「マーケティングデータ」と聞くと大仰に聞こえるかもしれません。でも、安心してください。マーケティングデータは何も難しいものではなく、正しい読み方と使い方さえマスターすれば、誰でもビジネスで使いこなすことができるのです。
ではマーケティングデータとは何でしょう? これは、「ビジネスをする際に市場や消費者のことを把握することができるデータ全般」だととらえてください。本連載では、初心者だけでなく、これまでなんとなくデータを使ってきた、という人向けに、毎回解説していきます。
筆者は長年にわたってマーケティングや営業企画に従事してきましたが、今回この連載を企画したのには理由があります。筆者は現在、データ分析を生業とする会社に勤めており、顧客から「データはたくさんあるが活用しきれない」「マーケティング部門や広告代理店がいろいろな数字を言ってくるが毎回違う種類の数字をだしてきてよくわからない」という声を聞く機会が増えているからです。
こうした悩みを持つ人は少なくないのでは? そう考えヒアリングしてみると、若手社員や営業担当のみならず、マーケティング部の人、そして経営者クラスまで幅広い人がデータの読み方、使い方に悩みを持っていることがわかりました。
そこで本連載では、データに振り回されずに、マーケティングデータに親しんでいただき、ひいてはマーケティングを特別ではない考え方として日ごろのビジネスに取り入れていただくことをねらいとして、毎回具体的な用語を挙げてを解説していきます。
ただはじめに言っておきたいことは「市場と消費者のすべてがわかるデータなど存在しない」こと。さまざまなデータを組み合わせてパズルのように「わかる部分」を増やしていき、わからないことは「仮説」や「想像」でカバーするものだと理解してください。
データでわかる部分が増えていくと、仮説や想像がよりシャープになります。「データがあると創造性がそがれる」という人も見かけますが、それはまったくの間違いで、「本を読まないほうが見識が広がっていい」といっているのと同じことです。
マーケティングデータは何のためにあるのか?
それでは、マーケティングデータを概観することから始めましょう(図表)。イチから始めるにあたり、核となるデータをリストアップしました。
リストを見てわかるとおり、データにはたくさんの種類があります。経済センサスや家計調査など無料で手に入るデータから、雑誌の記事検索を活用して、「日本酒の市場規模の推移」を探す方法までさまざまです。ただ、これをもとに自分の会社のビジネスがどのような位置にあるのかを把握するのはほぼ不可能なのです。というのも、ここで扱われている製品と自分の商品の分類の定義(カテゴリーといいます)が違ったり、そもそも出荷金額なのか、消費者が購入している金額を表すのかが時によってちがったりするからです。最大の問題は、これがわかったとしても、自社のビジネスにおいて必要なタイミングで必要な時期のデータが手に入ることはまずないということです。これでは意思決定に使うことはできません。
そのため、「市場をタイムリーに把握できる」データを購入されている会社が多いと思います。具体的には、さまざまな調査会社やマーケティングデータ会社が提供するPOSデータや購買パネルデータ、ID-POSデータなどが購入できるものとしては代表的なものです。
そもそも、マーケティングデータを活用する目的は何でしょうか。それは、意思決定のためです。経営判断から担当者が企画をする際にアイデアを選定することまで、さまざまなレベルの意思決定にマーケティングデータを活用するのです。筆者はできるだけ多くのマーケティングデータをもとにした意思決定のほうが、会社の方向性にとって正しく、創造性も発揮できるように導けると考えています。なので、データは多く持つに越したことはないのですが、データを収集するコストや、分析するための手間とのバランスも考えなければなりません。どこまでこだわるかは経営者の判断の範疇となります。
次回は、マーケティングデータの最も基本ともいえる店頭販売データについて、詳しく解説していきます。