【小売DX】なぜ、“スマホレジ”が客単価アップと店舗省力化のカギになるのか
新型コロナウイルス禍による外出機会の減少で消費者の購買行動が変化している。消費者は生活必需品を扱う店舗やネットスーパーの利用を増やしている。小売業は購買行動の変化にどう対応するのか。小売業向けデジタルトランスフォーメーション(DX)支援ソリューション「FUJITSU Retail Solution Brainforce」を提供する富士通のデジタルソリューション事業本部SmartRetail事業部の原田崇史事業部長とダイヤモンド・リテイルメディア『ダイヤモンド・チェーンストア』の阿部幸治編集長が語り合った。
「支払い・レジ待ち」が面倒に感じる消費者が増加
阿部 コロナ禍で外出を控えたり、在宅勤務が広がったりした結果、消費者は生活必需品を扱う店舗やEC(ネット通販)、ネットスーパーの利用を増やしました。感染拡大が落ち着いても消費者の買い物行動は変わらないように思われます。
原田 当社は消費者のスマートフォン(スマホ)で利用できるスマホレジやネットスーパーなどのサービスを提供しています。そこで得られるデータを見ると、感染拡大が落ち着いたときでも利用率が下がる動きは見られません。感染者数の高低にかかわらず、ネットスーパーやスマホ決済の利用が広がっていることが明らかになっています。
阿部 とくに店舗では、短時間・ワンストップでストレスなく買い物をしたい、買い物頻度も減らしたいという意識があるようです。野村総合研究所の調査によると、店舗で買い物をする際に日頃から面倒に感じていることとして、「支払い・レジ待ち」が56.9%だったのが、コロナ感染拡大をきっかけに、より面倒に感じるようになった人の割合が64.1%に上昇しています。
原田 セミセルフレジやフルセルフレジの導入が拡大しているのも、そうした消費者の意識の変化をさらに後押ししていると言えるでしょう。
阿部 仕事でもプライベートでもオンラインの利用が広がり、移動時間や待ち時間が限りなくゼロに近づいた結果、時間の価値が以前にも増して高まっています。レジ待ち時間も、より敏感に感じるようになったのではないでしょうか。
原田 オンラインチャネルの利用が増えるなか、いつでもどこでも買い物ができる環境が求められています。オンラインで注文した場合も、店舗で受け取ったり、宅配ロッカーで受け取ったり、消費者の都合に合わせて使い分けています。これも時間の価値が高まっていることの表れでしょう。時間の価値が高まるなかで、まずはセミセルフレジやフルセルフレジの導入が広がっており、次の段階としてスマホレジの導入が拡大していくと見ています。
スマホ決済を起点に、食品スーパーが“食”から“暮らし”のパートナーへ
阿部 スマホレジを導入している店舗での利用状況はいかがでしょうか。
原田 スマホレジの利用度が高い店舗の一つに、ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス傘下の食品スーパーのカスミ様が運営する新業態店舗「BLANDE(ブランデ)」があります。「BLANDE」のサービスの一環として提供されている会員制サービス「BLANDE Prime」は、スマホで商品スキャンしながら買い物が可能な「Scan&Go Ignica」アプリを利用しています。「BLANDE Prime」ではSilver、Goldの有料会員向け特典として、Online Delivery配送料無料やヘルスサポートなどを提供しています。
スマホを使ったアクションにつながる、こうした仕掛けをした店舗はスマホレジの利用度が高いという結果が出ています。スマホにクーポンを送る機能を搭載することも仕掛けの一つになるでしょう。店内で買い物をするにはスマホが必要になるからです。スマホレジの利用度を高めるためには、店内でスマホを使ってもらえるような仕掛けづくりが必要なことがわかっています。
阿部 スマホレジが普及するフェーズはそれほど先のことではないでしょう。スマホレジが浸透していくと、逆にスマホレジでない買い物を不便に感じるようになるかもしれません。
原田 Online Delivery配送料無料やヘルスサポートなどもそうですが、顧客に合わせたクーポンが発行されることによって、会員になることのロイヤルティが高まります。そうすると、スマホレジの利用はさらに伸びていくでしょう。
阿部 食品スーパーには食を中心にした暮らし全般のパートナーという提供価値があります。その点においてもスマホの活用は寄与しそうです。
原田 実際にカスミ様の「BLANDE Prime」ではSilver、Gold会員向けサービスとして医療相談アプリも利用可能となっています。健康に関する情報発信を行う企業も少なくありません。そうした提供価値を高めるためにデジタル化は非常に有効です。これまで小売業は主に実店舗を通じて価値を提供してきましたが、デジタルを活用した顧客との新たな接点をつくらなければ、食に関連したさまざまな価値提供は難しくなるでしょう。その一方で、慢性的な人手不足が続く小売業には、業務効率化につながるデジタル化も求められています。顧客体験(CX)だけでなく従業員体験(EX)の向上にも貢献するDXが求められていると言えます。