ウクライナ情勢により小麦粉の国際価格が高騰し、円安、インフレの影響もあり粉物や麺類の値上がりが続いている。こうした背景に加え、グルテンフリーダイエットやコロナ禍による健康への興味関心の高まりから、注目を浴びているのが米粉だ。これまで幾度となく注目されてきた米粉製品だが、コロナ禍中に拡大したアジア飯ブームや健康志向も手伝って、外食にも米粉麺料理が広まっている。米粉麺料理の今を追った。
香港で人気のヌードルチェーンが日本上陸
『丸亀製麺』などを運営するトリドールホールディングスは2022年3月に香港の人気NO.1ヌードルチェーンを謳う米線(ミーシェン)専門店『譚仔三哥米線(タムジャイサムゴー ミーシェン)』の日本1号店をオープン。3月に開業した東京・新宿店を皮切りに、4月には吉祥寺店と恵比寿店を展開し、2024年3月末までに東京で25店舗、5年以内に全国で100店舗の展開を目指す。
米線とは中国・雲南省の米粉麺。中国現地では、細麺や平麺など様々な形状がありどれも「米線」と呼ぶが、同店では細麺を採用。麺は統一し、6種のスープ、10段階の辛さ、25種の具材を用意して100万通り以上の組み合わせで自分だけの味作りができる自由自在な楽しさを訴求する。米粉麺特有の食感や健康志向、本格的な香港の味を売りに、20代〜30代女性を中心に常に賑わっており評判も上々だ。
コロナ禍後、海外旅行へ行く機会が減った背景から、アジア料理業態が増加傾向にある飲食業界。さらに元々中国やタイ、ベトナム、スリランカといったアジア圏に米粉麺メニューが多いことから、現在国内で楽しめる米粉麺料理はエスニックなメニューが多い。しかし、米菓メーカー『阿部幸製菓』が新潟県産米粉100%の米麺専門店『新潟うどん たねや』を開業し、店舗展開するなど、コロナ禍以降、国産や和風の味の提案など、米粉麺業態が広がっている。
製麺メーカーでも米粉麺の売上が伸長
一方、米粉麺の製造販売メーカーの声も聞いた。
創業75年の老舗で、2004年からグルテンフリーの米粉生麺を製造販売する小林生麺(岐阜県/小林宏規社長)では「国際情勢やコロナ禍から注文が増えた感覚は特になく、グルテンフリーの食品の認知拡大や健康志向、そして営業努力など様々な要因があると考えている」と前置きした上で、グルテンフリーの米粉麺の売上は、飲食店や小売店への卸、さらに輸出も含めて対前年比約20%伸長していると話した。
同社ではシリーズ累計850万食以上を売る「グルテンフリーヌードル 白米シリーズ」と「同玄米シリーズ」、そして食品添加物不使用の「無添加シリーズ」「グルテンフリーケールパスタ」といった生麺、そして主に米国、欧州、アジアを中心に海外で評判のインスタントラーメンなどを取り揃え、圧延製法(ところてんのように押し出すのではなく、延ばして作る製法)による口当たり、食感の良さを特徴とする。
コンタミネーション(特定原材料の混入)の観点から、より安全性の高い米粉麺を製造するため、2005年に拠点となる岐阜市に米粉専用工場を建設。また生産力を高める為に2021年に名古屋にも米粉専用工場を新設した。当初より28大アレルゲン原材料不使用の米粉麺を製造している。
汎用性が広い米粉麺
お勧めの食べ方を聞いたところ、例えば「ケールパスタ」は蕎麦のように茹でてからつけ汁で食べると豊かな青い風味を楽しむことができ、「グルテンフリーヌードル白米シリーズ」なら、茹でてから炒めると独特の食感が活きて美味しいという。
米粉麺は汎用性が高く、同社でも縮れ麺、うどん、スパゲッティー、フェトチーネ、焼きそば、そうめん、ストレートラーメンなど麺の形状も様々。「各メーカーによって特徴が違うため、麺に合う食べ方をしてほしい」と話した。
また興味深いのが、OEM(相手先ブランド名製造)で作ることができる米粉麺だ。例えばプロテイン入りやコオロギ粉末入り、野菜の粉末を練りこんだものなど注文は多岐に渡るという。そのほか虹色や真っ青な米粉麺といった色彩で遊ぶことも可能で、麺料理による表現の幅が広がりそうだ。中でも最近は、大豆やひよこ豆の粉末を練り込むなど、より栄養価の高い麺の注文が増加しているという。
今年6月、農林水産省は輸入食材を取り扱う飲食店などを支援するため、最大2億円の補助金を交付する「輸入小麦等食品原材料価格高騰対策事業」をスタートさせた(第2回公募は10月14日で締め切り済み)。これは“輸入小麦を国産小麦や米粉といった代替食材で新商品を開発する”といったケースに対しての補助金。こうした施作からも、この秋以降、飲食店における米粉料理、米粉麺料理は増加することが予想される。