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厚労省が誓約書を要請……阻止できなかった登録販売者「不要論」のウラ事情

厚生労働省の「医薬品の販売制度に関する検討会」(販売制度検)に登録販売者(登販)を代表する組織として参加していたのは、全日本医薬品登録販売者協会(全薬協)と日本チェーンドラッグストア協会(JACDS)の2人の委員。JACDSは登販という専門家の新設によって、出店攻勢に拍車をかけたという背景もあって、応援団としての責務を負っていた。しかし登販不要論に対して、明確に「反対」を唱えることはなかった。なぜか──。
本稿は全6回からなる短期集中連載「忍び寄る登録販売者『不要論』」の第3回です。

mediaphotos/iStock

厚労省の提案に“満更でもない”JACDS

 登販制度に詳しい関係者が声を落とし解説する。「JACDSは専門家を置かない受渡店舗に絶対反対ではない。それは効率化を図れるからだ」と。登販の大量採用によって店舗拡大してきたドラッグストア(DgS)業界だが、それでも充分な人員配置にはコストがかかる。開店時間中のすべてで常駐を確保するとなれば、1店舗に「最低でも2人」、実際には「5~6人程」、またはそれ以上の登販が必要となる。正社員とパートタイマーを組み合わせて常勤体制を整えても、急な欠勤などで「時間帯によっては登販がいないこともある」のが現状だ。

 さらに、登販手当は月額1万5000~2万円程度が大体の相場という。一時、採用が困難だった地域では、手当が「月額8万円」にまで高騰した時期もあったようだ。つまり雇用コストを考えれば、JACDSとしても厚労省の提案は“満更でもない”といった本音も見え隠れする。第6回の販売制度検でJACDS代表が「資格者が不在で販売できない時間帯」における実証実験を提案したのは、こうした理由からだ。

 一方、登販の業界団体は2つが並立するという特殊事情が横たわる。全薬協のほか日本医薬品登録販売者協会(日登協)が共存する。日登協はJACDSとは“兄弟関係”のようなもの。DgSに勤務する登販の約5万人が在籍し、会長には元「薬ヒグチ」社長でJACDS副会長の樋口俊一氏(ファーマライズ顧問)が就いている。すなわち、JACDSと日登協は行動をともにする“運命共同体”と見られている。

 対して全薬協は、登販の前身ともいえる「薬種商販売業」の経営者団体だった「全日本薬種商協会」が解消発展した組織。薬種商というのは、個人にではなくその建物=薬店に許可を与えるというのが、制度の建付けだった。2009年の改正薬事法で、薬種商が悲願としていた「許可と資格の分離」を果たし、店舗許可から個人資格である登販に移行した経緯がある。このとき、当時の薬種商協会の会長が「DgS寄りの運営」などと会内からの非難を受け、組織の分断に至った経緯がある。すなわち、過去のいきさつから登販の業界団体は、旧薬種商からの全薬協と、DgS勤務が中心の日登協のふたつに分かれているのだ。

日登協の「絶対反対」意見表明にJACDSが「待った」

 登販制度の面倒な歴史のなかで、今回厚労省検討会に招聘されたのは全薬協のほうだった。日登協の参加も検討されたようだが、行政側は「JACDSの下部組織」と判断し、すでに存在感が低下していた全薬協に白羽の矢を立てた格好だ。しかし、業界団体間のポジショントークから遠ざかっていた全薬協関係者が、厚労省検討会で海千山千の官僚や医師会などと渡り合うのは“酷”だった。オブラートに包まれた登販不要論に、敏感に対応できなかったとしても責められない。

 その傍ら、日登協の一部幹部は早い段階で不要論に危機感を抱いていた。彼らは検討会で「絶対反対」を意見表明するため準備を進めていた。「職能団体としてここで断固反対しておかないと、後々会員に対して示しがつかない」(日登協幹部)という想いが強かったようだ。3回目の会合辺りで参考人として出席し、「反対」意見を表明する段取りまで付けていた。ところが“身内”のJACDSから「待ったがかかった」という。DgS側の経営効率といった“大人の事情”によるものだった。

 結局、日登協は、厚労省に意見表明への「見送り」を伝えた。すると厚労省の担当課長が「今後、反対意見を出さない」といった“誓約書”を日登協側に求めてきた。後から再度、反対意見の表明を蒸し返されるのを警戒し“保険”をかけたようだが、行政の行動としてはあまり誉められたものではない。言質の取り方がいやらしい。

 日登協は樋口会長名の誓約文書を「仕方なく、厚労省に提出した」(関係者)。その後、検討会議論がより登販不要論を容認していくなかで、日登協は再び「反対意見」の提出を試みたものの、会長名の誓約文書を盾に突っぱねられている状況だ。

 これらが、登販不要論が跋扈してしまっている要因だ。JACDSの田中浩幸事務総長は10月20日の記者会見で「検討会の場で登録販売者が『いりませんよ』という話の展開にはなっていない」などと説明し、不要論そのものを否定して距離を置く。そして、議論は波風立てずに着地した。しかし30万人にも上る、現場で働く登販からすれば“当事者不在”のまま議論は進んだように映る。やるせない想いを抱く登販は多いことだろう。(つづく)

●連載「忍び寄る登録販売者『不要論』」
第1回 忍び寄る登録販売者「不要論」 新資格に突き付けられた最大の危機とは
第2回 JACDS代表も反対せず…厚労省検討会で露になった登録販売者「不要論」