第三回Microsoft Retail Open Lab 『AI時代の流通業界のプラクティスと新たな展望』セミナー開催レポート【前編】

2024/08/07 09:00
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【業界別AI取り組み紹介】
② 消費財製造業
「花王のチャレンジ~生成AIをビジネスに活かすための人財教育と仕組み作り~」
花王株式会社
DX戦略部門 DX戦略デザインセンター センター長
桑原 裕史 氏

桑原 裕児 氏

体系的なプログラムを始動し、全社員向けに生成AI活用の人財教育を強

 消費財製造業での生成AI活用の事例として、花王の桑原氏が人財育成に焦点を当てた講演を行いました。講演の中では長谷部 佳宏社長も動画で登場し、「時代の変化を乗り越え、他社に先んじるためにはデジタル技術を上手に活用することが不可欠。花王はデータとデジタル技術を最大限に活用し、心を動かす顧客体験を通して良きモノづくりに貢献するDXを推進する」というメッセージが紹介されました。花王は経営トップを先頭に2018年からDX推進によるデータドリブン経営への改革に取り組んできました。これまではデジタルリテラシーの高い一部の社員が中心でしたが、今後は全社員がDXを通じた変革に参加できる状態を目指しています。

 花王の人財教育について桑原氏は、「まずDXの理解を進めるためにDXスキル診断などを実施し、一部の興味ある社員を対象にするのではなく、全社員を対象にプログラムを開始しました」と話します。外部コンテンツを利用したDXスキル診断後、診断結果に基づいたオンライン学習を実施。各カテゴリーで3コースを受講すると「DX Beginner」に認定され、すでに12,000人の社員が修了するなど、着実に広がりを見せています。

 次の段階は「部門DX推進者」で、各部門の特性に合わせたプログラムを受講するとともに、2024年からKao A.I. アカデミーもカリキュラムに加えられています。Kao A.I. アカデミーには生成AIに関する基本的な知識を習得するフレンドコースと、エントリー形式でワークショップに参加してプロンプトを書いてみるマスターコースを設けており、スキルに合わせたコースを受講できます。桑原氏によれば、「このマスターコースは始まったばかりですが、すでに500人ほどが修了しています」とのことで、AIの業務活用への意欲が高まっています。

シチズンデベロッパーがDXを強力に推進

 社内版ChatGPTKao AI Chat」については、登場した当初から情報システム部門と連携し、20236月に国内で使えるようにしたとのこと。3か月後には欧米に展開し23年内にアジアの拠点で活用できるようになり、いち早く全社に導入しています。このような展開ができたのも、DXを推進するうえで人財育成を重視してきたことがベースにあるからであり、現在では1か月あたり40005000人がKao AI Chatを使用しています。

 DX人財の育成を通じて、「現場の課題を理解し、デジタルを活用して業務効率化を進める、いわゆるシチズンデベロッパーが生まれています」と桑原氏は述べています。情報システム部門の専門家に頼らずとも、現場の社員が自主的に課題解決に取り組んでいるとのことです。

 DX推進の本格化とともにデータも充実し、増え続けていますが、今後それらのデータを全社員が十分に活用していくことが重要だと桑原氏は認識しています。データの統合から、次にデータのインテリジェンス化に向けて、育成されたシチズンデベロッパーへの期待が高まっています。こうした人材の活躍とともに、「協働しながら横展開していきます。そこに生成AIを活用することで、さらなる発展が期待できます」と桑原氏は今後の展望を語りました。

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