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ユニバース三浦紘一社長が憤る「ポイント還元対象の中小SMチェーンとの不平等な戦い」

アークス(北海道/横山清社長)のグループ企業で、青森県を中心とした北東北で食品スーパー(SM)57店舗を展開するユニバース。2019年10月に控える消費増税対策としてのキャッシュレス決済におけるポイント還元制度について、同社の三浦紘一社長は、「当社の商勢圏が全国で最も大きく影響を受けるだろう」と危機感を隠さない。変化と混乱が予想されるなか、三浦社長はいま何を考えているのか──。

聞き手・構成=小野貴之(本誌)

ポイント還元制度は「調査不足であり、検討不足」

みうら・こういち●1939年生まれ。
67年10月ユニバースを創立、代表取締役社長(現任)。2011年10月、アークス代表取締役会長に就任(現任)

──消費増税まで約1カ月となりました(取材日は8月27日)。

三浦 まず、今回の消費増税対策としてのキャッシュレス決済時のポイント還元制度は政府が実態を調査しておらず、検討不足が甚だしいです。東京を本拠とする政府が“東京の発想”で物事を決めているという印象です

 前提として、東京と地方では状況がだいぶ異なります。課税所得(年平均額)15億円以下という線引きだと、首都圏では強い企業はほとんどなくなってしまいます。そこにポイント還元があっても、対象外の大手はそれほど影響を受けないと思われます。

※編集部註:今回の消費増税におけるキャッシュレス決済のポイント還元は「中小・小規模事業者」を対象としている。対象となるには「課税所得の年平均額15億円以下」「資本金5000万円以下」などの条件があり、ユニバースは対象外となる。

 その一方で、当社が商勢圏とする北東北、とくに青森県はこのポイント還元の影響を最も大きく受けると思われます。それは課税所得15億円以下でも強い企業が数多くあるためです。

ユニバースの提供資料 三浦社長は、自社店舗の至近距離に中小企業の認定を受けたとはいえ、5%のキャッシュレス還元を受ける大型店が出店してくることに違和感や憤りを感じずにはいられないという。

 小売業の競争は、企業同士の競争という側面もありますが、基本は店同士の競争です。わかりやすい例を挙げると、当社は青森県の五所川原市というところに約840坪の大型SMを展開しているのですが、先日、店舗から100mも離れていない場所に(ポイント還元の対象となる)紅屋商事(青森県/秦雅秀社長)さんが1000坪強のお店を出店されました。これを先ほど申し上げた「店同士の競争」という観点で考えると、840坪の店に(ポイント還元という)支援がなく、1000坪を超える店に支援がある、というたいへん不公平な事態になります。

 このような状況を政府の方に申し上げても、「個別の案件には答えられません」という回答しかありません。地方の実情を調べていないのです。

──ユニバースとしてはどのような対策をしていくのでしょうか。

三浦 おそらくですが、首都圏で店舗展開する大手SMよりも強い対策を講じなければならないと思っています。競合対策の関係からまだ申し上げることができないのですが、なんらかの手は打たないといけないでしょう。ヒントを申し上げると、米国で見られる価格比較のようなサービスはやってみてもいいのではないかと現時点では考えています。

 ただ、やはり自分たちで(原資となる)お金を出して対策をしないといけませんので、今期の利益減少は相当なものになるでしょう。これは当社だけでなく、業界全体に言えることであり、極端なことを言えば赤字転落する企業も何社か出てくるかもしれません。国としては結果的にSM全体からの税収が減ることにもつながりかねません。

── 一連の利益減は、M&A(合併・買収)の呼び水になりえますでしょうか。

三浦 もちろんなります。当社の商勢圏では(M&Aの対象となる企業は)もうあまりありませんが、全国でみれば大手だけでなく、中堅クラスのSM企業もM&Aに動く可能性が十分あるでしょう。

外部決済サービス導入も「検討せざるを得ない」

──ここにきて大手のS M が次々と「PayPay(ペイペイ)」をはじめとした外部企業のキャッシュレス決済サービスを導入しています。

三浦 当社ではアークスグループのポイントカード「アークスRARAカード」を運用していくのを基本としています。ですが、そのような状況を鑑みると、当社も(外部の決済サービスの)導入を検討せざるを得ないのかなと考えています。難点もあるようですが。

──ポイント還元制度の導入後、消費行動は変わっていくでしょうか。

三浦 ここにきてまったくわからなくなってきています。東北は全国的に見てもお盆期間のプラス影響が大きいエリアです。当社はどうかというと、「まあまあ」と言えるまでもう一歩、という結果でした。

 ただ、お盆を過ぎてからの足元の売上が順調に推移しています。通常はお盆休みに旅行などをしてお金を使うので、お盆期間の直後は売上が落ちることが多いのですが、対前年比でみればお盆期間よりもよいくらいです。この理由がさっぱり読めません。

 (軽減税率適用により)食料品の消費税率が変わらないというのも今まで経験しておらず、サービス合戦になることも考えられます。この先の消費についても、わからないというのが正直なところです。

──大規模な価格競争が巻き起こる可能性はあるでしょうか。

三浦 おそらくですが、そこまでの体力がある企業はあまりないと思われます。むしろ、その価格競争に巻き込まれないところこそ、「体力がある」と言えるのかもしれません。価格競争に巻き込まれないためにはやはり商品力です。そういう点では、当社が加盟するCGCグループの商品の品質がだいぶよくなってきており、心強く感じています。

生鮮強化で競合に打ち勝つ!

──SM業界全体の状況についても教えてください。ネットがリアル小売に与える影響をどのように見ていますか。

三浦 それこそ一時期は、「もう新店はつくれないのではないか」とまで考えていました。ですが、状況を見ていると食品が最もECで買われないものである、ということもはっきりとわかってきました。

 海外に目を向ければ、ウォルマートが随分と経営資源をつぎ込んでEC事業を強化しています。こうした動きが日本国内にも影響を与える可能性も否定できません。また、労働条件がまったく違いますのですぐに進出してくることはないと思われますが、中国も食品ECの分野で先行しています。

 今後も(食品のEC比率は)少しずつ上がっていくとみて間違いないでしょう。なにかのブレイクスルーがあって、一気に上がることも覚悟しなければいけません。

──ドラッグストア(DgS)も影響力を強めています。

三浦 食品を扱うDgSが増え、「DgSのほうが(SMよりも)安い」という声もよく聞きます。最も影響があるのは菓子です。ある県ではSMよりもDgSのほうが菓子を売っているという話も聞きました。そういう点では影響はあると言えるでしょう。

 最近は生鮮食品を扱うDgSもありますが、幸いなことに当社の商勢圏ではあまりいませんので、そうした生鮮DgSの影響はまだ先の話になるでしょう。

 生鮮食品と医薬品では購買頻度がまったく異なります。生鮮食品を主戦場とするSMとしては、やはり生鮮食品でお客さまを呼び込みたい。急にはできませんが、生鮮食品の売上高比率が高い店をつくっていきたいと考えています。既存の店舗についても同様です。

──今後、ローカルSMが戦っていくためには何がカギとなりますか。

三浦 マーケットシェアが非常に重要であると考えます。当社は、リベートのほかさまざまな点で、メーカーさんから非常によくしていただいています。売上高1000億~1500億円ほどの企業で、当社ほど厚遇を受けている企業はないのではないでしょうか。

 なぜそれが可能なのかと言えば、マーケットシェアが関係しています。あるメーカーさんからは「青森県で売上を増やすにはユニバースさんに頼むしかない」と言われるほど、当社のことを信頼していただいています。単純な売上高の確保というだけでなく、メーカーさんとの信頼関係という意味で、マーケットシェアを落とさないことはやはり重要です。

──マーケットシェアを高めるためには、どのような打ち手が考えられますか。

三浦 ディスカウントストア業態のような安売りはできませんが、お客さまから見て「高くないこと」が重要です。お客さまに許容していただける売価設定です。あとは、いかに鮮度や品質を向上させていくか。これに尽きると思います。

ユニバースの直近3カ年の業績推移

※各年2月期の連結業績 単位:百万円、%

営業収益 増減 経常利益 増減
2016年度 121,009 2.3 5,282 ▲0.1
2017年度 123,901 2.4 5,219 ▲1.2
2018年度 124,689 0.6 5,230 0.2