スケールメリットとは?なぜ規模が大きくなると収益性が高まるのか?メリット・デメリットを徹底解説!
スケールメリットとは
スケールメリットとは、企業活動の規模および範囲の拡大が産み出す、収益面や競争面などでのメリットを意味する。
1769年、イギリスのリチャードアークライトが水力紡績機を発明、生産性を飛躍的に高めた結果、綿織物の大量生産を可能とした。世にいう産業革命の始まりだ。以来、巨大資本にモノをいわせ、大量生産を可能とする大きな工場を建て、低コストでプロダクトを生産し、世界中に販路を拡大してライバルを駆逐する……スケールメリット追求のビジネスモデルは、2世紀以上に渡り栄華を誇ってきた。
たとえば自動車業界では販売シェアをおさえた企業が覇権を握る。販売価格に占める原価の比率が高い車は、大量生産によるスケールメリットが大きいのだ。かつてはアメリカのビッグ3(フォード・ゼネラルモーターズ・クライスラー)が栄華を誇ってきたが、今では世界シェアも2割を切った。
今トップを走るのは日本のトヨタ自動車(愛知県)で、世界販売台数は年間1000万台に達する。注目すべきはトップシェアがもたらすスケールメリットだ。売上高営業利益率は直近で13%弱、トヨタの高い収益性は競合他社を寄せつけない。
規模拡大に伴う寡占化による市場支配力強化も、重要なスケールメリットの1つだ。たとえば国内石油元売り業界では、経産省の後押しもあり統合・再編が急速に進んだ。シェア1位、JXTGホールディングスのシェアは5割を超える。
スケールメリットのメリット
スケール“メリット”は、「規模や範囲の拡大は市場での競争優位・生産性向上やコスト低減につながる」との考え方に基づいている。ではなぜ、この考え方は成り立つのか。
メーカーにせよ小売にせよ、かかるコストは変動費と固定費に分けられる。生産・販売数量が増えても固定費は変わらないので、1個あたりコストはその分安くなる。
店舗で考えれば、取り扱い商品の販売数量が2割増しになってもスタッフの人件費や店舗家賃・光熱費といった固定費が急に増えるわけではない。仕入れコストのような変動費は仕入価格が同じとすれば2割増えるが、仕入数量に応じてリベート増も期待できる。結果として商品1個当たりのコスト(仕入原価+販管費)は低減し、収益性が高まるというわけだ。
スケールメリットのデメリット
デメリットは、規模・範囲拡大によってデメリットが発生する可能性がある点だ。
販売エリアを拡大しても、商品供給が追いつかなければ結果的にスケールメリットは享受できない。かえって、投資負担が経営の脚を引っ張る事になる。また、医療・介護・教育産業など、規模拡大してもスケールメリットが出にくい業種も多い。
コングロマリット・ディスカウントといって、範囲の拡大を図ったため、かえって経営効率が落ちることもある。
スケールメリットの実例
スケールメリットの実例として、シャープ(大阪府)のケースを取り上げる。
今では当たり前だが、奥行きの深いブラウン管が一般的だった時代、液晶の薄型テレビ登場は衝撃的だった。とくにシャープの「亀山モデル」は、薄型テレビの代名詞として家電市場を席巻した。
かつて液晶テレビで一世を風靡したシャープだが、その後経営は低迷し、今では鴻海(台湾)の軍門に下っている。液晶のグローバル競争において、シャープはサムソン・LGなどの韓国勢に敗れた。評論家の中では「規模の戦いに敗れた」との声が根強いが、そうではない。
シャープも販売能力拡大と生産効率向上によるスケールメリット拡大をめざし、工場拡大に合計で8000億円の大規模投資を敢行した。売上高3兆円の企業にとっては大きな冒険だ。
生産規模は拡大したものの、シャープはプロダクトをさばくだけの販売エリアを確保していなかった。つまり、サプライチェーンが目詰まりを起こした。折悪しくリーマンショックの時期とも重なり、一気にシャープを追い詰めたというわけだ。