DX(デジタルトランスフォーメーション)とはデジタル技術を活用してビジネスモデルを変革し、新たな価値を創造することだ。経済産業省が警鐘を鳴らす「2025年の崖」問題を回避し、デジタルディスラプションによる競争力を獲得するためにも、DXを理解して推進する必要がある。今回は、DXについて詳しく解説する。
目次
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは
DXとは「Digital Transformation」の略で、ITにより人々の生活やビジネスをよりよい状態に変革させることを意味する概念。2004年にスウェーデン・ウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が提唱。現在では消費スタイルやワークスタイル、ビジネスモデルなどにおける革新的なデジタルシフトを意味するようになった。
DXの例
オンラインで商品を購入し、店頭での決済もキャッシュレスで行えるようになったことが主たる例である。また、クラウドを活用してテレワークを行い、ウェブ会議ツールで遠隔地とのコミュニケーションにおけるコスト削減もDXに該当。IoTにより外出先から自宅の家電品を操作したり、一枚のカードで様々な交通手段を乗り継いだりすることもDXの例だ。いずれも生活やビジネスに変革がもたらされている。
なぜ『DX』と表記されるのか
「Digital Transformation」には「X」が含まれないのに、なぜ「DX」と略されるのか。それはは、英語で「trans」を「X」で表記する習慣があるためだ。そのため、「Transformation」は「Xformation」と略され、「Digital Xformation」となり、そのイニシャルを取って「DX」と略されるようになった。
デジタイゼーション/デジタライゼーションとの違い
DX |
デジタル技術を使用した新たな価値観の創造 |
デジタイゼーション |
デジタルツールの導入 |
デジタライゼーション |
プロセスのデジタル化 |
DXはデジタル技術を利用した新たな価値観の創造を意味する。そのため、同じくデジタル技術による変化を示す「デジタイゼーション(Digitization)」や「デジタライゼーション(Digitalization)」と混同されやすい。これらの違いについて確認しておきたい。
デジタイゼーション
デジタイゼーション(Digitization)とは、従来のアナログ的に処理していた業務プロセスをデジタル化することだ。デジタル化することで業務の一部を自動化したり、書類などの情報をデジタルデータ化したりすることで情報の流用や共有が容易になり、業務の効率化とコスト削減を実現できる。
デジタイゼーションの例
- 紙の書類のデータ化で流用性を高め共有化を行い、保管スペースを節約
- ウェブ会議ツールで遠隔地から参加する人の交通費を削減
- PRAツールで手作業によるルーチン業務を自動化
- CRMシステムで顧客情報をデータ化し顧客との関係性強化
デジタライゼーション
デジタライゼーション(Digitalization)とは、デジタル化によりビジネスプロセスを変革し、これまでになかった商品・サービスを創出することで価値や利益を生み出すことだ。その結果、モノからコトへ、所有から共有へなどの消費スタイルの変化がもたらされる。
そして、このデジタライゼーションの成果を「競争上の優位性」として確立し、社会に影響を与える段階に至ることがDXとなる。
デジタライゼーションの例
- 音楽CDや映画のDVDを販売することがオンデマンド配信へ転換
- 自動車を販売することからシェアリングサービスへ転換
- 販売数量による収益からサブスクリプション型利用料の収益へ転換
- 内製化からクラウドソーシングによるアウトソースへ転換
経済産業省が掲げるDXの定義
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。
上記は経済産業省が2018年に発表した『デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)Ver. 1.0』に記載されている。同省ではDXを、より企業の活動にフォーカスして定義づけている。
やはり単なるデジタイゼーションによる効率化やデジタライゼーションによる変革に止まらず、「競争上の優位」を確立してはじめてDXであるとしている。
企業がDXに取り組むべき理由
- 2025年の崖
- 消費者活動の変化
- 新規参入者によるゲームチェンジ
企業がDXに取り組むべき理由は主に「2025年の崖」「消費活動の変化」「新規参入者によるゲームチェンジ」の3つ。1つずつ確認しておきたい。
2025年の崖
「2025年の崖」は、2018年9月に経済産業省が発表した『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』(※1)で使われた言葉だ。同レポートでは、2025年までに既存のレガシーシステムを刷新し、日本の企業がDXを推進しなければ国際競争力を失うと警告している。
2025年の崖が言われるようになったのは、既存のレガシーシステムが古いビジネススタイルに合わせて過剰にカスタマイズされているためだと指摘されている。システムがブラックボックス化された結果、ITの進化や市場の変化に対応ができなくなっているのだ。レガシーシステムを刷新してDXを推進するためには、過剰なカスタマイズの問題を段階的に解決する必要がある。
新型コロナウイルスによって変化したDXを取り巻く環境
2019年に発生した新型コロナウイルスの感染流行は、世界中の人々の生活スタイルや価値観を一変し、ニューノーマル時代を到来させた。このことが「2025年の崖」を前倒しした可能性がある。また、コロナ禍はDXの推進に着手していなかった企業にダメージを与えている。DXの推進は、大方の予想よりも切迫した課題となっているのだ。企業は生き残りとさらなる成長のために、DXを理解して取り組む必要がある。
消費者活動の変化
今はモノが売れない時代と言われている。高度成長期が終わり飽和状態と化した市場では、差別化による競争が激化した。その結果、コモディティ化へのサイクルが短くなり、差別化自体が困難になる。同時にインターネットが普及することで、ECサイトの利用が増え、SNSなどで消費者同士の情報共有が進むことで、消費者の購買スタイルが変化してきた。
結果、消費者はモノを所有するよりもコトの体験を重視する購買行動を取るようになる。たとえば、音楽CDや映画のDVDといったモノを所有するよりも、ストリーミングサービスやサブスクリプションサービスを利用するようになる。また、車を所有するよりも、車を利用する体験を購入するレンタカーやカーシェアリングを利用するようになる。このような消費行動の変化に対応して顧客満足度を高めるためには、小売業でもDXの推進が必須となっているのである。
新規参入者によるゲームチェンジ
デジタル技術を使って革新的なビジネスモデルを創出し、既存の市場に新規参入する企業があらゆる産業で登場してきている。このような企業はデジタル・ディスラプターと呼ばれ、既存の市場を破壊して急成長し、ゲームチェンジを起こしている。
たとえば米アマゾンは、ECにより品揃えの豊富さ、配達の迅速さ、レコメンド機能やランキング機能などにより消費者に新しいショッピング体験をもたらした。また、米エアビーアンドビーは宿泊業界の、配車サービスの米ウーバーテクノロジーズはタクシー業界の従来のビジネスモデルに揺さぶりをかけている。
これらのデジタル・ディスラプターに淘汰されないためには、既存の企業もDXを迅速に推進してデジタル技術によるイノベーションを起こし、新たな価値の創造を行う必要がある。
DX推進における日本企業の課題
課題 | アプローチ方法 |
理解不足 | 「DX」と「デジタイゼーション」「デジタライゼーション」の違いを理解し、正しい方向でDXを進めていく |
戦略不足 | 具体的な経営ビジョンを持ち、仮説・実行・検証を迅速に繰り返して新しいビジネスモデルや価値の創出への意欲を醸成できる仕組みを作る |
意思決定 | 各事業部の新しいデジタル技術への取り組みを推進するためのDX推進部を設置。また、その部署をサポートする体制の整備。 |
レガシーシステムのコスト | 予算や人材を圧迫するレガシーシステムの維持・アップデートにコストをかけるのでなく、新しいシステムの導入を検討する |
IT人材の確保 |
最新のデジタル技術に精通し、各事業部の業務を理解でき、DX推進をリードできる人材の確保 |
DX推進にはいくつか課題が存在する。実際、日本の企業においてもDX推進の必要性に対する認識は高まってきているが、その具体的な方向性に関しては模索を続けている状況にある。まずはDX推進を阻害している課題を1つずつ確認しておこう。
理解不足
日本の企業においてDX推進が遅れている理由に、DXに対する理解不足がある。特に経営者も現場も、DXをデジタイゼーション(Digitization)やデジタライゼーション(Digitalization)と混同してしまう。
デジタイゼーションは既存の業務プロセスをデジタル化し、効率化を図ること。デジタライゼーションでビジネスプロセスの変革を行い、新たなビジネスモデルの創出への足がかりとすること。DXは、これらの成果を競争力の獲得と新しいニーズの創出に結びつけることだ。この認識を社内共通で持てないとDXへの変換が難しくなるのだ。
デジタイゼーション/デジタライゼーションとの違いをもう一度確認する
戦略不足
DXは新しいビジネスの創出である。そのため、経営戦略が策定されていなければ、場当たり的で断続的なデジタル化が行われるだけとなってしまう。その結果、現場は目指すところがわからなくなり、目の前の部分的な業務プロセスの効率化が進められるだけに留まる。そして新しい技術のPoC(Proof of Concept:概念実証)ばかりを目的がないまま繰り返すことになり、現場の疲弊とDX推進の失敗へと繋がることになる。
また、戦略がなければ、現場では部下に対して導入する技術だけを示して丸投げになってしまう。たとえば、「IoTやAIを導入して何かやってみろ」という指示になってしまい、現場は何をもって成果とするのかがわからないまま迷走することになる。しかし、どのような新しい価値を創出し、どのようなビジネスモデルを構築すべきなのかという経営戦略を打ち立てることができれば、DXの推進を目指すことができる。
意思決定
DX推進のビジョンが明確になり戦略を立てることができたら、経営トップのコミット、企業によっては長い伝統や慣例、社風などから改革が求められる。人は現状維持を好むため、各現場では新しいこと、とりわけ従来の業務プロセスや価値観を変えてしまいそうな改革に対しては反発する可能性がある。そのため、DX推進を経営企画部や情報システム部、あるいは新設したDX推進部などに任せても、他の部門から抵抗にあったり、積極的な協力を得られなかったりすることが考えられる。
したがって、経営トップ自らが強くコミットする姿勢を見せることで、DX推進をリードする担当部門に推進力を与える。経営トップがビジョンと戦略を示し、自ら人材の確保や予算の割り当てを示すことで、DX推進が全社的なプロジェクトであることの認識を浸透させるのだ。経営トップの後押しを受けることで、DX推進プロジェクトに係わるリーダーたちのリーダーシップを発揮させることができる。
レガシーシステムのコスト
DX推進の障壁の一つに、老朽化したレガシーシステムの存在がある。レガシーシステムの多くは過剰なカスタマイズを施されているため、システムが複雑化しブラックボックス化している。そのため、システムの構築や運用・保守に精通した従業員が退職すると、運用・保守のコスト負担が大きくなり、次々と登場する新しいデジタル技術への投資を圧迫してしまうのだ。
したがって、レガシーシステムからの脱却は、早期に着手することが望ましい。もし、既にレガシーシステムの内部構造や動作原理に精通している従業員が退職しているのであれば、無理なアップデートはせずに、新しいシステムの導入を検討すべきだ。
その際、既存の業務プロセスやビジネス慣行に合わせてカスタマイズするのではなく、新しいシステムに合わせて、従来の業務プロセスやビジネス慣行を見直す機会とするのが望ましい。また、新しいシステムでは開発に携わる担当者が共通の理解の元に連携し、一貫性のあるシステムを構築する必要がある。
IT人材の不足
DX推進の課題に、エンジニア人材の問題がある。特にエンジニア人材は、日本全体において不足しているため、確保が難しい。経済産業省の調査では、2030年のIT人材不足は、需要の伸びが約9~3%の高位シナリオでは約79万人不足し、需要の伸びが約5~2%の中位シナリオでは約45万人、需要の伸びが約1%の低位シナリオでも約16万人が不足すると予測している。(※2)
特にDX推進における人材の確保は困難。最新のIT動向に精通しているだけでなく、自社の製品・サービスに関する知識や市場動向、ビジネスモデルに関する知識を持ち合わせたマルチな人材が必要とされるためだ。さらに、プロジェクトを推進するためにチーム内や他部門とのコミュニケーションスキルも必要になる。このような人材は、自社で育成することも難しい。
そのため、人材の確保はDX推進において大きな課題となる。これまでシステム開発や運用・保守を外部のベンダーに丸投げしてきた企業では、自社にノウハウが蓄積されていない。そのためDXを推進するための人材がいないのだ。以上のことから、DXを推進するための人材を確保する仕組み作りを急がなければならない。
DXを支えるテクノロジー
DX推進の実現は、最先端のデジタル技術によって支えられる。そこで代表的なデジタル技術について確認しておこう。
AI(人工知能)
AIとは「Artificial Intelligence」の略で、人工知能と訳される。AIの定義は研究者ごとに異なるが、一般社団法人 人工知能学会のホームページ(※3)では、「人間と同じ知的作業をする機械を工学的に実現する技術」と定義。「知的作業をする機械」とは、意思決定などの作業のことで、将棋を指すなども含まれる。「工学的に実現する」とは、人間の脳と同じような動作を実現できれば、仕組みは脳と同じでなくても構わないことを示している。下表は、AIが活用されている主な分野と具体的な領域の一例だ。
分野 | 領域 |
コンピュータビジョン | 画像分類、物体検出、画像生成、ノイズ除去など |
自然言語処理 | 機械翻訳、質問応答、感情分析など |
医学 | 医療画像セグメンテーション、創薬、病変のセグメンテーションなど |
スピーチ | 音声認識、音声合成、対話の生成など |
ロボット | カリキュラム学習、モーションプランニングなど |
音楽 | 音楽の生成、音楽情報検索、音源分離など |
推論 | 意思決定、常識的な推論、視覚的推論など |
その他 | レコメンデーションシステム、院が推論、軌道予測など |
始めは狭い範囲での活用となっていたが、AIの進歩と共に、活用分野と領域も広がり続けているのが特徴だ。(※4)
5G
5Gは「5th Generation」の略で「第5世代移動通信システム」と訳される。「高速大容量」「高信頼・低遅延通信」「多数同時接続」という特徴により、社会に大きな技術革新をもたらす次世代通信インフラとして注目されている。これまでスマートフォンを支えてきた4Gに比べて、通信速度は20倍、遅延は10分の1、そして同時接続台数は10倍にもなるため、これまでは難しいとされていた用途への活用が見込まれる。以下は5Gの活用例だ。
分野 | 活用事例 |
動画配信 | 4K・8Kのライブ配信 |
VR(仮想現実)、AR(拡張現実) | ライブやスポーツ、オンラインゲームなどでのVRやAR体験 |
医療 | 画像や動画による遠隔地の診療や遠隔操縦による手術 |
交通 | インターネットで交通情報と自動車情報を接続した自動運転 |
上表のように、5Gの「高速大容量」「高信頼・低遅延通信」「多数同時接続」という特徴から、動画や高品質画像といった大容量データ転送が必要な分野や、機械の遠隔操縦、そして多数の端末を同時に接続するIoTや交通インフラへの応用が期待されている。
IoT(モノのインターネット)
IoTは「Internet of Things」の略称で「モノのインターネット」と訳されており、身の回りのあらゆるモノがインターネットを介して繋がることを示している。これまでインターネットに接続していたのはパソコンやタブレット、スマートフォンなどのコンピュータ端末だった。しかしIoTでは家電品や自動車、ウェアラブルデバイス、玩具、タグ付けされた荷物など、あらゆるものがインターネットを介して繋がる。IoTの具体的な活用例は以下の通り。
分野 | 活用事例 |
家電 | 外出先から自宅の照明やエアコンの操作ができる。スマートフォンで玄関を解錠できるなど。 |
物流 | 配送中のタグ付き荷物を追跡できる。 |
製造 | 工場の稼働状況を可視化できる。 |
健康 | ウェアラブルデバイスを装着した人の健康状態を自動的に記録・診断できる。様々な家電品の使用状況から高齢者の健康状態を確認できる。 |
農業 | 温室内の環境を自動的に制御できる。 |
IoTは人を介さずにモノ同士をインターネットで接続するため、人手によるデータ入力が不要になる。そのため、モノや人の移動を追跡したり血圧や脈拍などから自動的に健康状態をモニタリングしたり、あるいは室内環境の自動調整を行うなど、応用範囲は広がり続けている。
クラウド
クラウドは「cloud computing」の略称で、インターネット上のサーバーから提供されたサービスを、パソコンやタブレット、スマートフォンなどの端末で利用する仕組みを示す。クラウドを利用することで、端末ごとにアプリケーションソフトウェアをインストールする必要がなく、データも保存する必要がない。そのため、場所と端末を選ばずに、ソフトとデータを利用することができる。
分野 | 活用事例 |
コミュニケーション | Webメール、Web会議、グループウェア、SNSなど。 |
データ | 共有 オンラインストレージなど。 |
バックオフィス | 人事管理、勤怠管理、経理など。 |
ビジネス | ERP、在庫管理、BI(Business Intelligence)、MA(Marketing Automation)、SFA(Sales Force Automation)、CRM(Customer Relationship Management)など。 |
クラウドを利用するメリットは、端末ごとにソフトウェアをインストールしたり、メンテナンスしたりする必要がなく、どの端末からでも同じ機能を利用できることがある。また、サーバーの設置場所を節約できる。
VR・AR
VRは「Virtual Reality」の略で仮想現実と訳される。ヘッドマウントディスプレイ(HMD)を装着すると、仮想の風景や音が顔の向きに連動して変化し、現実世界のように感じられる。ARは「Augmented Reality」の略で拡張現実と訳される。仮想のキャラクターや道具、建造物、あるいはその土地や店の情報などを、「現実の風景」と連動して映し出すことで、コンピュータが映し出したモノがあたかも現実世界にも存在しているかのように見える。VRとARの具体的な結用例は以下の通り。
分野 | 活用事例 |
ゲーム | VRにより、コンピュータが創り出した仮想の世界に没入してプレイできる。ARでは、現実世界にキャラクターや道具などを映し出すことで、現実の町などを歩きながらゲームをプレイできる。 |
医療 | VRにより手術のシミュレーションを行える。 |
製造業 | VRにより開発した製品の形状や使い勝手をシミュレーションできる。ARでは、製品の製造や保守を行う際にマニュアルや図面を製品に連動させて見ることができる。 |
不動産 | VRにより、まだ建築前の住居環境を顧客が体験できる。 |
商業 | ARにより、商品を買う前に自分の部屋に配置したり、服を画面上で試着したりするなどして購入後のシミュレーションができる。 |
教育 | VRにより、歴史上の都市を体験したり、危険な化学実験のシミュレーションを体験したりできる。 |
VRがコンピュータの創り出した世界を現実のように体験させるのに対して、ARは、情報が追加された現実世界を体験させる違いがある。たとえば「Pokémon GO」はスマートフォンから位置情報を検出して、現実の世界にポケモンのキャラクターがいるかのように映し出す(AR)ことで人気を得た。しかし、いずれも人の空間認識に働きかけることは共通している技術だ。
モバイル
ITにおけるモバイル(mobile)とは、移動中や移動先でも利用できる通信機能・サービスのことを指す。ITやDXの分野では、モバイルと言えばほぼスマートフォンでできることを意味する。
分野 | 活用事例 |
情報集取 | Webブラウザ |
業務 | グループウェア、スケジュール管理 |
コミュニケーション | メール、Web会議ツール、SNS、チャット |
営業 | SFA(Sales Force Automation)、CRM(Customer Relationship Management) |
モバイルが普及することで、どこにいても手軽にWebやクラウドを利用できるようになった。また、ビジネスの効率を飛躍的に向上させている。
DXの事例
DX推進は単なるデジタル化ではなく、ビジネスプロセスの革新による新しいビジネスモデルと価値の創出であることは理解しにくいところがある。そこで、実際のDX推進例を紹介したい。
富士通
富士通は2021年1月から、生体認証技術を使ったレジなし店舗の実証実験を始めた。来店客はスマートフォンに表示したQRコードか、手のひら静脈と顔情報で入店できる。店内のカメラと重量センサーが購入商品を判別し、客が店外に出れば自動的に決済される。
NEC
NECは2020年8月からローソンと共同で、インドネシアのジャカルタ郊外の店舗で映像分析技術やIoTを活用した業務効率化や電力使用量削減の実証実験を始めた。また同年9月には日本航空(JAL)と共同で、羽田空港の売店で顔認証による「手ぶら決済」の実証実験を始めた。
イオンリテール
イオンリテールはカメラ映像をAIで解析して接客やレイアウトの見直しに役立てるシステムを2021年5月に「イオンスタイル川口」(埼玉県川口市)から導入・運用を開始。2022年2月期中には本州と四国の「イオン」「イオンスタイル」76店舗に展開する。
東急ハンズ
東急ハンズは2020年6月1日から15日まで、アバターを介して接客するデジタルストアの実証実験を行った。店内のUV特集コーナーの特別ブースに本社のスタッフのアバターが表示され、来店者の要望にあった商品を案内した。スタッフの働き方の選択肢を増やすと同時に、時間帯ごとの顧客ニーズを把握できるようにした。
アマゾン
英国ロンドンや米国ワシントンで、レジのない「アマゾン・フレッシュ(Amazon Fresh)」がオープンしている。アマゾンのアプリからQRコードをかざせば入店でき、商品を選んで出口を通れば決済が完了する。
アップル
米アップルは2021年6月に、州政府が発行した身分証明書(ID)をiPhoneにデジタル保存する機能を提供するほか、ストレージサービス「iCloud(アイクラウド)」や電子メールアプリにプライバシー保護機能を追加すると発表した。
カインズ
カインズ会津若松店はDXへの取り組みとして、ネットで注文した商品を取り置きできるCAINZ Pick Up専用ロッカーや、アプリでドッグランの利用状況の確認と予約ができるスマートドッグランなどを数多く導入した。
三井不動産
三井不動産は2021年5月、パナソニックシステムソリューションズジャパンと共同で顔認証技術を活用したオフィスビルでのDX推進の取り組みを発表した。その一つとして、日本橋室町三井タワーで社員を対象にした顔認証による「無人セルフレジ決済」と「複合機の個人認証」の実証実験を始めた。
三菱商事/NTT
三菱商事とNTTは2021年3月23日、DX関連のソリューションを提供する新会社「インダストリー・ワン」を設立すると発表した。小売り、卸、メーカーがそれぞれ持つ在庫、受発注、需要予測のデータと、気象予測情報などの外部データを連携させ、AIを活用して実証実験を行った。
ダイエー
ダイエーは、レジに並ばずに会計を済ませられるスマートフォン会計「どこでもレジ レジゴー」を導入。東京都江東区の2店舗から2021年8月下旬に開始。イオングループの一部店舗で利用できるが、ダイエーで導入するのは今回が初めて。
花王
花王は2021年7月19日、店頭支援の担当者が販売店を巡回する際の計画をAIが自動作成するシステムを導入したと発表した。巡回計画は、計画担当者が手作業で作成していたが、新システムでは計画担当者のノウハウなどをAIに学習させ、巡回計画を自動作成する。
ヤマダデンキ
ヤマダホールディングスは2021年3月10日、「ヤマダデンキ」の全約700店舗にデジタルサイネージを設置すると発表した。デジタルサイネージで放映している広告と連動したコンテンツを、公式モバイルアプリ「ヤマダデンキ ケイタイde安心」の利用者に配信し来店を促進することもできる。
小田急電鉄
小田急電鉄は2021年2月、ポイントカードをデジタル化したスマートフォン用の公式アプリ「小田急ポイントアプリ」の配信を開始した。小田急ポイントアプリは加盟店でのポイントサービスをカードレスで利用できる。
マルエツ
マルエツは2021年2月26日、デジタル技術を活用した「体験型スーパーマーケットモデル」1号店「船橋三山店」をオープンした。「イグニカサイネージ」で旬の商品やオリジナル商品などを紹介したり、ワインを選びやすくしたりするアプリ「SAKELAVO」を導入。スマホ決済の「スキャン&ゴー」や、取り扱っていない商品を購入できる「オンラインデリバリー」も導入。
イトーヨーカ堂
イトーヨーカ堂は、食品ロスの削減を目指したIoT活用の実証実験に参加した。RFIDタグやセンサー機器を活用することで食品の鮮度情報を可視化するとともに、産地から消費者の家庭内まで食品サプライチェーン全体を通してトレーサビリティを管理する。
企業の生き残りと成長のために、DXを理解して取り組む
DXはデジタイゼーション、デジタライゼーションの成果を「競争上の優位性」として確立させ、社会に影響を与える手段だ。今後ますます進化を遂げるIT技術を上手く活用し、国際競争力を失わないために日本でもDXの推進が急務とされている。そのためには、DXを正しく理解し、DX推進の環境を整えることが必要不可欠。紹介した、DXの事例などを参考に、ぜひ検討してみてほしい。
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参考
※1 経済産業省『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/pdf/20180907_03.pdf
※2 経済産業省『IT人材需給に関する調査(概要)』
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/gaiyou.pdf
※3 人工知能学会『【記事更新】教養知識としてのAI 〔第1回〕AIってなに?』
https://www.ai-gakkai.or.jp/resource/ai_comics/comic_no1/
※4 Papers With Code『Browse the State-of-the-Art in Machine Learning』
https://paperswithcode.com/sota