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ファミリーマートの売り場はなぜ商品が見つけやすいのか

コンビニ業界2位のファミリーマート。2016年9月に社長に就任した澤田貴司氏は、サークルK・サンクスとのブランド統合だけでなく、商品構成、店頭オペレーション、さらには自ら前面に露出するマーケティング手法など様々な改革を進めてきた。とくにファミリーマートの店頭売り場については明らかに見栄えがよくなったという声も聞かれる。上阪徹氏の著書「職業、挑戦者」からその一端をお届けする。

澤田社長のもと店頭売り場やマーケティング改革に取り組んだファミリーマート。変化はいたるところに見られる

ポテンシャルは売り場にあった 

 もう1つ、澤田が社長に就任してから変わったのが、ファミリーマートの店頭だ。澤田の言葉でいうと、「売り場を固めた」。カテゴリーごとに、商品をまとめていったのだ。

「当たり前なんですが、お客さまはお店に入ったときに、まず全体を見渡すんです。個別の単品に真っ直ぐに目を向ける、というお客さまは実は少ない」

 来店者の目線に立てば、実はそのことに気づける。ところが、商品開発は基本的に単品ごとに行われるのだ。

「だから、単品を開発することには一生懸命に情熱を懸けるんですが、それが売り場にどう並んで、実際に来店されるお客さまにどうインパクトを与えているか、という発想が抜け落ちてしまうことが多い。ただ、これは経営の責任なんです。経営こそが、お客さまの立場に立って、もっと俯瞰して物事を考えていかないといけないんですから」

 いいものをつくれば売れる、という時代はすでに終わっている。過去の焼き直しも通用しない。来店客に、どう売り場を見てもらうか、どう商品を見つけてもらうか、ということが問われてくるのだ。

「だから、売り場を固めるんです」

 そのために、総菜売り場には「お母さん食堂」という名称のコーナーをつくった。温めるだけのプライベートブランド(PB)商品のパッケージも、このコーナーのロゴに合わせたエンジ色に統一した。総菜のほとんどが、このコーナーで売られている。

「お客さまが見えたときに、パッと『お母さん食堂』が目に入る。そうすると、総菜売り場だということがすぐにわかる。見え方がぜんぜん違うんです。そこに、総菜を固める」

 実際、商品の内容はほとんど変わっていないのに、お母さん食堂のコーナーをつくってから、総菜関連の売上げは約2割上がった。70兆円の食全体の市場に向け、各社は商品開発にしのぎを削ってきたが、実は売り場にこそ大きなポテンシャルがあったのだ。

「単品をどんなに頑張ってつくっても、実は売り場では伝わらないんですよ。何をお探しですか、何のために来店されましたか、とお客さまの目線で考えると、そのことに気づける。まとまったコーナーをお客さまは見るんです。見え方がいかに大事か、ということです」

 同じように、ファミチキや焼きとり、コロッケなどホットスナックを扱うコーナーも「ファミ横商店街」のコーナー名称ができて、カウンターの上にPOPが掲げられている。

「でも、こういうマーケティングも、誰も教えてくれなかったんだと思います。僕自身、何度も痛い目に遭って、学んできたことですから」

大事なのは「カラー」をいかに使うか 

 最初の衝撃的な体験は、ユニクロ時代だった。まだフリースブームが始まる前のこと、次に展開する売り場を体育館に仮設して確認する会を澤田は担当した。売り場を変えたかった澤田は、アメリカのアパレルの関係者に会い、彼に売り場の変更を頼んだ。

「そうしたら、アメリカから3人の担当者が送り込まれてきたんですね。そして、半日だけ時間をくれと言う。そうしたら、この売り場を全部、変えるから、と」

 澤田と柳井は半日後に売り場に戻って仰天した。

「びっくりしました。商品は変っていないんですよ。ところが、まったく違う売り場になった。並べ方、色使い、マネキンの使い方、袖のまくり方など、あまりのカッコよさにひっくり返りそうになりました」

 ここまで違うのか、自分たちの売り場づくりは間違っていた、と澤田と柳井は痛感したという。まずは売り場を改革していかないといけない。売り場から考えないといけない。なぜなら、来店客はその売り場をこそ見るからである。
 後に澤田はフリースキャンペーンで、ユニクロの大ブームを起こすことになるが、背景にあったのは、いかに見せるかという売り場づくりへのこだわりが大きかった。

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「あのときも、売れている店と売れていない店の違いは、明るいカラーがちゃんと揃っているかどうか、ということが大きかった。カラーのバリエーションが揃っていない店は、売れないんですよ。売り場を見ると、どんよりと暗い色調で、その差は歴然でした。柳井さんにそれを指摘されて怒られて、僕は強烈に学んだんです」

 ナショナルブランドの商品でも、実は特徴あるカラーの商品のキャンペーンは、よく売れるという。その商品を固めることで、来店者はすぐに目に留めることになるからだ。

「売り場に入ると一発でわかる。売り場を固めるときには、カラーが大事なんです」

 そして澤田のこうした提案に、加盟店はすぐに賛同する。「お母さん食堂」も「ファミ横商店街」も一気に広がっていった。

「加盟店さんは、儲かると思ったらすぐにアクションされるんです。店舗を経営する立場としては売上げが上がることには非常に敏感です。一方で、本部はまだまだサラリーマン気質。その緊張感に差があることは否めません。その差を縮めるための危機感をどれだけ共有できるかが、いまの重要課題なんです」

 ファミリーマートの売り場に行って、チェックしてみるといい。店舗に入るとすぐ、どんなものがどこにあるのかが、以前に比べてわかりやすくなっている。