中部エリアを基盤とする三洋堂ホールディングス(HD)傘下の三洋堂書店(愛知県/加藤和裕社長)は2024年2月より、既存店の「スマ本屋三洋堂本新店」(豊田市)の夜間営業(午後9時~翌午前10時)を無人に切り替え、24時間営業している。顔認証システムのみの無人営業は日本初。書店減少が止まらない中で、あえてリアル店舗の存続にこだわる同社の戦略から、書店の生き残り策を探る。
減少を続ける書店数は1万件を割る
書店を取り巻く環境は厳しい状況にある。若者の本離れ、EC浸透による書籍購入リーチのネットシフト、それに伴う紙の書籍ニーズの低下がその大きな要因だ。
もともと、書店経営は薄利のビジネスモデルであり、多くの来店者がいることでなり立つ側面も大きかった。それだけに、環境変化は直接ダメージとなり、書店、特に街のちいさな本屋を直撃している。
日本出版インフラセンターのデータをみると、2024年3月時点の書店数は1万918店。10年前との比較では約4600店が消失している。
とくに売場面積49坪までの小店舗では減少が著しく、10年前の5598店から2024年3月時点で3789店と約1800店も減少している。
24時間化を実施する2つの狙い
三洋堂書店の店舗24時間化は、こうした潮流に抗う、同社の生き残り戦略の一環だ。業態開発室の加藤正康氏が説明する。
「三洋堂書店は、2018年からセルフレジを導入。さらにスマートフォンからのアクセスに適した『三洋堂サイト』と連携したネットで注文、お店で受け取りができる『スマ本屋』を展開している。この利便性を高めるために、営業時間を伸ばすことで、時間を気にせず新しい“ほんとのであい”をお楽しみいただけるものと考えている。経営的にも人件費を抑えられるため、利益増につながると見込んでいる」
書店の24時間営業は、都内でも山下書店大塚店、同世田谷店(夜間は無人営業)が実施している。そうした中で、中部地区を基盤とする同店の「スマート無人営業」は、国内の書店で初めて顔認証のみで入店可能にした点が特長となっている。
「一般的に無人営業をする場合、SNSを活用した事前登録が必要。当社では、それでは利用のハードルがあがると考え、顔認証だけで入店できるようにした」と加藤氏は、事前登録をなくした理由を明かす。
無人店舗ではセキュリティ面の懸念から、事前登録を強めにしがちだ。だが、同社ではそれよりも使いやすさを優先。独自の入店システムを採用し、リアル書店のポテンシャルを探る道を選択した。
無人化、24時間化の成果は ?
夜間の無人営業を組み合わせた24時間営業を実施して約3か月。早くも成果につながっている。加藤氏によれば、4月の前年同月比で売上は約5%アップしたという。営業時間を伸ばしたとはいえ、必要最小限のコストしか投下していないことを考えれば上々だろう。
利用時間の傾向は、通常営業の開始数時間前と終了したあとの数時間が多いという。この結果から、本屋で本を買いたかったが、店舗が閉まっていたことで購買機会を消失させていたことが伺え、「スマート無人営業」がまさにそうしたニーズをすくい上げることに成功したといえる。
本はいまや、アマゾンを筆頭にECでいつでも、手軽にすぐに購入できる。だが、思い立ったその時に、実物を買えるメリットは本好きにとってはECとは比較にならない魅力だろう。
実際、24時間の無人営業店舗利用者には、深夜帯になってようやく自由時間を確保できた人がゆっくりと実物を手にしながら購入するケースもあるという。欲しい本を見つけたが、書店は営業が終了している。しかし、買うなら実物を手に取って確認したいというニーズはしっかりとある。
無人によるトラブルは発生していないのか
上々のスタートとなった同店舗だが、課題はないのか。「今のところトラブルはないが、万一発生したとしても、対応は事後になってしまう。その部分は試行錯誤していくことになると思う」(加藤氏)
通常なら店員がいる店舗を、顔認証だけで入店可能にする同社の無人営業時間帯。万引きリスクも懸念されるが、仮にそうしたことが多発するとなれば、対策コストが必要になる。それでは利益を伸ばすという目的を阻害することになり、継続は困難になるだろう。その意味では、本当に本を愛する人が健全に利用することで成り立つビジネスモデルといえ、利用者にも健全な意識が求められる。
無人店舗が切り拓く可能性
書店減少については、3月に齋藤健経済産業大臣が、「書店は、日本人の教養を高める重要な基盤で、書店に出かけることで新しい発見があり視野も広がる」として、地域の書店の振興プロジェクトチームを立ち上げ、書店支援に乗り出すことを表明している。
日販は溜池山王に無人書店「ほんたす」を出店。その理由として、「人と本のタッチポイントが必要」と明かしている。
書店の減少傾向は止まらないが、本をめくる手触りが好きという読書家もまだまだ多くおり、ニーズ自体が減衰しているわけではない。本をつくる出版業界も苦境にあるなど、取り巻く環境は総じて厳しいが、工夫することでニーズを呼び覚まし、ファン化する余地は間違いなくある。