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「売らない店」の構成比4割突破のマルイ 急ピッチで進める「3重の収益構造とは」

丸井グループ(東京都/青井浩社長)が11月に発表した2022年3月期第二四半期決算は前年同期と比べて営業日数を確保できたこと、堅調なフィンテック事業に支えられ、売上収益、営業利益ともに対前期比2%増を記録し、2期ぶりの増収増益となった。丸井グループが小売業界に先駆けて進める、「売らない店」化の取り組みと、全く新しい収益構造への挑戦について、まとめた。

 

フィンテック事業が黒字 
重視する「リカーリングレベニュー」

丸井グループの20223月期第2四半期連結決算は、売上収益1045300万円(対前年同期比102.0%)、営業利益2113200万円(同102.0%)、純利益1223000万円(同137.3%)だった。フィンテックのクレジットカード取扱高が全体をけん引したことに加え、小売の客数が前年を上回ったことで、グループ総取扱高は15915億円(同118%)を記録し、上半期で過去最高だった。

事業別の営業利益では、店舗休業期間中の固定費の特別損失への振替額の大幅な減少により小売事業が4億円(同35%)と大きく落ち込んだ。が、この特殊要因を除けば、実質的には前年度より営業利益6億円の増益を記録。客数が増加したことに加え、20143月に44%だった退店率が高いアパレルの売場面積構成を、7年間で全体の22%に下げ空室率を抑制してきたことが結果につながった。

フィンテック事業においては、旅行・エンターテインメントといった昨年自粛が目立ったシーンでの利用が回復し、営業利益は238億円(同105%)と黒字を維持。同社は小売事業と並んでフィンテック事業を柱に据えており、214月にはグループ子会社が提供する「エポスカード」の新アプリをローンチするなど、サービス拡充を図っている。

フィンテック事業の売上は取引先との契約に基づく長期的な収入である「リカーリングレベニュー」。長期経営の安定のためにその割合を引き上げるのが同社の戦略だ。事実、今期の売上総利益ベースのリカーリングレベニューは632億円で、売上総利益に占める割合は67.5%(同2.2%増)と大きい。年々競争が激化する百貨店業界において、金融業に力を入れるなど、業態を変化させてきた同社にとってフィンテック事業は重要であるとともに、長期・安定経営を考える上でも欠かせない事業になっているのだ。

 

上期の新規出店テナントのうち85%が「売らない店」

上期の既存店の状況は、昨年同時期に比べると改善した。「池袋マルイ」の取扱額は前年同時期に比べ31.4%増、「博多マルイ」でも44.5%増と、都心・地方ともに増えた。しかし、コロナ前の2019年上期と比較すると、上期の取扱高は69%の水準にとどまり、大きく回復したとは言えない。

同社加藤浩嗣CFO(最高財務責任者)も「(コロナの感染拡大が始まった)昨年は異常な一年だったので、上期の数字と単純に比較することは難しい。緊急事態宣言が解除された10月以降も、今のところリベンジ消費は期待した程度ではなく、従来のようなアパレルの大規模出店も考えにくい。コロナ禍で変化したライフスタイルに沿ったトレンドを掴むことが重要だ」と話し、業態の変化の必要性を訴えた。

アフターコロナの世界を見据え、丸井が取り組むのが体験型店舗を主体とする「売らない店」を入口にした「小売×フィンテック×未来投資(共創投資・新規事業投資)」の三位一体戦略だ。

「売らない店」とは、D2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)ブランドなどネット企業を誘致し、店舗を単なる販売の場としてではなく、デジタルネイティブ世代とのタッチポイントとして捉え、オンラインとオフラインを融合した「体験型」のプラットフォームだと位置づける。

上期に新たに出店した109のテナントのうち、85%を「売らない店」が占めている。20218月にはD2Cの人気メンズスキンケアブランド「BLUK HOMME(バルクオム)」が、新宿マルイ本館に初のリアル店舗を出店した。現在、売らない店は全売場面積の43%を占めており、20263月期にはこの数字を70%まで高める構えだ。

もっとも、近年は他百貨店でもD2Cブランドの誘致が進んでいる。丸井は競合から抜きん出るために、①ブランドからの家賃収入、②カード発行による長期収入、③未上場のブランドに出資(未来投資)し、IPO(新規株式公開)時に得る株式売却益と、3重の収益構造を構築することを目指す。

  

小売金融一体の「参入障壁が高い」ビジネスモデル 

丸井が手掛ける「未来投資」とは、「サステイナビリティ」「Well-being」「DX」といった、同社が共感できる世界観を掲げる企業に投資することを指す。20219月末時点において、累計で31社、134億円を投資し、全体のIRRInternal Rate of Return:内部収益率)は35%と、最低限必要とされる利回りであるハードルレートの10%を上回る。ブランドへの投資というリスクテイクにより、百貨店として「新たな時代」のプラットフォーマーになることを志向する。

一例として挙げられるのが、同社が201912月に出資した、プラモデル、フィギュアなどアニメグッズを中心とした、中古ホビーの大手ECサイト「駿河屋JP」を運営するエーツー社だ。出店に加え、マルイファミリー溝口の買取センターでは丸井グループの社員が運営を担い、提携カードを発行する。ECサイトで購入した商品をマルイ・モディの専用カウンターで受け取ることができるなど、協業を進めている。丸井独自の経済圏を、D2Cブランドとともにつくっていくのだ。

加藤CFOは「D2Cブランドの出店だけであれば、参入障壁が低く、他社との差別化は難しい。アセットである『店舗・カード』を活かし、出資まで行うことで、当社が創業以来培ってきた小売金融一体の独自のビジネスモデルを進化させたい」と話した。

通期見通しも増収増益予想

丸井は22年度3月期の業績予想についても公表した。通期の見通しは売上収益が2120億円(対前年同期比3%増)、営業利益が365億円(同40%増)としている。小売事業の営業利益は20億円(同35%増)を見込んでいる。グループ総取扱高はクレジットカードの拡大により3兆4,100億円(前年比17%増)となる見通しだ。