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DXを中心に据えた新経営戦略「ウエルシア2.0」 データドリブン経営でめざす小売業の未来

2025/02/07 16:00
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2024年11月27日、小売業のデータドリブン経営をテーマに「Uvance CX Talk Session」(富士通株式会社主催)が開催された。登壇者はウエルシア薬局常務取締役情報システム本部長の安部崇氏、GK Software SE(以下、GK Software)の CEO(最高経営責任者)のマイケル・シャイブナー氏、富士通Consumer Experience事業本部エグゼクティブディレクターの松本良浩氏。富士通が2023年に買収したGK Software のソリューションを活用しDX(デジタルトランスフォーメーション)に乗り出したウエルシア薬局の取り組み、それを支えるデジタル技術について3氏が語ったセッションをお届けする。

登壇者4人
左から富士通Consumer Experience事業本部エグゼクティブディレクターの松本良浩氏、ウエルシア薬局常務取締役情報システム本部長の安部崇氏、GK Software CEOのマイケル・シャイブナー氏、ダイヤモンド・リテイルメディア「ダイヤモンド・チェーンストア」編集長の阿部幸治氏

登壇者
ウエルシア薬局 常務取締役情報システム本部長 安部 崇 氏
GK Software CEO(最高経営責任者) マイケル・シャイブナー 氏
富士通 Consumer Experience事業本部エグゼクティブディレクター 松本 良浩 氏

モデレーター
ダイヤモンド・リテイルメディア 「ダイヤモンド・チェーンストア」編集長 阿部 幸治 氏

GK Software、富士通が日本の小売業に先進ソリューションを提供

阿部 まず、ウエルシア薬局の安倍様、GK Softwareのシャイブナー様、富士通の松本様に自己紹介をお願いします。

安倍 当社はイオンのドラッグストア子会社として全国に約3000店舗を展開しており、調剤保険薬局数は国内最多の約2200店舗に達しています。私は商品部、営業部を経て、この10年ほどはシステムを担当しています。

安部 崇 氏
ウエルシア薬局 常務取締役情報システム本部長 安部 崇 氏

シャイブナー GK Softwareに15年ほど前に入社し、1年半前にCEOに就きました。GK Softwareはドイツに本社を置き、世界の大手小売業を中心にDXソリューションを提供しており、2023年に富士通グループの一員となりました。

松本 大手流通業営業や各種事業開発を経て2015年から小売業向けのグローバルソリューションの企画・販売を担当し、現在はUvance CXビジネスの事業戦略の立案と実行を担っております。

阿部 GK Softwareをご存知ない方も多いと思います。どんな会社なのか、シャイブナー様にご紹介いただければと思います。

シャイブナー GK Softwareは30年以上にわたりグローバル規模で小売業向けソリューションを提供してきました。お客様は65カ国以上におよび、実装・導入のケースは1000以上に達しています。導入企業には、カルティエやクロエなどのブランドを有するリシュモンのほか、ウォルマート、アディダスなどがあります。今後、富士通とともに本格的に日本市場を開拓していきたいと考えています。

阿部 富士通がGK Softwareを買収したねらいについて、松本様、ご説明いただけますか。

松本 富士通は2023年にTOB(任意株式公開買い付け)を実施し、GK Software の株式を取得しました。GK Softwareは欧米ナンバーワンの小売業向けクラウドベースの「コマースアプリケーション群」を保有しており、何としてもGK Softwareと深い関係を結びたかったのです。富士通としては、当社の持つ技術を組み合わせてGK Softwareのソリューションの価値をさらに高めていきたいと考えています。

新戦略の中心にDXを据えるウエルシアがダイナミックプライシングのPoC

阿部 では、日本最大のドラッグストアチェーンであるウエルシア薬局の取り組みについて安倍様に伺いたいと思います。24年10月に発表された新たなグループ経営方針「ウエルシア2.0」のポイントについてお聞かせください。

安倍 これまで、調剤併設・カウンセリング・深夜営業・介護の4大方針と、高速出店、M&A(合併・買収)により規模の追求を成長戦略の柱として事業を進めてきました。その結果、売上規模は2009年度に2000億円だったのが2023年度に1兆2000億円に達しました。

 しかし今後の成長に向けては、この規模を利益に転換していく必要があります。そのために、これまでの成長戦略を一部見直し、DX思考による業務効率化の追求と新たなビジネスモデルへのチャレンジを新たに施策として展開することとしました。

 新たな戦略として掲げたのが、①プロダクト戦略(多様化する顧客ニーズに対応した商品開発と地域特性に応じた品揃え)、②メディカルケア戦略(ヘルスケアデータを活用しライフスタイルに応じたお客様との接点を持つ)、③リージョン戦略(各地域の出店状況を可視化し各地域に適した改装と出店を集中的に行う)です。

 そして、医療データ・健康データ・POSデータを集約した顧客データ基盤をハブ機能としてDXがプロダクト、メディカルケア、リージョンの3つの戦略を支える。経営の中心にデータを据え、デジタル技術を活用してこれらの戦略を実行するデータドリブン経営を全社的に推進していきます。2025年度にはウエルシアホールディングスにDX推進部を新設し、DXを加速する考えです。これにより地域ナンバーワンの健康ステーション実現をめざします。

阿部 データドリブンを経営の核に据えておられるのですね。すでに、GK Softwareのソリューションを活用してダイナミックプライシングのPoC(概念実証)に取り組まれたとお聞きしています。この取り組みについてご説明いただけますか。

安倍 利益拡大に向けてプライシングの再設計が急務となっているため、その分析手法・ツールについての検討が必要になり、富士通からGK AIRを紹介していただき検証することにしました。GK AIRはAIを実装したSaaS型プロダクトです。AIアルゴリズム開発も不要でスピーディーに利用できるため、これを使って過去の購買データを用いた机上実験を実施しました。

 都市型5店舗、郊外型5店舗の既存店データを利用して、価格変動の大きい564商品で価格最適化を実施してシミュレーションを行いました。これはGK AIRが弾き出した価格に売価を変更してデータを取ったという意味です。

 その結果、対象商品の粗利益が30%以上増え、約2万SKUを有する店舗全体では粗利益を1%以上押し上げました。客数でいうと10%以上の増加に相当します。実店舗で客数を1割伸ばすのは至難の業ですので、次に進むうえで有益な結果ととらえています。現在、PoCの結果を踏まえて本格的な活用について検討しているところです。

阿部 机上検証とはいえ1%以上の粗利益増という結果は大きいですね。本格的な活用の検討にあたり、GK Softwareのシャイブナー様、富士通の松本様からアドバイスはありますか。

シャイブナー ウエルシア薬局様にわれわれの製品を信頼しPoCに活用していただいたことに感謝いたします。小売業の利益に直結する重要な取り組みであり、これを富士通とともに強力に支援し、日本でのユースケースをつくりあげたいと思います。

 GK AIRは欧米で360社以上の導入実績があります。小売業に最適化されたAIアルゴリズムを実装しており、SaaSサービスとしてすぐに利用できることが大きな特徴です。ウエルシア薬局様の取り組みに似たドラッグストアのSanicareとスポーツ用品店の11Teamsportsの2つの事例ユースケースを紹介しましょう。

 Sanicareでは65万点以上という膨大な商品の価格設定、高い競争圧力、手動による価格設定が効果的でないといった課題がありました。とくに手動作業は競争優位のボトルネックとなっていました。GK AIRを活用し、日々の自動価格計算と実行、利益/収益最適化アルゴリズム、競合他社の価格を継続的に考慮した結果、売上高は10.8%増、収益は4.7%増、マージンは4.4%増となりました。

 11Teamsportsは膨大な数のスポーツ用品を店舗とECサイトで販売しています。GK AIRを使って価格決定プロセスを自働化しました。3カ月で導入し、結果、販売数量は2.94%増、売上は5.46%増、利益率は1.43%増となりました。これにより市場における競争優位の獲得につながりました。

 マイケル・シャイブナー 氏
GK Software CEO(最高経営責任者) マイケル・シャイブナー 氏

松本 富士通としての価値貢献は、1つはオペレーションの効率化や最適化です。例えば、GK Softwareのパートナー、フランスの電子棚札ベンダーVusionと富士通もパートナーシップを結んで高度なインテグレーションに取り組んでいます。これにより値札に関わるオペレーションだけでなく、バックヤードと連携した店舗全体のオペレーションの効率化が可能となります。もう1つは、プライシングの情報と販売予測の情報を組み合わせてコントロールすることによる物流の平準化・最適化にもつなげることができます。

ウエルシア薬局のデータ活用構想とGK Software /富士通の提供価値

阿部 ウエルシア薬局の安倍様に次の質問です。データドリブン経営に関して他にどのようなデータ活用を検討されていらっしゃいますか。

安倍 プロダクト戦略における、デジタル技術にデータ分析・市場開拓・チャネル戦略を掛け合わせたDX化の推進、そして20年後の主要顧客であるZ世代に対応した商品・手法の検討です。DX化の推進にあたって、新設したマーケティング部にリテールメディア担当とデータ分析担当を配置し、One to One マーケティングにつなげる活動を始めています。

 DX化推進については、例えば、お客様に付与したWelcia-IDを用いた顧客データを分析してマーケティングオートメーションに取り組みたいと思っています。また、アプリを使ったデジタル販促も行う考えです。すでにアプリ開発会社を買収し素早いアプリ更新もできるようにしています。ECは自社サイトと他社サイトへの出店がありますが、自社サイトの売上拡大を図るのが課題です。オンラインとオフラインとの垣根をなくすOMO(Online Merges with Offline)として、「おうちウエルシア」というサービスを提供しています。自宅にいながら最寄り店舗の在庫を確認してから買物に行く、あるいは自宅に送ってもらうといったように、お客様が選択できるようにしています。いわゆるBOPIS(Buy Online Pick-up In Store)にも取り組み始めたところです。

 20年後の主要顧客であるZ世代に対応した商品・手法については、Z世代は用途・機能が同じ商品でも少しの違いで別の店に行かれてしまう傾向があるため、SNSの分析も含めて、トレンドをキャッチして品揃えに生かしていくためのツールも導入しました。Z世代に対する、市場データに基づいた弊社独自の商品開発にも力を入れていきます。

阿部 さまざまなデータ活用の構想をお持ちなのですね。実現に向けてGK Software、富士通から提案できることはあるのでしょうか。シャイブナー様、松本様、いかがでしょうか。

シャイブナー ドイツのDouglasというビューティへエルスケアの小売業の事例を紹介しましょう。同社の課題の1つめはオンラインとオフラインの販売チャネルでOne to Oneのパーソナライゼーションを行うこと。2つめは価格を変えることができない香水ブランドがあるといったビジネス上の制約に対応すること。3つめは欧州にあるGDPRというデータ保護の法律に準拠した顧客サービスを提供することでした。

 GK Softwareのソリューションを活用し、店舗のPOSシステムなどのタッチポイントやモバイルを活用しリアルタイムで顧客の行動をトラッキングし、カスタマージャーニーを理解した上で顧客一人ひとりに合わせた商品・サービスを提案したり、ニュースレターを送ったりしました。

 その結果、レコメンデーションによる収益が8%増、コンバージョンレートが5.7 %増、クリックレートが31.7%増となりました。特筆されるのはクリックレートの上昇です。お客様一人ひとりの年齢、興味、そして来店頻度などを踏まえて、ニュースレターで情報を提供していったことが大幅な改善につながりました。

松本 富士通は医療情報の電子化に以前から取り組んでおり、個人のデータの了解を得た上で診察のデータやレセプトデータ、ライフログなどを集約した「Healthy Living Platform」を事業化しており、医療関係をはじめさまざまなウェルビーイングの企業で利活用いただいています。このプラットフォームのヘルスケアデータとウエルシア薬局様の購買データを統合して管理する。そこに富士通の持つ顧客行動のタグ化技術を組み合わせることでレコメンデーションの精度を上げていきます。ヘルスケアと買物という切り口で、精度高くお客様にパーソナライズした販促施策を提供していく、その実現に向けて、他のソリューションやデータソースも含めてご提供できると思っています。

松本 良浩 氏
富士通 Consumer Experience事業本部エグゼクティブディレクター 松本 良浩 氏

阿部 ウエルシア薬局の構想実現に向けてGK Software、富士通が貢献できることはたくさんありそうですね。今後の展開を楽しみにしています。ウエルシア薬局の安倍様に最後の質問です。この構想の先に実現したい未来を教えてください。

安倍 この戦略の先にある姿として、「ひとりひとりのありたい姿をサポートするWelcia」を実現したいと考えています。ウエルシアはひとりひとりのお客様に想いに応え、お客様とのつながりを通じて、地域全体の健康につながっていく、そんな店でありたいと考えています。ウエルシアは本気で「地域No.1の健康ステーション」をめざしており、その手段として戦略目標に掲げたデータドリブン経営を推進していきたいと考えています。

阿部 最後に、安倍様、シャイブナー様、松本様からコメントをいただきたいと思います。

安倍 利益が取りにくい時代です。DX推進の実行施策としてダイナミックプライシングの取り組みをぜひ成功させたいと思っています。さまざまなデジタル技術を活用し、今までの勘と経験からデータドリブンの商売に変えていきますので、ご期待いただきたいと思います。

シャイブナー 富士通とともに日本の小売業の皆様を支援し、信頼を得ていきたいと思います。お客様の収益向上に貢献するため、価値創造と、市場投入までの時間を最優先に考え、事業に取り組んでいきたいと思います。

松本 日本のお客様の声を聞き、GK Softwareのソリューションを皆様の役に立つように発展させ、小売業の皆様に価値貢献していきますので、ぜひこれからご期待ください。

Fujitsu Uvance Consumer Experience 新しい顧客体験とサステナブルな社会を実現

GK AIR
AIベースのリアルタイムレコメンデーションとダイナミックプライシングにより、サステナブルな消費を実現 : 富士通

こちら記事で紹介したセッションは「顧客・生活者体験の向上Days」(富士通主催)のアーバイブ配信で2025年3月18日まで視聴可能です。視聴登録はこちらから

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記事執筆者

ダイヤモンド・リテイルメディア 流通マーケティング局は、DCSオンラインを通じて、食品メーカーやIT・通信などの事業者様が、小売業へPRや協業などを検討する際の最適なパートナーとなります。小売業との協業を増やしたい、小売業へのアプローチをしたいなどのご用命は、ダイヤモンド・リテイルメディア 流通マーケティング局へお問い合わせください。

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