LSP(ロジスティクス・サービス・プロバイダー)とは?種類や日本の物流における課題を解説!
慢性的な人手不足や燃料費の高騰などさまざまな課題を抱える物流業界。そのような状況下で、物流の最適化を図るために欠かせないのが「LSP(ロジスティクス・サービス・プロバイダー)」である。
しかし、なかには、LSPの種類や日本の物流の課題との関連性についてしっかりと把握できていない人もいるだろう。
本記事では日本の物流業界の現状や課題に着目したうえで、LSPが果たす役割やその種類を解説していきたい。この機会にぜひLSPの知識を深めよう。
LSP(ロジスティクス・サービス・プロバイダー)とは?
LSP(ロジスティクス・サービス・プロバイダー)は、輸送や倉庫保管、流通サービスなどサプライチェーン管理サービスを提供するアウトソーシング会社を指す。
一般的に、LSPがクライアント企業から受注する業務は以下である。
- 輸送
- 在庫管理
- 倉庫管理
- クロスドック(積み替えをメインとした拠点機能)
- フレイト・フォワーディング(自社で輸送手段を持たず、他の業者に貨物輸送を委託する)
クライアント企業は、物流における一部またはすべての業務を1つ以上のLSPに外注できる。物流に対する消費者の期待や、コスト管理、効率の向上推進などにより、LSPがクライアント企業に提供する価値は高まりを見せている。
ロジスティクスを推進する一つの手段としてLSPの利用を検討する企業も多いが、どのLSPを選ぶかによって業績が大きく変わることもあるため、LSPの選定は慎重に行ないたい。
日本の物流業界が抱える課題
LSPの価値が高まっているのはなぜか。それは日本の物流業界が抱えるさまざまな課題を解決するために、LSPが必要不可欠だからだ。
ここではまず、日本の物流業界における課題や問題点を紹介する。
宅配便の個数増加に伴う過酷な労働環境
インターネット通販の普及などにより、宅配便の取扱個数は急激に増加している。
国土交通省の発表から、2021年度(令和3年度)の宅配便取扱個数と、5年前および10年前の宅配便取扱個数を比べてみよう。
- 2021年度(令和3年度)の宅配便取扱個数 49億5,323万個
- 2016年度(平成28年度)の宅配便取扱個数 40億1,861万個
- 2011年度(平成23年度)の宅配便取扱個数 34億96万個
宅配便の取扱個数は年々増加し、10年間で約15.5億個も増えていることがわかる。
先述したとおり宅配便増加の要因にはインターネット通販の普及があるが、物販系のEC化率は今後も高まると見込まれている。そのため、公益社団法人日本経済研究センターは、2035年度には宅配便の取扱個数が88億個まで増加すると予測している。
一方で、貨物輸送の輸送効率を示す積載率は低迷している。積載率が低下すれば、トラックは荷台に余剰スペースを残して走ることになる。要因としては、貨物のなかでも宅配便など小口の荷物が増えている点が挙げられる。
また、輸送の小口化はそれだけ多くの配送先を回ることを意味する。加えて宅配便の再配達も社会問題の一つだ。国土交通省の調査によれば、宅配便の荷物のうち約2割が再配達されている。貨物の小口化と配達の多頻度化は、労働者への負担増や輸送効率の悪化を招いているといえるだろう。
慢性的な人手不足
運送業界は慢性的なドライバー不足に陥っていることも課題の一つだ。厚生労働省の調査によると、トラックドライバーの有効求人倍率は全職業平均より約2倍も高い。
ドライバー不足にはさまざまな要因があるが、一つは労働環境の過酷さが挙げられる。先にも述べたようにドライバーは、荷物増による搬送や積み下ろしなど工数の増加、再配達に追われるなど負荷が増大している。
また、過酷な労働環境に対して賃金が低いことも従業員が集まらない原因だ。厚生労働省が実施した令和2年度の「賃金構造基本統計調査」において、全産業の年間所得額の平均が487万円であるのに対し、大型トラックのドライバーは454万円、中小型トラックのドライバーは419万円となっている。
これら労働環境の問題に加えて少子高齢化の影響もあり、トラックドライバーは高齢化が進んでいる。トラックドライバーの年齢構成比は40~50代前半が44.3%を占め、全産業と比べても高齢層の割合が高い。一方で29歳以下の若年層の割合は、全産業が16.6%であるのに対し運送業では10.3%である。このままではさらなる高齢化に陥ることは目に見えている。
さらに2024年4月からトラックドライバーの時間外労働は、年960時間(月平均80時間)が上限となる。従来のように、輸送効率の低さをドライバーの長時間労働によってカバーすることは難しくなるだろう。これは物流業界の「2024年問題」とされ、物流コストが高騰する可能性も指摘されている。
物流業界における深刻な人手不足を打開すべく、国土交通省自動車局も対策を講じている。例えば、運送業界における女性活躍の促進だ。そもそもトラックドライバーは全産業に比べて女性の割合が非常に少ない。そこで女性トラックドライバーを「トラガール」と名付け、その魅力を発信するなど多様な取り組みを進めている。
物流にかかる燃料費の高騰
物流業界にとっては燃料費の高騰も懸念材料の一つだ。2021年以降、新型コロナウイルス感染症の影響や世界情勢の悪化に伴い、原油価格は高騰している。原油価格の高騰はガソリン価格にも影響する。
一般的な自家用車に比べて、トラックの燃料消費量は比べ物にならない。燃料費の高騰は企業の利益減少に直結し、採算を合わせるためには配送料金を値上げするしかない。しかし配送業者は荷主に対して立場が弱く、値上げ交渉に応じてもらえない現状がある。
先にも述べたように、再配達など配達の多頻度化も燃料費を圧迫する。日本の配送業者は基本的に再配達を無料で行なっている。消費者側も「再配達は当たり前」という意識があり、何度も再配達を依頼する場合もある。この点に関しては、運送業者だけでなく消費者一人ひとりの意識改革も必要だろう。
多頻度な配送は、燃料の消費はもちろんCO2排出の増加も意味する。国土交通省の試算(2020年度)によれば、再配達のトラックから排出されるCO2の量は年間でおよそ25.4万トンにもおよぶとされている。物流業界が直面する課題は、地球環境にも負荷を与えているのである。
以上のように、物流業界においてはさまざまな課題が深刻化しており、早急かつ的確な対応が求められている。
LSP(ロジスティクス・サービス・プロバイダー)の種類
物流業界の現状を打破するために取り組むべき施策の一つが、冒頭でも解説したLSP(ロジスティクス・サービス・プロバイダー)だ。
そもそもロジスティクスとは、JIS(日本工業標準規格)の物流用語によると「物流の諸機能を高度化し,調達,生産,販売,回収などの分野を統合して,需要と供給の適正化をはかるとともに顧客満足を向上させ,あわせて環境保全及び安全対策をはじめ社会的課題への対応をめざす戦略的な経営管理」と定義されている。
物流サービスに戦略的な経営管理が必要な理由として、市場の段階によりニーズが変化することが挙げられる。
例えば、市場の成長期は、大量生産・大量消費の時代でもあり、物流サービスは一つでも多くの製品を流通させることが優先されていた。しかし市場が成熟するに従い、消費者のニーズも細分化、複雑化していく。商品提供にも適切なタイミングが求められるようになり、物流サービスも変化を遂げてきた。
今や物流サービスは、LSPにアウトソーシングすることにより最適化を図ることができる。そして市場の段階により変化するニーズに合わせて、LSPも適切に選定してく必要がある。ここではLSPの3つの形態を紹介する。
ロジスティクス・サービス・キャリア
ロジスティクス・サービス・キャリアは、実際に輸送手段や倉庫などを保有し、自社の能力のみで物流を行なうことが可能である。その形態から、市場の導入期に力を発揮する。
荷主企業側としては指示系統が行き渡りやすいメリットがある反面、機動力は低い。
アウトソーシング・ロジスティクス・サービス・プロバイダー
アウトソーシング・ロジスティクス・サービス・プロバイダーは、自社で輸送手段や倉庫などを保有するほか、パートナー企業とのリレーションも活用する点が特徴だ。
市場の成長期など一つでも多くの製品の流通が求められる段階で、実力を見せる。
荷主企業側としては大きな規模で製品を動かすことが可能になる一方、3次請け、4次請けと階層が増えることから指示が伝わりにくくなり、場合によってはサービス品質の低下を招くこともある。
ロジスティクス・サービス・インテグレーター
ロジスティクス・サービス・インテグレーターは、「インテグレーター(integrator)」が「統合する人」という意味を持つように、さまざまな業種や業界、業態の情報や知見を保有し、物流サービスを提供する。
時流に沿った柔軟性のある物流を行なうことが可能で、市場が成熟し顧客ニーズが細分化したこれからの時代にこそ、真価を発揮するだろう。
以上、3つのLSPの形態を紹介した。
日本の物流政策においては、物流DXなどデジタル化の推進により、サプライチェーン全体の徹底した最適化を目指している。LSPにおいてもさらなる進化が期待されるとともに、市場の段階に応じた選定が必要である。
まとめ
LSPとは、物流におけるサプライチェーン管理サービスを提供するアウトソーシング会社を指す。物流に関する重要な分析へのアクセスや、テクノロジーを利用した効率化を念頭に、顧客や消費者に価値を創造して提供する役割を担う。
日本の多くの産業が成熟期に入るなかで、物流業界においては、サービスの向上とコスト削減という相反する命題が課せられている。そのうえ人手不足やドライバーの高齢化など、以前にも増して複雑な課題に直面している。物流は国民の生活や産業競争力、地方創生を支える重要な社会インフラであり、決して途切れさせてはならない。
物流業界の課題を解消し物流の最適化を図るためにも、LSPは重要な立ち位置にあるといえよう。