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スーパーマーケットが直面するインフレが「長い戦い」になる理由と3つの対策

目下スーパーマーケットは、さまざまなコスト増に直面しています。押し寄せるインフレの波にスーパーマーケットは22年度どのように取り組もうとしているのか。最近の取材から要点を取り挙げてみると、インフレの波は一過性ではなく、2020年代を通じて持続する長期の波動のように思えてきます。 

インフレ圧力が 製造・小売の断層を刺激

冷食売場の拡大は光熱費にとっては負担増の要因に(ヨークベニマル西富山店、写真はイメージです)

 スーパーマーケット業界が直面するインフレ課題のうち、最近の決算会見で最も深刻に受け止められていたのは光熱費の高騰でした。電気代に限っても、直近で1.5倍になる月が出たり、年間で3割以上の増加を見込んでいたり、チェーン規模が大きくなれば数十億円のコスト増を見越していたりです。しかも想定の多くは、負荷が上振れする可能性も十分という留保つきです。

 ロシアと欧米の関係が現状のようになると、エネルギーコストの問題は簡単に解決しそうにありません。一方で、化石燃料から再生可能エネルギーへのシフトは、ウクライナ問題より前からの課題でもありました。数十年後のカーボンニュートラルを目指す道のりを考えても、どのみちエネルギーコストは割高になる未来しかなさそうです。苦しさに耐えかねて原発に依存するかもしれませんが、それはそれでいろいろな社会課題を突きつけます。

 原材料のインフレを受けて、スーパーマーケットの決算会見では値上げに関する質問が多く出ます。そこでは商品価格を上げないという回答は、ほぼ聞かれません。上げない対応を取る企業として取り上げられることの多いイオンや西友も、価格凍結をしているのはプライベートブランド(PB)だけで、それも期限を区切りながらの処置です。

 価格は上げざるをえないとしても、小売の現場は競合店と顧客を奪い合っていますから、可能な限り売価の上昇を抑えるしかありません。メーカーはどの店で売れても基本はOKですが、小売はナショナルブランド(NB)のようにどこででも売られている商品は、価格で差をつけるしかありません。あらゆる店で一斉に値上げしてほしいメーカーと、他店より1円でも価格上昇を抑えたい小売。両者の立場は断絶しています。インフレ圧力が高まると、価格を上げたい・上げたくないの断層が、業界を揺るがす震源になることがたびたびです。

 また、円安によって輸入原価の高騰にアクセルが掛かっています。ワインをはじめ直輸入を手がけるスーパーマーケットにとっては負担増も直接的です。

 ウクライナ問題もあって小麦の調達コストはなお上がりそうですし、年末用のカニをはじめ、ロシアから輸入してきた魚介類の調達懸念も多くの企業から聞かれます。たとえ当事国の間で停戦が実現しても、ロシアと日本の関係も相当に損なわれましたから、海産物の輸入への影響は長く尾を引くかもしれません。

コスト増に対するスーパーマーケットの商品戦略は3つ

 光熱費は上がる、調達コストは上がる。しかし価格転嫁は最小限に留めなければならない環境にあって、スーパーマーケット各社が進める商品施策は概ね共通しています。いかにオリジナリティを高めるかです。

 オリジナリティを発揮しようとする分野もほぼ共通で、以下の3点に集約されそうです。

  1. PB比率を高める
  2. 総菜の構成比を高める
  3. 生鮮の加工度を高める

 いずれも、よそにはない商品として打ち出せて、かつ粗利率の高い商品群です。②と③はコロナ2年目に再び顕著になった簡便ニーズへの対応でもあります。各社のアプローチは一緒ですから、あとは結果である商品の質の違いが差を生むことになるのでしょう。

 ですから「質を追求する」という言葉が、多くの経営者から聞かれます。価格対策でやれることよりも、質の追求でやれることの方が打ち手が多いというわけで、その目指すところはヨークベニマルの大高善興会長が、4月オープンの西富山店(栃木県那須塩原市)の囲み取材で言及されたことに集約されると思います。

 「安さを追いかけても限度がある。しかしお客さまの欲求は無限だ。だからお客さまが求めるものを追求していく」(大高会長)

 

さらに人件費インフレの課題

コスト増を見据えつつ進化を続けるヨークベニマルのデリカ売場

 そのヨークベニマル、今期からデリカの子会社ライフフーズを統合した新体制になりました。デリカ売場は子育て世帯へのアプローチを強めており、昨年の新店・改装店から「with mom」の看板を掲げるようになっています。売場の見せ方だけでなく、普段使いの煮物から見栄えにもこだわったメニューまで、カテゴリー単位の商品開発が進化を続けています。

 この進化を今後も継続していくために、デリカ部門では年初から単品ごとに必要な値上げを進めました。一部店舗でテストして、価格を上げても販売点数が落ちなければ全店に広げてきたと言います。

 デリカ事業本部長の松崎久美取締役は、「3年後の人件費を見越して必要な価格対応を進める」と言います。目下の原料高騰に対処するのはもちろんですが、将来の経費増を見越せば、ここで値上げを躊躇してはいられないという判断です。必要な値上げは5月上旬までに済ませて、さらに状況の推移を注視するそうです。

 確かに政府は、以前からあらゆる産業に賃金上昇を求めて来ましたし、首相は去年は所得倍増と言い、今年は資産所得倍増を掲げたり、何にせよ生活者の手取りを劇的に増やしたいと考えているようです。もとより労働人口の減少は深刻な社会課題です。

 エネルギー価格も調達コストも人件費も上がる20年代は、国内スーパーが30年以上も経験してこなかったインフレ局面での競争になっていく気配です。