で「食べログ」の評価が4.5を超えるような高級レストランのラインナップを揃えた。職人を含む従業員はラウンドワンが直接雇用。年収1500万円の条件を提示して積極採用を行っている。

「米国での出店ノウハウを蓄積してきたので、そのノウハウを活かして飲食店の皆さまの海外展開を後押しするとともに、日本の食のコンテンツの魅力を伝えていきたい」

 将来のターゲット人口の減少を見すえ、国内では新たな来店動機を促すコンテンツのテコ入れ、国外では米国市場での店舗展開という2つの戦略を推進してきたラウンドワン。この戦略が、アフターコロナのフェーズとなった今、着実に実を結んでいる。勢いはしばらく続きそうだ。