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最強ECシーインが米国でフォーエバー21と資本提携 その狙いと日本への影響とは

8月24日、アパレルEC世界最大手のShein(シーイン)は、グローバルサイトで、米国でForever21(フォーエバー21)などを運営するSPARC GROUP(スパーク・グループ)との株式交換による戦略的アライアンスを発表した。シーインはスパークス グループの約30%を保有する大株主となり、スパークスはシーインの株を多少保有するとのべられている(詳細な数字は非開示)。これによってシーインは何を狙うのか、日本ではアダストリアがフォーエバー21を展開するなか、そのビジネスにどんな影響が考えられるのか。

シーイングローバルサイトより

フォーエバー21運営会社が、商業施設展開に強みを持つ理由

 米国スパーク・グループとは、プレミアムアウトレットなどショッピングセンターのデベロッパーをやっているサイモンプロパティーズ(不動産)とブルックスブラザーズ、ナインウエスト、フォーエバー21など、いくつかのブランド管理会社であるオーセンティック・ブランズ・グループ(ブランド管理)がジョイントベンチャーにより設立した会社だ。それゆえ、リアル店舗への出店において極めて強みを持つことがわかるだろう。

  この一週間、ロイター、CNNなど米国主要メディアはこぞってこの話題に触れているが、どの論調を読んでも、オーセンティック・ブランズが保有するフォーエバー21シーインのグローバルネットチャネルを活用する一方で、シーインにとって悲願だったリアル店舗への大量出店を同時に実現するというものだが、私もそれが最善の策だろうと思う。

 本日は、この米国で起きたアパレル業界大変革の余震ともいうべき地殻変動の持つ意味、そして、日本や世界への影響について語りたい。なにせ、一度破綻したとはいえ、あの「フォーエバー 21」だ。その全米の店舗数はいまだ400店舗以上(2023年)ある。しかも、どちらも「ファストファッション」だ。商品価格など親和性も高い。

 なおフォーエバー21は、日本ではマスターライセンスを伊藤忠商事が持ち、リテールアパレル大手アダストリアがサブライセンシーとなり、アダストリアのバリューチェーンで、価格も上げ、型数も絞って全く別物になっている。また、伊藤忠商事の販売権利は日本だけで中国も入っていない。この動きは日本におけるフォーエバー21事業にどんな影響を及ぼすのかも書いていきたい。

予測的中、「空中戦のあとは地上戦」の再来

 私は自身のアパレル三部作、二作目の『生き残るアパレル死ぬアパレル』で、縮小している市場での戦い方は金融か不動産などになり、KPIは「売上 × 利益率」から「顧客起点のLTV(顧客生涯価値)やCS(顧客満足)となり、どれだけ特定顧客を掴んだかによって勝敗が決まる」と論じた。そして、当時は、Amazon(アマゾン)、楽天、ヤフーの3メガモールが制空権を奪い合い、イオンとセブン&アイ・ホールディングスが地上戦を巡って戦っている構造を解説した。

  そのなかで、実際に2つの変化が起きた。一つは、無尽蔵に消費人口が増えてゆくわけではないため、消費者のライフタイムに寄り添い、「揺りかごから墓場まで」を一気通貫させ、生じる金銭的トランザクションを根こそぎ奪うというストックビジネスへの移行である。

 2つ目が、空中戦と地上戦で棲み分けられてきた消費者チャネルが、「EC in the pocket」、つまり、消費者がスマホをポケットにいれて町を徘徊すること、により電子商取引をリアル店舗の中で行うOMO(オンラインとオフラインの融合)へと変化し、両者に境目がなくなってきたことである。

 加えて、あれだけ日本を騒がせたアマゾンファッションだが、現状ではグロサリーの強化に特化している印象で、ファッションについてはどこまで本気なのかが見えない状況だ。一方、経営面でいろいろ心配されている楽天のファッション領域はすこぶる堅調だという。

 ファッション品がECで伸びていることは私は数年前から述べており、『生き残るアパレル死ぬアパレル』でも書いているが、結局ZOZOTOWNと楽天だけが甘い果実を吸ったことになる。在庫がないコンサインメント(委託販売)契約が可能なら、ファッション商品ほど儲かるビジネスはない。さらに本書では、「在庫損失リスクがなくなれば、ビットコインなどの技術を使い独自通貨をつくり、完全に商圏を囲い込むだろう」と予言し、締めくくっている。

 

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スパーク・グループの意図は何か?

スパークグループとの戦略的パートナーシップを発表するシーインのグローバルサイト

 では、このように制空権を奪ったECガリバー達は次に何をするかと言えば、地上戦に持ち込みデジタルを生活の中に溶け込ませ、逆にそれぞれの売場特性にあったデジタル戦略を店舗ごと、エリアごとに変化させているし、そうすべきだと思う。

例えば、百貨店とショッピングモールではデジタルの使い方は違うだろうし、宝石と雑貨でも違うだろう。総物販が60%を超え、「クルマでもECで買う」といわれている中国と「5万円超えたらネット(で買うのは)は怖いわ」という人も少なくない日本人を一緒くたにはできない。

 本件に関する様々な記事を探して読むのだが、例外なくフォーエバー 21とシーインのクロスチャネルによる「事業シナジー」がクローズアップされている。わかりやすく言えば、ネット専業のシーインは、一気に400店舗のリアル店舗網を使ったアクセスを可能にし、フォーエバー21は3兆円ともいわれるがその実態が未だ不明なシーイン (15000万人の顧客基盤がいると公式サイトはアピールしている)の巨大ECの1つのコンテンツとなる。これによって、シーインによる全米制覇が進むであろう。

 シーインのグローバルサイトには以下のようなスパーク側の文章が書いてある。

SPARC Group Holdings II LLC today announced a strategic partnership with SHEIN, the global integrated online marketplace for fashion, beauty and lifestyle products. The partnership will focus on meeting the needs of customers in the U.S. and around the world who enjoy affordable, high-quality fashion. 

 私たち(スパークスグループ)は本日、ファッション、ビューティ、ライフスタイルプロダクトの世界的プラットフォーマーであるシーインとの戦略的パートナーシップを発表します。このパートナーシップは、米国のみならず世界中のお客様にとって「手に届きやすく(買いやすく)」、「高品質な」ニーズを満たすものです。(筆者訳)

 ここにハッキリと書かれているように、このフォーエバー21の戦略は日本の戦略とは真逆であることがわかる。フォーエバー21のブランドを保有するオーセンティック・ブランズは、依然、フォーエバー21を安価に手が届き、ファッションを誰でも気軽に楽しめるブランドであると認識し、もともと持つフォーエバー 21の価値がシーイン と酷似しているため、このOMOの親和性が高く、また相互補完が可能だと述べているわけだ。

 

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日本は、バーバリーブラックレーベルの二の舞になるな

アダストリアが展開するフォーエバー21(写真は期間限定店舗、すでに終了済み)

 ここで、私が最も心配するのは、すでに(まったく違う価値観で)見切り発車している日本市場でのアダストリアが日本で展開するフォーエバー21である。当然、これだけの話だ。サブライセンシーとはいえアダストリアにも通達は来ていたはずである。

  アダストリアには、「ファストファッション」=「環境破壊」という公式がアプリオリ(疑うべきでない前提)に組み込まれているのではないかと感じることがある。ファストファッションというのは、消費者側の着こなしの問題であり、それを安価に提供する企業側によるなんらかの力が働いているわけではない。

  だから、フランスのように「超スーパーブランドを買って(というところがすでに浮世離れしていると私は思うが)、それを直して使え」と、まるで高額品を買うことに合理性を持たせる理屈として、SDGsを使っている理屈に賛同できないだけだ。

 今年の猛暑を考えれば、AIが人類を殺す前に地球が我々人類を許さないだろう。すでにその兆候は現れており、世界的なウイルスの流行(高度に発展したロジスティクスのトレードオフともいえる)や世界各地で起きている山火事などだ。先日も終戦記念日のテレビをみていたら、昭和20年終戦の夏、焼け跡の日本で暮らすのはさぞかし辛かっただろうと思ったが、なんと気温だけでいえば26~27度だったという。一方でいまは、夏の甲子園で暑さ対策からナイターにする案も出ているという。地球はまさに沸騰しており、恐ろしい話だ。

 その意味では、個人的にはアダストリアの新生フォーエバー 21を応援したい。同時に、そのバリューチェーンはデジタル技術により、物理距離はどんどん短縮化され、中国の付加価値としてやがてLDP (仕向国指定地出荷)が普通になり、国をまたいで、B/L (国際物流の有価証券)の代わりに出荷先の検収書ベースで決済は完了(現に、今でも交互計算といって、少額であれば国際間決済でも相殺が認められている)するため、港で商社がコンテナを立てるということはなくなるだろう。

 これは、消費国が日本だけだったからできあがったいびつなサプライチェーンであり、合理化という意味ではなんの合理性もない。

 また、ファストファッションについていえば、たとえ500円や1000円の商品でも、気に入れば3年でも4年でも着れば良いのではないかと私は主張したい。過去、私は「在庫税」という、やや過激な提言をおこなったが、産業界はもはや絶えられない状況に陥っているように思う。一見最高益を更新しているように見える日本のアパレル企業だが、ブランドの老体化と国(消費者)の老体化がシンクロしているだけで、やがて消費市場は縮小してゆく。

  私は、このアライアンスが拡大し世界のフォーエバー21の店舗とシーインのEコマースとノウハウが合致すれば、シーインの業績拡大に寄与するだけでなく、その謎のベールが明かされ、同社への正しい理解が進むと思う。「少量」とはいえ、シーインが自社株を外に開放したわけだから、すくなくとも一定数の人間は、その実態を数字で見ることができるようになった。また、IR活動も盛んになってきているし、日本はじめテストケースと思われる実験もあちこちで始まった。幾度も上場か取りやめかのニュースを繰り返してきた同社も、いよいよ世界一を視野に入れた優等生ぶりを発揮し、尊敬されるアパレル企業になるのではないかと思う。

  いずれにせよ、こうしたシナリオの結果、海外旅行で買うフォーエバー21と日本で買うフォーエバー21が違う状態となり、過去三陽商会と英・本国バーバリーで争った中国市場での覇権争い、オンワードのラルフローレンと本国ラルフローレンのような状況に陥る可能性があり、これは私が恐れているシナリオである。フォーエバー21のブランドを保有するオーセンティック・ブランズが戦略として、日本を含め各地のパートナーにライセンスを付与し、各国のやり方にあったビジネスを展開させているわけだが、それでも日本だけがあまりに特別(特殊)だと、このようなことが起きるのはすでに歴史が証明しているわけだ。

 アダストリアには、「自分たちが考えるサステナブルファッションはこうだ」というメッセージを世界に発信し、例え、売上で劣位でも「xxスコア(サステナブル度を示す指数など)」ではこちらのほうが上だ、ぐらいの説明を投資家に発信し世界のライセンスブランドのスタンダードになっていただきたい。アダストリアの壮大なチャレンジを、私は日本人として応援してゆきたい。

 

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プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

株式会社FRI & Company ltd..代表(2023年8月1日に社名を河合拓コンサルティング株式会社より変更)Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。最近ではAI企業、金管楽器メーカー、中国企業などのスタートアップ企業のIPO支援などアパレル産業以外にクライアントは広がっている。座右の銘は生涯現役。現在は慈悲で大学院で経営学の、独学で英語の学び直しを行っている。
著作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送サテライトTV」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議にたびたび出席し産業政策を提出。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
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