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人件費差で選ぶのは時代錯誤!最新のアウトソーシング、CoEとSSCが経営に必須のワケとは

今、アパレル産業以外で、CoE(センター・オブ・エクセレンス)組織、SSC(シェアド・サービス・センター)組織を設置する動きが拡大してきている。この2つは、アウトソーシングである。CoE、SSCとは何で、なぜ、アパレル以外の産業では、こうしたアウトソーシングが増えてきたのか、そして、なぜアパレル産業では、未だに自前主義がはびこっているのかを解説したい。

Andranik Hakobyan/istock

人件費差で選ぶなら、中国企業のアウトソースを日本で受けるのが合理的

 アウトソーシングかといえば、一昔前の考え方にBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)というものがある。これは、中国の人件費などは日本人に比べて数十分の一だから、IT技術を使い「人事、総務、経理」を中国人にやらせ、日本人は本業に徹しようという考え方だ。すでに、大手のコンサルティングファーム、IT会社では採用され、そこで務めた経験がある私は、実際のBPOを実感してビックリしたことがある。

 中国人だからもちろん、日本人の微妙なニュアンスは分からないものの、逆に、会話がまどろっこしくなる会話を嫌ってどうでも良いその問い合わせがなくなり、バックオフィスとの連携が非常にスムースになっていたことを覚えている。

 私は、このBPOをアパレル産業に応用しようとして、大手のアパレルに提案したことがある。BPOによって、企業の人事、総務、経理はすべてリストラできる。つまり、変動費を払えばいくらでもアウトソーシングできるからだ。

 しかしこのプロジェクトはうまくいかなかった。なぜなら、私が「人件費が安い」と思っていたのは、実は日本人の方だったからだ。今、中国沿岸部に行けば、中国語、日本語、英語が話せる、そして、日本企業のバラバラの人事、総務、経理の仕事のやり方を中国で標準化し、対応できる人材の年収は600万円以上だ。かたや日本人のバックオフィスの平均年収は500万円にも届かないのである。

 それなら、中国企業のアウトソーシング業務を日本企業が受ければ良い。

 私が、中国脅威論を肌で感じ始めた瞬間だった。実際、今では先進企業はアウトソーシング先を競合他社とまとめて、沖縄などの国内遠隔地にオフィスを置き、日本という国の中の給与格差でコストメリットを出している。

先進企業はコストメリットでBPOを設置しない

 さて、具体的な名前を挙げるのは守秘契約に抵触するため挙げられないが、みなさんがよくご存じの会社の多くは、アクセンチュア、IBMなどが行う中国のBPOを活用している。その理由は人件費差によるコストメリットではない。Chat GPTや、最新のAI技術を活用した高度なフロント業務支援ができるなど、世界化に向けたコストセンターの設置という戦略的な理由からである。 

 世界化というのは、グローバルで企業のロケーションを眺めたとき、「バックオフィスが日本にある必要があるのか」という議論だ。例えば、ファーストリテイリングは各リージョン、北米、日本、チャイナなどに権限分割し、あたかも別会社のように動いてゆく分散型の組織に変えたのは記憶に新しい。こうした企業の業績結果については次回以降、各社の決算が出揃った時点で解説していくが、こうしたときに何かと中国にコストセンターがあった方がよいのである。とくに中国は、ものづくりの分散化が進んだとはいえ、依然「世界の工場」であり、日本で定型業務をする必要は無いからだ(最近は、このグローバリズムに反対の意見を投げかける論調が増えてきたが、これについても後日私の考えを述べたい)。

成熟時代は頭脳戦が全てを左右 CoEが必須の理由

Akarawut Lohacharoenvanich/istock

 話をアウトソーシングに戻し、BPOの進化形であるCoESSCについて解説したい。

 この二つはアパレル以外の産業では、どんどん広がっているにもかかわらず、アパレル事業会社の人に理解させるのがなかなか難しく、自社のリソースでこれをつくろうとして失敗していることを最初に断っておく。

 CoEは既述の通り「センター・オブ・エクセレンス、つまり知の集約」である。ここにはM&Aに関する業務も含まれる。

 企業買収はコンサルの専売特許でもあるが、企業のデューディリジェンス業務についてはコンサル会社でも撤退を検討中のところが少なくない。

 いい加減なバリエーションで企業価値を算出したり、適当なロジックで「シナジーがでる」と結論づけたり、ひどいケースになると、大リストラをした後、その社長の逃げ先と莫大な金を用意するといったことも私は実際に見てきた。

 そんなわけだから、事業会社に買収防止などできないし、買収防止策を導入した瞬間、「米国式合理的経営がなくなった」と、株主が怒鳴るかが逃げ出して株価が下がる。米国のGAFAMなどは、リストラを繰り返しているが、株価を見ていると上がっていることがわかる。

 企業の売上成長が鈍化したいま、重要な指標は財務3票、特にPL(損益計算書)ではなく株価となるだろう。私が推すTOKYO BASEがたったの一度赤字になっただけで、「大異変だ」と大騒ぎしているメディアを横目に、同社の株価はこの一年で大きく上がっている。このように、企業買収やバリエーションの考え方、SDGSによるWACC(加重平均した資本コスト)への影響など、パブリックカンパニーの本質を理解していない会社は、いまだにPLの売上と利益率を経営指標にしているから、投資家から攻撃を受けるようになるだろう。この観点でみても、企業にとってM&A組織は必須のものとなるだろう。

 その他、アジア市場への正しい理解と中国企業のビジネスモデル、SDGSの世界の潮流やHIGG INDEXのようなオペレーション指標に対する理解と戦略がない企業も破滅する。これからは、財務3票ではキャッシュフロー計算書(システム投資はCAPEXが重要)、そして、企業成長を示すものとしては、株価およびEV (ENTERPRSE VALUE)となり、売上・利益は参考程度となるだろう。

 

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自前のCoE組織が失敗する明白な理由

 こうした、成熟時代では頭脳戦が勝敗を決する。デジタル、企業買収、SDGS、人口減少の4つの力により大きく変貌する経営環境で、どのように生き残るのか、どのような戦略を執るべきかが全てだ。この基本情報を社長に進言するのがCoEで、この組織は自社で結成すると必ず失敗する。

 あるアパレルの経営企画の人間に「こうした動きの結果、どのような影響が考えられるでしょうか」と聞いたところ、「しりませんね。いいかげんなことを行ったら責任をとれないので」という回答だった。いかにも「サラリーマン仕事」なのである。

 しかも、自分の考えはここまでだから、あとは、あなたがやってください、という立場だ。

 そのプロジェクトは混迷を極め失敗することは明らかなのに、考えるまでが自分の仕事で、それを実践するのは別の組織、という考えなのだ。知らぬは社長だけで、このような組織の壁によるサラリーマン仕事をやっている人間ばかりになっている企業は、規模の大小に関わらすどこにでもある。逆に言えば、こうした壁を取り去り、「自分が社長ならどうするか」という考え方ができる人間を集められれば、CoEは機能するのである。

 今、社長には大本営発表とインサイトのない情報しか入ってこず、正しい意思決定ができないでいる。まさに裸の王様状態である。

 BPOを進化させ、ファーストリテイリングがコンサルティング会社や三菱商事とタッグを組んだように、これからのアパレル企業は自前主義を捨て、コンサルティング会社のノウハウを自社内に取り込むアウトソーシングである、CoEの設置が急がれている。

CoEが機能するようになった結果、重要性が顕在化してきたSSC

metamorworks/istock

 こうしたBPOの高度化によってCoEの発展したことで、付加価値のないアウトソーシングがなんなのかということが、皮肉にもその輪郭をハッキリとみせてきた。例えば、突発的に基幹システムの刷新が必要となったため、自社のSIerを集めるのだが、数も質も足りない。こうした平時の最小装備だけで人材をストックしている事業会社が急に大改革を行うということになると、必ずでるのが「本業で忙しくて、そんなことできるか」という怒りの声だ。そこに、いわゆる人貸しをやるのが、シェアド・サービス・センターの略称であるSSCである。

 SSCというと、複数ある重複機能を一つのオペレーションセンターが受け持つイメージがあり、例えば、コールセンターやシステム開発、システムメンテナンスなどが挙げられる。これらの作業はもちろん、人さえいれば良いというほど低付加価値だというつもりはないが、基本的に代替が効く仕事である。 

 私が経験したデジタル企業では、ハイテクはほとんどが米国で開発を行い、世界中に張り巡らされたインターネットのネットワークで、アジア、北米、欧州、などのリージョンにあわせて、開発部隊は最小限に抑え「コンサルタント」を置く。つまり、各リージョンでは、コンサルタントが業務の標準化を可能な限り行い、どうしてもそのリージョンに必要な特殊要件だけ米国に伝えて、米国で開発を行うというフローとなる。

 さらに、SAPのConfigurationも、今はインドや中国企業などにやらせ人件費を減らしているわけだ。実際、SAP/R3の開発者は瞬発的には必要となるが、世の中の流れはオフショア開発が主流だし、今は、AIが開発もやってしまう時代がもうすぐくる。私が個人的に行っている「ビジネスサロン」では、学ぶことによって、その恐怖が身近に感じられ、ITコンサルへ転職したようだ。

 さて、今日はアウトソーシング、いわゆるBPOについて語ったが、以前のような人件費差で安いところにお願いする、などというのは古い発想で、世の中はこの3年でここまで変化した。守秘の壁からこうしたアウトソーシングを採用している企業をご紹介できないのが残念だが、アパレル企業もこれまでの常識をすて、こうした世界企業のあとに続いてもらいたい。

 

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プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
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