長く愛され続けるブランドにも紆余曲折はある。ファンケルグループで、1989年に誕生し今年で35周年をむかえる化粧品ブランド「アテニア」を展開するアテニア(神奈川県/保坂嘉久社長)は2007年まで順調に業績を伸ばしたものの、2008年から2013年にかけて下降トレンドに陥った。しかし、2014年からV字回復を遂げ、現在も上昇トレンドにある。ファンコミュニティを巧みに活用するそのブランド戦略について、アテニア事業戦略本部の春田康児氏に話を聞いた。
2008年から2013年にかけて、厳しい時期を経験したアテニア。「高品質なものを適正価格で届けるというコンセプトで順調に伸びていたが、リーマンショックを境に世の中の流れが高価格帯と低価格帯に二極化した。中価格帯の当社商品は苦戦した」と、アテニア事業戦略本部の春田康児氏は分析する。
2014年に改めて原点回帰を決めた同社は「一流ブランドの品質を3分の1価格で提供することを目指します」というメッセージを明確に打ち出し、顧客へ向けて発信していった。また、ベンチマークを百貨店コスメなどのハイブランドに設定し、社内の意志統一を図った。
その結果、2014年以降アテニアはV字回復を果たした。直近はコロナ禍や数年間のインバウンド消失などの影響はありながらも、中長期のトレンドでもV字回復を続けている。好調の要因は、原点回帰で掲げたメッセージを頑なに守り続けているからだ。
「一流ブランドの品質であることに非常にこだわっている。新商品は展開する前に必ずブラインドテストを実施。自社商品と他社のハイブランド商品を、名前を伏せて使ってもらい、ハイブランドに負けない評価であることを確認している。また、3分の1の価格を実現するため、CMなどの大々的な広告展開や著名な芸能人の起用などは最小限に抑えている」(春田氏)
適正価格の厳守が最優先
大々的な広告展開をしない同ブランドを、消費者はどのように知るのだろうか。
「大きく2つのパターンがある。1つは子どもが生まれるまで百貨店コスメなどを使っていた人が、自分に使うお金が減っていく中で、ネットで品質が高く適正価格の化粧品を探してアテニアを見つける。2つめはこれまではドラッグストアなどで気軽に買えるスキンケア商品を購入していた人が、年齢を重ねて肌の悩みが顕在化し、ネットでアテニアと出会うという形だ」(春田氏)
同社が高品質適正価格にこだわるのには理由がある。実は、アテニアの創業自体が、社会における問題意識から始まっているのだ。アテニアが生まれた1989年当時は、スカーフが非常に人気で、横浜でよく催事が行われていた。アテニアの創業者が催事に出向いた際、同じ生地が使われたスカーフでも、ブランドによって価格が大きく違うことに気づいたのだという。
「世の中の価格づけは女性にとっていい状態ではないという問題意識から、アテニアは生まれた。そのため、適正価格を守ることはビジネスの収益をあげること以上に重要だという認識がある」(同)
ファンコミュニティの声からヒット商品を開発!
アテニアの特徴は、通信販売を主力としたダイレクトマーケティングのモデルだ。開発から製品を届けるところまで一貫して行う製販一貫体制をとっている。
「より顧客を理解して商品開発ができるのがダイレクトマーケティングの良さだ。2015年からはファンコミュニティの運営を開始、現在は20万人以上にまで成長している」(春田氏)
ファンコミュニティは公式ECサイトと別のサイトで、毎月さまざまなトピックがあがり、会員同士が直接コミュニケーションを取ることもできる。同ブランドのヒット商品である『ドレススノー』は、ファンコミュニティの声から生まれた。
「世の中の化粧品は美白系と、シワ改善などのエイジングケアに二極化している。どちらを優先したらいいかわからず選ぶのがストレスだという意見があった。当時、美白商品の開発を考えていたが、美白とシワ改善の両方を叶える商品として『ドレススノー』を開発した」(同)
顧客の抱えているインサイトに響くよう「私は選ばない。どちらも欲しい」というメッセージをプロモーションとして展開した。『ドレススノー』はここ数年のアテニアの売上を大きく牽引するヒット商品となった。
また、2024年2月には35周年記念として、顧客とのコミュニケーションを深める仕掛けを考えているという。「第1弾として考えているのは、アテニア創業のきっかけになった横浜スカーフの限定販売。香りをテーマにしたイベントも計画中だ」(同)
35周年を迎え、順風満帆のように見えるアテニアだが、実は課題も抱えている。「広告展開を最小限にしていることで、認知度が非常に低い。そのため、化粧品専門店への展開を拡大することでオフラインでの顧客との接点チャネルを作っていくことを考えている。また、Amazonや楽天などの大手ECモールなどへの展開も強化していく。それと同時に、改めてブランディングにも力を入れていきたい」(同)