日本でネットスーパーが根付かない本当の理由と解決策
カギはダークストアとBOPIS
では、日本の人口動態やライフスタイルに合わせたフルフィルメント戦略とはどのようなものが考えられるでしょうか。その解は、「フルフィルメントセンターを持たないこと」にあります。と言うと、これまでの話と矛盾するように思われるかもしれませんが、日本の地形的な問題と配送コストの課題をクリアするためには、フルフィルメントセンターを持つ前にできることがあるのです。そのやり方は大きく都心型とベッドタウン型に分けられます。
まず、都心型フルフィルメントで有効なのはダークストアを持つことです。東京や横浜などの都心部にも、駅から徒歩10分圏内に住宅地があります。このような地域では店舗を持たずに、商品点数を絞りオーダーから配達まで数時間とサイクルが短いダークストアが最適です。
店舗がないため広大な敷地を必要としないほか、消費者にとっては「スーパーの店頭で買い忘れた、その時ちょっと欲しいもの」がすぐ手に入りやすいという特徴があります。一部の都市で始まっている「Yahoo! マート」がその一例です。
次に、ベッドタウン型は、BOPIS(Buy Online Pick-up In Store:オンライン上で購入した商品を実店舗で受け取れる仕組み)が向いていると考えます。ネットスーパーで注文した商品を、スーパーマーケットの店舗スタッフが店頭でピッキングし、店舗で受け取ってもらう、そもそも「配送しない」方法です。
この2つの対応をすれば、莫大なコストをかけてフルフィルメントセンターを構築する必要はなく、配送トラックやドライバーなど配送体制を整える必要もありません。物流コストを最小限に抑えながらネットスーパーを実現できるのです。すでにある小売DXの仕組みを日本の実情に合うように再構築、再編集するだけで、生産性の高いネットスーパーへと生まれ変われるのではないでしょうか。
合わせて考えていきたいのは、出店戦略です。これからは小売業の出店戦略そのものを日本の人口動態に合わせる必要が出てくるでしょう。それほど居住者がいない都心部には「マルエツプチ」や「まいばすけっと」のようなミニスーパーを、都心部でも駅周辺に住宅街のある地域には中規模のグロサリーストアを、郊外には大型ショッピングセンターを展開するなど、地域に合わせて柔軟に出店戦略を考えていく必要もあるはずです。
ほかに、自社で物流体制を持たないことも重要な要素です。物流機能を持つ他業態と協業すればネットスーパーを実現できるはずです。「クロネコヤマト」などの宅配事業者と提携したり、ネットスーパーで購入したものを最寄りのコンビニで受け取れるようにしたりなど、やり方はさまざまです。
音楽ソフト販売店の「HMV」が運営するオンラインショップ「HMV&BOOKS online」で販売する商品を「ローソン」の店頭で受け取れるように、たとえば「ヨークフーズ」のネットスーパーで購入した商品を最寄りの「セブン–イレブン」で受け取れるようになれば、生活者にとって利便性は高まるはずです。
大切なのは、「ゼロから新しいやり方を生み出さなくても、これまで小売業が生み出してきた多様なやり方を参考にすること」と「個別最適を考えず、グループ全体の全体最適を考えること」です。そうすれば、ネットスーパーの利用者が増え、その文化を日本に根付かせることができるのではないでしょうか。