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人手不足で力関係が逆転 賞味期限切れ食品の“盗み”を黙認するコンビニ店長

このシリーズは、部下を育成していると信じ込みながら、結局、潰してしまう上司を具体的な事例をもとに紹介する。いずれも私が信用金庫に勤務していた頃や退職後に籍を置く税理士事務所で見聞きした事例だ。特定できないように一部を加工したことは、あらかじめ断っておきたい。事例の後に「こうすれば解決できた」という教訓も取り上げた。今回は、コンビニエンスストアのオーナー兼店長が人手不足のため、アルバイトの問題行為を知りながら何も言えない事例を紹介したい。

 

Photo by akiyoko

第16回の舞台:コンビニエンスストア

都内のコンビニエンスストア(店長以下、アルバイトは23人)

 

廃棄の弁当を盗むアルバイトに何も言えない理由

 北関東のとある町。5階建てマンションの1階に、コンビニエンスストアがある。 その裏に細長い倉庫がある。店の専用のものだ。

 午前9時45分、オーナーで店長の藤田(42歳)と妻でアルバイトの尚美(41歳)が話し合う。

 「また、数が足りないな…。昨晩10時過ぎに、賞期期限切れの商品をバックオフィスで数えたとき、おにぎりや総菜だけで30を超えていたのに、この段ボールの中にはその半分しかない」

 「(アルバイトの)大久保さんや松井さんが、家に持って帰ったのかな…。昨晩のシフトはこのコンビでしょう?」

 「うん。まぁ、賞味期限切れのものはどのみち、捨てるんだから構わないけど、こんなに持ち帰りが増えてくるとな…」

 店は、12年前にオープンした。当初から賞味期限切れの商品は、当日のアルバイトがペットボトルの開き箱に詰めて倉庫に入れる。1箱につき、20∼40の商品を詰め込む。 1日につき、3∼5箱になる。翌朝午前6時前後に箱を倉庫から取り出し、回収の車が来る直前に店の前に並べておくことになっていた。

 数年前までは特に問題なく、処理されていた。だが、最近、尚美が賞味期限切れの商品数と段ボールの数が合わないことに気がついた。商品数が足りないのだ。店長が数人のアルバイトにさりげなく確認すると、ほかの3∼5人のアルバイトが家などに持ち帰り、食べているのだという。その中核が、大久保や松井らしい。

 店長の藤田と妻の尚美が話していると、大久保が出勤してきた。昨日に続き、今日も出勤だ。 尚美が挨拶をすると、すました顔で「おはようございます」と答え、通り過ぎた。その背中を見ながら、藤田が口にする。

 「辞めてくれ、なんて言えないからな…」

 尚美が独り言のようにつぶやく。

 「だけど、なんかの問題に発展しない?」

 藤田は押し黙り、店に戻る。その後を尚美がついていく。

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こうすればよかった!解決策

問題は問題として指摘し、納得してもらうことに力を注ごう

 人手不足が深刻なコンビニエンスストアでは、雇う側と雇われる側の関係が逆転しつつある店が増えている。今回の事例から私は、次のような教訓を導いた。

こうすればよかった①
問題は問題として指摘する

 賞味期限切れの商品を持ち帰り、食べるのは後々、トラブルになる可能性がある。例えば、体の具合が悪くなったりするかもしれない。持ち帰っている姿をお客が見ると不信に感じたり、不快な思いになったりすることもありうる。その意味で、店で責任を持って廃棄しなければならないし、そのように本部はルールを定めている。

 今回の店は、それをしていない。注意をしたことで、従業員は不愉快に思い、辞めてしまうかもしれない。アルバイトの人手が足りないため、店長が「辞められては困る」と考えるのも無理はない。

 だが、問題行為を黙認してしまうと、アルバイトたちに間違ったメッセージを送ることになる。それが積み重なると、ほかのアルバイトらも同様の行動を取るようになる。そこから、新たな問題に発展する場合もあり、まずは毅然とした態度で、ルールの徹底を行わなければ、先はないのだ。

こうすればよかった①
マメに雑談をすることでリスクマネジメントを

  店長のマネジメントで、すばらしい部分もある。例えば、アルバイトから問題行為を素早く聞き出した。これは、なかなか難しいはずだ。アルバイトの中で人間関係や上下関係、しがらみがあるからだ。アルバイトたちで1つのコミュニティーが出来上がり、問題行為が隠されてしまう場合すらある。おそらく、店長はふだんからアルバイトたちと雑談などをマメにしてきたのだろう。

 実は、これがいざというときに「保険」になる場合がある。たわいもない話で構わないから、機会あるごとにしたい。1回につき、3分でいいのだ。あるいは、挨拶をした直後に1分話すだけでも、効果はある。ささいなことであるが、アルバイトの心を掌握するうえで欠かせない試みでないか。

 欲を言えば、賞味期限切れの商品を持ち帰るアルバイトとも前々から話し合っておくべきだった。多少はしていたのかもしれないが、ここまで数が多いと、コミュニケーション不足の疑いがある。

 

神南文弥 (じんなん ぶんや) 
1970年、神奈川県川崎市生まれ。都内の信用金庫で20年近く勤務。支店の副支店長や本部の課長などを歴任。会社員としての将来に見切りをつけ、退職後、都内の税理士事務所に職員として勤務。現在、税理士になるべく猛勉強中。信用金庫在籍中に知り得た様々な会社の人事・労務の問題点を整理し、書籍などにすることを希望している。

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