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平和堂が「魚食文化の継承」を重要テーマに掲げ鮮魚に注力!旬な天然生魚と刺身の品揃えを強化

平和堂(滋賀県/平松正嗣社長)の鮮魚部門は「魚食文化の継承」をテーマに掲げ、旬を重視した天然生魚、刺身を中心とした品揃えに力を入れている。同時に、部門責任者をはじめ人材育成にも取り組み、売場、接客両面からのアプローチにより消費者からの支持獲得をめざしている。

地域特性を意識した売場

 近年、魚の消費量は年々減少、日本人の魚離れが進む。そのなか平和堂では、鮮魚を来店動機につながる集客部門と位置づけ、充実を図っている。

 部門の方針について平和堂生鮮食品事業部鮮魚課の山﨑克裕課長は、次のように説明する。「当社が、継続的にテーマとして掲げてきたのが『魚食文化の継承』。現在、関西、北陸、東海の2府7県で158店を展開するが、各地域で異なる、好まれる魚種、調理法、加工品を意識した品揃えをしている」。

人気魚種のサーモン、塩干品の干物、漬け魚の加工原料などは輸入魚もうまく組み合わせながら魅力的な売場を工夫する。写真は「アラスカ産 薄塩紅鮭」

 魚食文化を継承する方針のもと、具体的な施策としてとくに充実を図るのは天然の生魚と刺身である。古くから日本人の食卓に並び、親しまれてきた、これら2つの分野に強いこだわりを持ち、商品を提供しているのが平和堂の特徴だ。もちろん人気魚種のサーモン、塩干品の干物、漬け魚の加工原料などはノルウェー、ロシア、アラスカ産など輸入魚もうまく組み合わせながら魅力的な売場を工夫する。

 同社鮮魚部門の現状を数値面から紹介すると、食品全体に占める売上高構成比は直近データで8.4~8.5%となっている。有力食品スーパーでは年々、売上高を下げている企業もあるなか、平和堂では独自の取り組みによって横ばいで推移、健闘を見せる。

 さて昨今の食にまつわる動向に目を向けると、最も大きな影響を与えたのはコロナ禍である。昨春以降、外出を控え、家庭で調理をする内食需要の高まりを受け、平和堂の鮮魚部門では消費者の購買行動は大きく変化した。

 来店回数が減少したのに伴い、1回当たりの購買金額が増加。保存性の高い冷凍食品や真空パック商品が大きく伸びた。平和堂が力を入れる刺身は前年実績を割り込んだ反面、食事完結性の高い寿司の動きが好調であるなど、これまでの経験、実績からは先が読めない売れ方をした。

生鮮食品事業部鮮魚課
山﨑克裕課長

 家で料理をする人が増えたのを受け、従来なら刺身で提供していた魚を切り身で提供するなど、来店客の動向に合わせた商品展開が支持され、20年度、鮮魚部門の売上高は対前期比8%増で着地。21年度は、その翌年ということもあり、やや厳しい状態が続いている。

 「1年半で環境は変化しているが、これまで取り組んできた各地のおいしい魚を届ける方針は今後も続けていく。少しでも多くの方に魚に興味を持ってもらい、食べてもらえる売場づくりに力を入れていきたい」(山﨑課長)

メニュー提案を重視

 魚食文化を継承する方針のもと、平和堂の鮮魚部門が、主力の施策として力を入れるのは「本日の一品」という取り組みである。

天然生魚、刺身を中心とした品揃えを行う。その日、豊富に水揚げされ市場に出回った魚のうち、旬を打ち出せるものを各店で単品量販する「本日の一品」は主力の施策

 その日、豊富に水揚げされ市場に出回った魚のうち、旬を打ち出せる魚種をバイヤーが選定、各店舗で単品量販するというものだ。秋であれば、天然のハマチ、戻りカツオ、今年は不漁だがサンマ、冬になるとブリといった魚を大量に陳列して強く訴求。旬ではなくても、通年で需要があるアジなどを販売する場合もある。

 いうまでもなく旬の魚はその季節が最もおいしい。さらに大量に揚がっているため価格も安い。そんな鮮度、味がよく、お値打ちの商品を、日々、バイヤーが瞬間的に判断しながら、売り込んでいく。

 本日の一品で選ばれた魚は、丸魚だけでなく、時間の経過とともに切り身、サクといったように加工度を上げ、豊富なSKU展開を行う。そのなか平和堂が売場でとくに意識しているのは、メニューの提案である。

 フライ用のものは皮、骨を取り除いた状態で提供。同様に、煮魚、焼き魚、刺身、ソテー向けといったように、一目で食べ方、メニューをイメージできる商品形態、売場づくりができることが理想。「売場に来たお客さまが、『これは私がつくりたいと思った料理のために商品を揃えてくれている』と感じてもらえたらありがたい」(山﨑課長)。

 各商品には、おすすめの理由、調理法、食べ方のコツなど、ワンポイントで説明した手書きPOPを添え、来店客にアピールする。商品部で作成した、各店共通のPOPを使うこともあるが、最近は手づくり感ある販促物も多用するようになっている。

 これらと同時に、こだわるのが接客である。一定以上の広さがある店舗では、魚に詳しい担当者が売場に立ち、来店客とコミュニケーションを取りながら販売する。調理方法を聞かれるときもあり、お客の好みを聞きながらおすすめの食べ方を伝える。

 「POPだけでは、情報を発信するにも限りがある。接客は、さらに多くの情報を伝えられるほか、なじみのお客さまをつくることができる。『あの人に魚のことを聞いたらなんでも教えてくれる』と、会話できる環境をつくることで安心感ある売場を実現していきたい」(山﨑課長)。

従業員の意欲を喚起する講座

 品揃え、売場の充実を図る一方、鮮魚課がここ数年、強化しているのが人材育成。3年前から本部近くの「技能研修センター」で、「魚の匠(うおのたくみ)」という講座を開いている。対象となるのは、各店舗に在籍する部門責任者の主任だ。

3年前から本部近くの「技能研修センター」で、「魚の匠(うおのたくみ)」という講座を開いている

 参加するのは自ら申し出て、さらに店長からの推薦を受けた従業員。毎年30人程度が集まり、1年間、月に1度のペースで魚の加工技術や各種知識、さらに接客などを学ぶ。

講座を一通り受けた後、店舗で品揃え、売場づくりのテストをクリアすれば、「フィッシュスペシャリスト」の称号が与えられ、名札に表記することができる

 「目的は、部下を教育する人材の育成。各店で常に同じ水準のOJTができる環境を整え、鮮魚部門全体のレベルを上げようと考えている。なかでも接客は現場の力に頼っているという意味では属人的で、ある意味鮮魚部門の弱点ともいえる。だがこの研修を行うことで弱点を強みに変えようとしている」(山﨑課長)。

 研修では、実際に魚のさばき方を一から習得するほか、座学では旬の魚やその特徴、料理法などを勉強する。春先にはアジ、イワシ、秋に向かっては鍋商材、時には養殖魚のブリや鯛などについても詳しく勉強する。またコロナ禍の対応としてオンラインの設備を整え、ライブ配信形式により遠隔地店舗のメンバーも参加できるようになった。

 講座を一通り受けた後、実際の店舗で品揃え、売場づくりのテストをクリアすれば、「フィッシュスペシャリスト」の称号と金のバッジが与えられる。給与面では、社内検定をクリアしたというプラスアルファの特別手当もつくとあり、従業員の意欲喚起にもつながっている。

部門の効率運営を志向、今春からはプロセスセンターで刺身を加工、各店への出荷をスタートした

 このように新たな取り組みにより鮮魚部門の活性化を図る平和堂。店内加工、接客のレベル向上をめざす一方、部門の効率運営を志向する試みにもチャレンジしている。今春からは、滋賀県多賀町や京都府久御山町にあるプロセスセンターで刺身を加工、各店への出荷をスタートした。厨房施設が十分にない小型店や都市型店でも朝から品揃えし、来店客の満足度を向上することができる。

 平和堂では、これからも今回紹介した種々の施策に力を入れる方針だ。山﨑課長は「地道に続け、魅力のある鮮魚部門にしていきたい」と意気込みを見せる。