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コロナ反動と値上げで伸び悩む生協宅配 さらなる進化の伸び代と戦略… とは

生協宅配大

多くの生協が値上げ敢行、6月から供給高の下降続く

 コロナ禍においてその他小売業態を上回って業績を伸長させた生協。しかし、そんな特需も終わり、反動減と環境激変に苛まれている。

 日本生活協同組合連合会(東京都:以下、日本生協連)によると、全国63主要地域生協の2021年度の総供給高(商品売上高に相当)は、対前年度比1.1%減の3兆922億円(推計値)。主な事業である宅配は同0.8%減の2兆1148億円、店舗は同2.3%減の9273億円でともに減収となった。それでもコロナ感染拡大前の19年度との比較では宅配は14.8%増、店舗は3.4%増と、とくに宅配事業はいまだに高い水準を維持している。

 しかし22年度に入って潮目が変わりつつある。背景にあるのは、ウクライナ情勢に端を発する原料価格やエネルギー価格の高騰などの外部環境の悪化だ。

 本特集ではその実態を知るべく地域生協にアンケートを実施した。その結果、「電気代」「配送燃料代」「商品原価」の増加がとくに深刻な課題となり、これらのコスト増をすべて吸収することは難しく、多くの生協では食品のほとんどのカテゴリーの値上げに踏み切っていた。

 こうした生協を含む物価上昇は消費マインドの低下に直結する。は生協宅配の22年度供給高の推移だ。22年6月から前年割れが続いている。

 一方で、競合サービスとの競争は激しさを増している。コロナ禍での宅配ニーズの高まりを受けて、大手食品小売企業を中心に各社が食品配送サービスに積極投資し、攻勢を強めている。実際、本特集で実施したレシート調査では、競合サービスが新規利用者を獲得し、生鮮をはじめふだん使いの商品も購入されるなど、着実に存在感を増していることが結果に表れている。

コスト増や人手不足にDX推進で対応する

 こうした状況下で生協陣は、これまで進めてきた改革に再びアクセルを踏み込んでいる。

 まず、デジタルトランスフォーメーション(DX)の加速だ。20年3月、日本生協連主導のもと、全国のDXを推進する「DXCO・OPプロジェクト(以下、DXコーププロジェクト)」を開始しており、成功事例を全国に波及し改革を図ろうとしている。なかでも先行している施策が、レシピを選択すると、必要な食材が、人数に応じて注文できるWebサービス「コープシェフ」だ。実証実験を通じて利用者の注文金額が2~3割アップする効果が得られたことから、東海、北陸、中国・四国エリアの計21県23生協に導入を広げている。

 またコープあいち(愛知県)では、AIによる効率的な設計で、配送コースの最適化を図る実証実験を実施。配送時間やトラックの走行距離が短縮する効果が出ている。

 配送現場に関連して昨今注目されているのが、働き方改革関連法による「物流の2024年問題」だ。配送員の時間外労働時間に上限が設けられることで、生協宅配でも人手不足の深刻化が予測されるが、前出のアンケート結果では「影響は少ない」と答える生協が最多で、生協本体とその配送子会社においてはすでに規定を遵守できている生協が多いようだ。

 しかし、生協の配送委託先では同問題による影響が生じ、委託料の値上げ等が発生してくる可能性は十分ある。また、コロナ禍による不況で一時応募が増えていた生協宅配の配送員の採用状況は、感染症の収束とともに再び悪化しつつある。こうした人件費高騰や人手不足の観点でもDXによる配送効率化は有効な対応策であり、早期の全国展開が期待されている。

生産者との関係を強化し、商品力で差別化

 商品面においては、生産者との関係強化に取り組んでいる。生協はかねてより全国の生産者とのネットワークを構築し、産直商品を強みとしてきた。そんななか、昨今のウクライナ情勢により、世界情勢に左右されない国産商品の需要がこれまで以上に高まっている。国産品には供給量に制限があるものの、生産者との関係を強めることで安定供給を実現し、値上げが続くなかでも付加価値を提案することで差別化につなげる考えだ。

 たとえばパルシステム連合会(東京都)は、畜産農家とともに肥料の国産比率向上に取り組むほか、産直農家と取引先メーカーをつなぎ、産直商品の開発をこれまで以上に進めようとしている。

 外部企業と積極的に手を組み、品揃えの魅力を高めているのがコープさっぽろ(北海道)だ。同生協は良品計画(東京都)との協業を進め、若い世代を中心に支持の高い「無印良品」の食品や日用雑貨を宅配サービスで扱い好評を得ている。同生協の大見英明理事長は「道内の物流インフラを強みに、外部企業のEC物流を代行するプラットフォームのような役割も果たせる」と述べ、今後も外部企業との連携を広げていく姿勢だ。

 商品プロモーションも従来と異なる手法に挑戦している。力をいれるのが、生協が長年の課題とする若い世代の取り込みだ。組合員全体のうち20~40代の割合が2割に満たない生協は多い。そこで、人や環境に配慮した「エシカル消費」に対応した商品開発・アピールやSNSによる情報発信など、若い世代へのアプローチを強化している。競合サービスも攻勢を強めるなか、次の利用者の中心となる若年層の獲得は生協にとって避けては通れない課題であり、いっそうの試みを進めている。

事業構造改革にメス 店舗の価値を生かす

 そして、ここにきて本腰を入れるのが店舗事業の抜本的な改革だ。生協は長年、宅配事業の収益によって店舗事業の赤字をカバーする事業構造を抜け出せずにいる。しかし、昨今の各種コスト増が宅配事業の収益を圧迫しつつあるなか、本格的な事業構造改革が喫緊の課題となっている。店舗事業供給高が全体の約5割と生協のなかでも高い割合を占めているコープこうべ(兵庫県)では「収支改善の見通しの立たない不採算店は、営業終了も視野に改革を進めることが必要」(岩山利久組合長理事)と、いよいよ本格的に店舗事業改革を進める方針を示している。

 一方で生協は、店舗やここで得た組合員データといった店舗事業の資産を生かし、連携を強化することで宅配事業のさらなる成長を図ろうとしている。具体的な例としてコープこうべでは、宅配で注文した商品を受け取れる「めーむひろば」を店舗に設置。宅配と店舗両方を利用する組合員は、店舗だけの利用者と比較して生協利用額が約1.7倍も高くなる傾向があることから、今後はこの「めーむひろば」を起点に宅配と店舗の併用利用者を増やし全体利用額を伸ばしたい考えだ。

 また店舗を拠点として活用し、店舗出荷型のネットスーパーを広げる生協も複数出てきている。コープみらい(埼玉県)は、コロナ禍で導入店舗を埼玉・東京・千葉の計6店まで拡大。週次配送ではなく「注文後すぐに商品を届けてほしい」という組合員の要望に対応する。個店ベースではすでに黒字化を達成しており、サービスの手応えが得られればさらに導入店舗を拡大することも検討しているという。

 さらに大阪いずみ市民生協(大阪府)は楽天グループ(東京都)が運営するネットスーパーのプラットフォーム「楽天全国スーパー」への出店を発表し、23年春頃にサービスを開始する予定だ。こうした店舗を生かしたサービスの創出・強化も進んでいきそうだ。

 このようにコロナ特需から一変、急激に悪化した外部環境のもと、生協は変革を加速させている。中長期的な生協の成長戦略について日本生協連の藤井喜継代表理事事業担当専務は「生協の総合力の発揮」を挙げる。主力の宅配事業に、店舗や福祉をはじめとしたその他事業も合わせて提案し暮らし全般をサポートできる存在となることで、必要とされ続ける存在をめざすという。

 カギとなるのが、組合員データの一元化だ。現在、生協では事業別で個人データが紐づいていない地域生協がほとんどだ。これまでなかなか改革が進んでこなかったが、コープデリ連合会は25年までに統合をめざす方針を掲げているほか、DXコーププロジェクトでも、全国単位かつ事業横断的に統一した「統一ID」で組合員情報を管理する体制構築に22年下期から本格的に動きだしている。

 ここまで述べてきた内容からわかるように生協宅配は、生活にまつわる複数の事業、長年築いてきた物流や生産者とのネットワークなど、競合他社にはない活動資源を有する。データやシステムの整備により、総合力が生かせる基盤が整えば、生協宅配の真価はさらに発揮されていきそうだ。

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