一世風靡のヴィレッジヴァンガード、ワンアンドオンリーなウェブプラットフォームが復活の鍵?
ヴィレッジヴァンガードコーポレーション(愛知県/白川篤典社長)が先ごろ発表した2021年5 月期連結決算は、売上高が282億9300万円(前期比96.7%)売上総利益が106億5800万円(同96.3%)。営業利益は2900万円(前期は赤字)、経常利益は4800万円(同)となり、前年の赤字決算から黒字に転じた。当期純利益は2300万円の赤字でこれは2期連続となったものの、赤字幅は5億9500万円も圧縮して黒字化手前まで持ってきた。
90年代後半から2000年初期に一世風靡
ワン・アンド・オンリー。1986年に創業した同社は理念にも掲げる通り、まさに唯一無二の個性的な「サブカル感」が充満する小売として90年代後半から2000年台にかけ一世を風靡した。
本屋をベースとしながら雑貨と融合した陳列には整列感はなく、店内に一歩足を踏み入れるとちょっとした非日常空間に迷い込んだような不思議なワクワク感を喚起してくれる。
90年代後半当時は本といえば本屋、雑貨といえば雑貨店、カフェはカフェと売り物やサービスと店舗イメージが合致していることが常識だった。それだけにヴィレッジヴァンガード物欲と好奇心を刺激する商品を揃え、それらの関係性を考慮し、その上で空間を縦横に活用した陳列は斬新だった。シャレのきいたPOPはそれだけで話題になることもあった。
五感を刺激する店舗は消費者の購買意欲にスイッチを入れ、業績は順調に伸びた。店舗数も急速に拡大。そして2003年にはジャスダックに上場する。新しい小売のひとつの象徴といえるまでの存在になり、その名は全国へ知れ渡った。
唯一無二小売はなぜ凋落したのか
ところが栄華は長く続かない。株価ベースでは2006年をピークに現在に至るまで下降トレンドで、売上も一時は店舗数増加もあって500億円に迫る勢いがあったが、もう数年低迷が続いている。
斬新ゆえに飽きられた、模倣店舗が増えオリジナリティが薄まった。そうしたことも要因として考えられるが、本質はそこではないだろう。皮肉だが、同社の存在価値である「ワン・アンド・オンリー」が、そもそも拡大にはそぐわなかったーー。それが今に至るまでの長いトンネルの元凶といえる。
<チェーン・オペレーションに頼らない、ワクワクする専門店集団を作り上げる>。同社の理念の「行動規範」の5番目にはそう明記されている。「ワクワクする専門店集団」は、まさに1990年代から2000年にかけて、消費者のハートを刺激し続けた同社の代名詞といえる。
ところが、店舗数が増え、特にモールへの出店が増え始めると、同じ店構えでもワクワク感が薄れたように感じられるようになる。加えて、他業種でもジャングル型の陳列が珍しくなくってくると、相対的にインパクトや感動が薄まってくる。
売上低迷を打破すべく、さまざまな改革に着手。2012年にはそれまで「活用しない」ことを標榜していたPOSシステムを導入。これは、同社のユニークさを棄損にするには十分に副作用の強い“クスリ”となった。
各店店長の「勘」と「センス」が独特のムードの源泉だった同社にとって、売上データに頼ることは個性を削るものでしかなく、「ワクワク」をなくすことと同義だからだ。