2023年8月、東京ビッグサイトにて、第23回目の「JAPANドラッグストアショー」(以下、ドラッグストアショー)が開催された。日本チェーンドラッグストア協会(以下、JACDS)が毎年開催しているドラッグストアショーは、健康や美容、生活に役立つ情報や、セルフメディケーションを担うさまざまな商品が集結するアジア最大級のドラッグストアの展示会だ。業界関係者だけでなく、一般来場者も注目のイベントで、今年は3日間の開催で約5万9000人を動員したという。今回は現役ドラッグストア店員がドラッグストアショーに参加し、そこで感じた気づきをまとめてみたい。
ドラッグストア資格者の活躍拡大と認知度低迷の現実
JACDSでは、「薬剤師」を薬事の専門家としてその重要性を強く認識している同時に、「医薬品登録販売者」の資質向上と活躍の場の拡充をめざしている。医薬品を扱う医薬品登録販売者として、信頼と安全性に直結する資質向上は大切な要素である。
しかし、それ以上に力を入れるべきは「医薬品登録販売者という資格の認知度向上」ではないだろうかと筆者は考える。業界に携わらない一般の方の多くは、ドラッグストア資格者と聞いて「薬剤師」が思い浮かぶと思う。しかし、「医薬品登録販売者」はどうだろうか。「医薬品登録販売者」は2009年に薬事法(現在の薬機法)が改正された際に生まれた資格だが、誕生から約14年経った現在でも十分に浸透したとは考えにくい。実際に売場でのやりとりで「薬剤師の人いますか」『薬剤師は在籍しておらず登録販売者ならいるのですがそれでもよろしいですか』「……?」と、スムーズなご案内にうつれないこともしばしばだ。
現在、ドラッグストア業界には、約13万人の医薬品登録販売者が従事している。今や医薬品登録販売者は業界を支えるほどの存在となっているが、その活躍と認知度がかけ離れている現状が続いている。お客さまからの「薬剤師ではないがよくわからない薬に詳しい人に市販薬をすすめてもらって薬を買っている」という曖昧な認識が続くのは、業界全体にとってよくない傾向だと筆者は考えている。
ではこの状況をどう改善していくのか。改善案の1つとして、ここでは10月6日の「登録販売者の日」を業界全体でアピールしていくことを提案したい。この「登録販売者の日」は、登録販売者の認知度向上のため、JACDSが日本記念日協会に登録したれっきとした記念日である。
たとえばこの記念日を使って「10月6日は登録販売者の日セール」のように広告と結び付け、年に一度、お客さまがしっかり認識してくれる機会をつくってみてはどうだろうか。会社の垣根をこえ、多くのドラッグストアが実施することが叶えば、長年低迷続きだった医薬品登録販売者の認知度も良い方向へ変わっていくのではないだろうか。
記念日を制定して終わりだったように思える記念日制定活動も、これからの始まりとして動きがきっと見えてくるだろう。医薬品登録販売者という資格を、生活者の馴染みある資格のひとつとして意識されるまで必要な取り組みだと思うので、関係者の方がご覧になっていたらぜひ検討していただきたい。
市販薬の濫用問題にも踏み込んだ取り組みを
市販薬の濫用問題にも、もう一歩踏み込んだ対応を期待したい。
昨今、濫用のおそれのある市販薬を大量に服用することによる中毒が大きな社会問題になっている。ドラッグストアでは、濫用問題への取り組みとして、資格者による使用頻度・購入頻度の確認や、濫用のおそれのある成分を含んだ商品をレジでチェックできるアラートシステムを導入するなど、業界全体で医薬品の適正使用の働きかけを行っている。JACDSでも、「10代の若者による濫用問題」を採択し、引き続き若者による濫用問題に取り組んでいくとまとめている。
しかし、現場に立ついち店員の所感としては、濫用(もしくはそのおそれ)の問題は若者だけに留まらず、ご年配を含む幅広い年代で日々確認できるように感じる。レジシステム導入や資格者の声掛けにより、よい傾向が見えたように思えるが、根本的解決には至っていない。現在の取り組みだけでは、複数の店舗をハシゴして濫用のおそれのある医薬品を買い求める行動を止めることは難しく、資格者からの使用・購入頻度確認も基本的にお客さまの自己申告を尊重するため、虚偽の申告をすれば容易に複数買うことができる状態となっている。
あくまで個人的な意見だが、濫用問題に本格的に向き合い、撲滅をめざすには、法改正や濫用のおそれのある成分を市販薬で使用しない(処方箋のみにとどめる)といった方法をとるしかないのではないだろうか。「濫用をしたい人がしたくても現実的にできない」くらいの厳しいルールを作り上げる必要があるように思う。
薬物依存者の一部が危険ドラッグから市販薬へシフトしたという話も聞こえるようになった今、早急な対応とルール改正が必要だと強く訴えかけたい。
ドラッグストアショーは毎年開催を重ね、いまや健康と美容の最先端をゆく、最大級のヘルス&ビューティケアショーとなっている。しかし、ドラッグストア資格者の認知度不足や誤った薬の使い方によるリスクの周知といったことまで情報が発信できているかと言われると改善の余地があるように見える。生活に彩りを添えてくれる華やかな一面だけでなく、それらを支えるドラッグストアの仕組みやルールといった側面も伝えられるようになれば、よりよいかたちでのドラッグストアショーになるのではないだろうか。