生鮮食品を主体とした地域密着型のスーパーマーケットであるスーパーナショナル(大阪府/中村健二社長)は、大阪市内に128坪~300坪の中小型の12店舗を展開する。
10月から消費税率の引き上げ、軽減税率、キャッシュレス決済時の還元施策など、消費者の購買行動に直結する仕組みが変わり、現場での対応が急務となっている。今、現場で起こっていることを中村社長が語った。
※本記事は、10月23日に行われた流通3団体スーパーマーケット統計調査記者発表会での中村社長の発言をもとに構成しました
キャッシュレスで先行するドラッグストア
含め競争激化で危機感
「ドラッグストアチェーンのほとんどがPayPayを利用することができるようになった。消費者の目線に立ったときに、キャッシュレス決済時のポイント還元の効果が大きいので当社でも導入を決めた」とPayPayを選んだ理由を中村社長は話す。
スーパーナショナルは7月にPayPayを導入。大阪市内でドラッグストアの新規出店が増えていることもあり、競合との“還元合戦”に遅れをとらないための早期の導入だった。中村社長は「昨年までは、同業の食品スーパーとの競争を想定していたが、今年からはドラッグストア企業を含めた異業種の競合も意識して販促施策などで新たな一手を打つ必要がある」と危機感を隠さない。
思わぬ課題が浮上
「10月からは軽減税率の導入や、大阪市内共通のプレミアム商品券などもあり、現場では、オペレーションが煩雑化している。レジ精算にかかる時間が長くなっている現状があり、対応を検討しなければならない」(中村社長)。
同社では、キャッシュレス化によって現金払いは減少しているものの、新たな課題が浮上してきている。たとえば、プレミアム商品券で代金を支払う場合、レジ担当がお客から商品券を冊子ごと受け取り、利用する金額に応じてレジで切り離すという作業が発生する。
また、PayPayでの支払いに関しては、同社では(システムが)レジと連動していないユーザースキャン方式のため、利用するお客はQRコードを読み込んだ後に購入金額を自身で入力する必要があり、精算に時間がかかることが多い。将来、PayPayの利用が拡大した際にレジ待ち時間の増加が懸念されている。
キャッシュレス化のメリットは、スピーディーな支払いのはずだが、現時点では効果的に活用できていないことがうかがえる。レジと連動したストアスキャン方式の採用も一つの案だが、今までかかっていなかった手数料が発生する。そのため、クレジットカード並みに手数料が下がってから検討したいと慎重な姿勢を見せている。
申請しても運用できず
「キャッシュレス決済におけるポイント還元のための申請が受理されたのは、9月28日だった。現在、当社におけるポイント還元の対象決済手段は、PayPayだけだ。自社電子マネーの『ナショナルプリカ』も申請中だが、許可が下りる見通しも立っていない」(中村社長)
同社のように、9月6日の期限内に申請を出していても、10月1日までに許可が下りず、今後の見通しが立っていない企業は少なくない。そうした企業のなかには、すでに店頭でポイント還元を実施するという告知を行ってしまっているため、企業自身がポイント還元分の原資を負担するといったケースもあるという。
「申請から運用までのスケジュールを明確に示してほしい。そして、消費者にとってわかりやすい仕組みであってほしい」と中村社長は改善点を挙げる。
同社としては、ナショナルプリカを活用した販促施策を打ち出すことで、利用者を増やしたいと目論んでいるが、それも足踏み状態。同カードは、現金をチャージしておく方式なので、高齢者にとっても利用しやすい。そのため、同カードの利用時にポイント還元できるかどうかが、利用の拡大を握っており、申請が下りるのを待っている状況だ。
キャッシュレス決済におけるポイント還元は、お客の商品購入を促進させるというメリットがある一方で、競合との“ポイント還元合戦”に陥るといった企業側のデメリットもある。還元が終わった後に、反動で売上が減少する、あるいはその反動減に対応するためにさらなる安売り合戦に陥ることなども想定しておく必要があるだろう。
政府の肝いりで始まったこのキャッシュレス・ポイント還元制度。大手小売企業からの不満は絶えない一方で、運用する中堅以下のスーパーマーケットからの不満もまた、無視できないもののようだ。