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落日のGMS その3イトーヨーカドー改革のゆくえ

総合スーパー(GMS)の「イトーヨーカドー」は、国内最大規模の流通コングロマリットに成長したセブン&アイ・ホールディングス(東京都/井阪隆一社長:以下、セブン&アイ)にとっての祖業である。それだけに、苦境に陥っているイトーヨーカ堂(東京都)の立て直しは至上命題である。再生のための手ごたえは掴んでいるのだろうか!?

不採算店舗の閉鎖をはじめとしたリストラ策を進めるイトーヨーカ堂

スクラップ&ビルドの遅れを取り戻せるか

 かねてより構造改革を推し進めるイトーヨーカ堂。店を閉めずに立て直しを図るイオンに対し、イトーヨーカ堂は「食品で利益を稼げない店舗は閉店を実行する」として、2020年度(21年2月期)までに累計40店の店舗を閉鎖するリストラ策を進めている。16年2月期末時点で182店あった店舗数は、21年2月期には142店になる見通しで、首都圏でのドミナント(地域集中出店)体制を集中・強化し、効率化を図る格好だ。

 21年2月期末のイトーヨーカ堂の店舗網は、ショッピングセンター業態への転換が約45店、自営面積を減らしテナントミックス型に変える店舗が約60店、食品とテナントで構成する店舗が約15店、食品館・プライスが18店という構成に生まれ変わる計画だ。これまでの自前主義で売場を作るという形態から転換し、テナントを多用して商圏に合わせた店づくりを行うというのだ。

 「出店した当時は儲かっていても、商圏環境は変わる。だから早めの店舗のスクラップ&ビルドが必要だ」――。ある小売業のトップはそう話す。その一方で、「ヨーカドーは地域とのしがらみもあったのだろう。スクラップ&ビルドが遅れたのではないか」と、ある専門店チェーンの首脳は指摘する。確かに今回閉鎖する店舗も、開店から数十年を経過した店舗が実に多い。

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本部? 店舗? 仕入れの権限はどこへ

本部?店舗?仕入れの権限はどこに?

 イオンが地方分権を推進したはじめたのと同時期の14~15年ごろから、イトーヨーカ堂も「過去のチェーンストア理論から脱却する」として、全社一律の商品政策(MD)をはじめとした従来型チェーンストアの慣習を排除し、独立運営店舗の導入を試みた。各店舗に仕入れなどの権限を与え、店舗独自の商品政策を展開できるようにしたのだ。ハード面のリストラだけでなく、ソフト面でも変革を図ったのだ。

 しかし、この各店仕入れは、企業文化も従業員の練度も組織の大小も影響するため、簡単にできるものではない。一部報道によれば、分権化により仕入れコストが逆にアップしてしまい、16年には地域ごとにあった仕入れ機能を再び本部に戻してしまっているという。

 地域のニーズと商品・価格とのミスマッチが販売不振の原因だとすれば、テナントを導入して自前でとらえきれないニーズを獲得するという戦略は理解できる。ただ、店舗の権限を再び本部に戻すなかで、改めて地域ニーズに合わせた店づくりをどうやって実現するかが、課題となろう。

 イトーヨーカ堂は19年2月期も最終損益が78億円の赤字。これで5期連続の最終赤字であり、依然苦境にあることに変わりはない。「変化対応」をスローガンに掲げるセブン&アイにあって、ヨーカ堂がどのように、そしていつ変化対応を緒に就けるかは課題のままだ。

建設が進む新型店「フォーキャスト」はイトーヨーカ堂構造改革の刺激となるか(6月5日に筆者撮影)


 こうした状況を打開するためか、セブン&アイは現在、新型スーパーの出店準備が密かに進めている。東京・品川にオープンする「フォーキャスト」と名付けられたこの新型スーパーは、イトーヨーカ堂でもヨークマート(東京都/大竹正人社長)でもなく、まったく別の法人であるフォーキャスト(東京都/有坂順一社長)が運営を担う。同店のオープン予定日は8月上旬。生鮮食品や総菜などを中心とした食品スーパーになる見通しで、コンビニと大型食品スーパーの“隙間”を埋める業態になると見られている。

 しかし、イトーヨーカ堂にはすでに「食品館」という食品スーパー業態があるほか、傘下のヨークマートも首都圏で店舗展開している。にもかかわらず、別法人で運営するのはなぜか。イトーヨーカ堂やヨークマートのような従来のスーパー運営のやり方に染まっていない、新しい組織、新しい店舗をつくりたかったからではないか、と筆者は考える。従来とはまったく違ったアプローチによる新型店は、ヨーカドー改革のカンフル剤となるか――。(次回に続く)