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超低金利の終焉がM&Aを誘発する理由とは 高まる金利先高観に備えよ

金利先高観が高まっています。今回はこの局面で、小売業が注意すべきこと、どんな動きが予測されるかについて解説したいと思います。

MicroStockHub/istock
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中国経済の活性化期待が高まった

 先月はこの場で、2023年の株式市場を考える上で、「中国のアフター・コロナ禍を商機にできるか」という視点が重要になると述べました。

 幸いなことに、昨年末から足元(1月27日)までの株価推移はそれに従う動きに見えます。

 例えば、中国展開に本腰を入れるFOOD & LIFE COMPANIES(スシロー等を運営)の株価は+16%、中国・香港に既に429店(2022年8月現在)展開しているサイゼリアの株価は+6%上昇しています。資生堂の株価も+3%上昇しています。

 もちろん、ひとつの基軸で株価が動くというつもりは毛頭ありません。例えば、良品計画は▲9%下落、イオンも▲6%下落しました。国内事業のベクトルが下向きの場合、中国事業に今後追い風が期待できるというだけでは力不足です。

2023年、投資テーマを再確認

  1月に発表された決算を眺めて、改めて今年の投資テーマを再考してみました。二つほど追加したいと思います。

 まず在庫回転率。

 ファーストリテイリング、良品計画、しまむらの最新の四半期決算を紐解くと、いずれも在庫が嵩んでおり、株価はネガティブに反応しています。

 2023年の為替相場は円高・円安といった方向感よりも、変動幅の大きさ(ボラティリティ)のほうが重要になる気がします。商品力を維持しつつ、できる限り在庫回転率を維持できるかどうか、株式市場はSPA(製造小売)企業の”在庫鮮度”に注目を高めていきそうです。

超低金利の終わりの始まりとM&A

nathaphat/istock

  次に中長期金利の先高観。

 日銀総裁の交代を機に、デフレマインドが解消しつつあるとの認識のもとで、為替相場の一方的な円安進行を抑制するために、日銀が漸進的に長期金利の上昇を許容するシナリオが現実味を帯びてきています。

 円金利の上昇局面は随分久しぶりのこととなります。

 そこでまず気になるのは、負債過多の企業。筆者が上場小売企業を点検してみたところ、低収益かつ負債過多という企業は限定的と思います。さすがにバブル崩壊後とは異なります。影響があるとしても、一部の小売企業と外食企業にとどまるのではないでしょうか。

 むしろ金利先高観が高まる局面で、多数派である財務健全な企業がどのような財務戦略をとるのかが気になります。

 金利先高観が強まる局面(予想実質金利のマイナス幅が縮小する局面)へ移行する際、教科書的には借入を増やして投資をすることが理にかなうはずです。

 これまで負債による資金調達を抑制してきた財務力の高い企業が、借入調達を増やして、設備投資とM&A(合併・買収)を一気に加速し陣地を固める。金利先高観は、このような動きを誘発するのではないかと考えます。小売業界に1、2社そのような戦略的な企業が登場するだけで、大きな衝撃を生むのではないでしょうか。

 超低金利の終わりの始まりが、企業ごとの戦略性を問い、業界地図を塗り替える。そんなシナリオを筆者は頭の片隅におきながら、企業動向を追っていこうと思います。

 正夢になるでしょうか。

 

プロフィール
椎名則夫(しいな・のりお)
都市銀行で証券運用・融資に従事したのち、米系資産運用会社の調査部で日本企業の投資調査を行う(担当業界は中小型株全般、ヘルスケア、保険、通信、インターネットなど)。
米系証券会社のリスク管理部門(株式・クレジット等)を経て、独立系投資調査会社に所属し小売セクターを中心にアナリスト業務に携わっていた。シカゴ大学MBA、CFA日本証券アナリスト協会検定会員。マサチューセッツ州立大学MBA講師