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好調!ドンキ運営のPPIHが“優等生化”!?新中計にみる新たに研ぐ成長の牙とは

パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(以下、PPIH)の株価が堅調です。2022年8月29日の東証終値は2,431円で、前年末から+53%上昇しました。この間、東証株価指数は▲2%程度下落していますので、株価パフォーマンスの良さが際立ちます。PPIHの株価はとりわけ8月15日にジャンプしました。前営業日比+11%急騰し、その後おおむね株価の水準を維持しています。
今回はPPIHの最近の好調な株価推移を筆者なりに分析したいと思いますので、最後までお付き合いください。

■PPIHは2021年6月期で全体業績は好調だったものの主力のドン・キホーテは減収減益だった

2022年6月期通期決算が安心材料に

 PPIHの最近の株価の上昇は8月12日に発表された2022年6月期決算発表が契機になりました。まず注目すべきは数値面での安心感です。

 売上高は前年度比+7%増収の1.8兆円、営業利益は同+9%増益の886億円、経常利益は同+23%増益の1004億円、親会社株主に帰属する当期純利益は同+15%増益の619億円となり、増収増益基調が維持されました。売上高営業利益率は同横ばいの4.8%、ROEは同+1.7ポイント改善の15.3%となり、在庫も適宜管理されている模様で、経営効率面での底打ちが確認できました。

 また2023年6月期の会社予想も増収、営業増益となっています。経常利益と当期純利益は減益見通しとなっていますが、為替差損益の想定を保守的に織り込んでいる模様ですので、まずは営業利益の増益が株式市場で評価されていると思います。

 コロナ禍においては、インバウンド市場の消失、人流の変化、インフレによる消費者の価格志向の強まりと同社にとっての原価・操業費用の増加など、PPIHにとっては向かい風要因が多かったと思います。これを総じて見れば、見事に跳ね除けたと言えるでしょう。

新中長期経営計画を発表

さらにPPIHは2022年8月改定版の中長期経営計画も同日対外発表しています。

 PPIHは2020年2月に「Passion 2030」を公表しましたが、最近の事業環境の変化を踏まえて今回の修正に至っています。

 長期目標については、まず2030年6月期営業利益2000億円という目標が据え置かれました。ただし、「経営戦略の転換を推し進めるため」売上目標数値を廃止しています。

 筆者の推察するところ、PPIHは長期的にFC展開やPB(プライベートブランド)の外販など資本効率の高いビジネスへ移行することを選択肢に入れていると考えますが、現時点では材料不足ですので、これ以上掘り下げることはやめておきます。

 次に中期的計数目標として2025年6月期売上高2兆円、営業利益1200億円、営業利益率6%を掲げています。

 株式市場はこの成長志向と利益率に対するこだわりを高く評価していると思います。

洗練された施策 ドンキらしさはどこに?

 具体的な重点施策を見てみましょう。筆者の意訳を含めて整理します。

  1. 国内事業:SPA(製造小売)推進、金融事業強化、CX(顧客体験)改革(majicaアプリ活用による顧客生涯価値の最大化)、生産性改善(含む労働分配率管理)、業態開発
  2. 海外事業:規模拡大、グローバルバリューチェーン構築。国内増益と同等の増益を実現へ。
  3. ESG(環境・社会・ガバナンス):持続可能な社会と企業の実現

 いかがでしょう。

 率直に言って、洗練された”優等生的”事業戦略であり、額面通りポジティブに捉えるべきものだと思います。

 しかし、一方で少し残念なことに、”ドンキらしさ”が薄れた気がします。個店主義、従業員一人ひとりの情熱と商い魂を拠り所にした現場主義、手作り感のようなものが後退した気がしないでもありません。

 もし社名を伏せて、「イオンの戦略骨子だ」と言われたら、筆者は信じてしまうかもしれません。

創業経営陣退任後の必然

 とはいうものの、経営計画の色が変わっていくのは必然でしょう。

 PPIHの場合、前社長・大原(孝治)氏の退任で創業メンバーによる経営は終了し、その後は言ってみればプロ経営者の経営に移行しました。PPIHの聖書である源流をプロ経営者が語っても、創業メンバーと比べれば説得に劣ることは否めないと考えます。また社員も若返る中、時代に即した経営戦略、経営管理が求められます。

ポストコロナ禍でも続く向かい風に対する必然

 もう一つ、より重要なポイントは、ポストコロナ禍においても向かい風の事業環境が続くと考えられることです。したがって、PPIHの経営資源と事業ポテンシャルを今日的に棚卸しし、新しい指針をプロ経営者が示すことを歓迎すべきだと思います。筆者は、この新中長期経営計画の言語に、私のような古くからのドンキファンに対するチャームが乏しいことに寂しさを覚えつつも、現経営陣の自らの言語による発信をポジティブにとらえたいと思います。

 では今後の向かい風とは何でしょうか。

 それは、実質所得目減りによる小売業に対する逆風が強まることです。

 実質所得目減りとは、物価上昇に対して賃金・所得が追いつかず、購買力が減衰する状況を意味します。

 この状況はまさに現在米国で小売業が経験している状況で、そのエッセンスは先月もご案内しました。一言で言えば、節約志向が強まり、日常品は低価格志向が強まる、非日常品消費は限られた予算をコト消費と争うことになる、という状況です。

 エネルギー価格の高騰、東西新冷戦にともなうグローバルサプライチェーンの崩壊、コロナ禍などによるサプライチェーンの予期せぬ寸断の頻発、輸出競争力低下による円安継続などを考えると、インフレ基調は日本でも継続しそうに思います。

 そうであれば、小売業は川上の利益を確保し、かつ消費者の望む商品を自前で管理しながら提供する必要が生まれます。また、顧客接点の強化をスマホなども活用しながら進めることも必要です。こうして売上高の増加と利益率改善を不断に追求しなければ、小売業の競争には生き残れません。

 PPIHの現経営陣はこうした経営環境の厳しさを認識の上、あえて彼ららしい言語で経営方針を公表したと解釈するのが合理的だと思います。それが他社と似てきても、致し方ないのではないでしょうか。

 いわば、新しい牙を生み、研いでいく、ということになります。

商いの達人を育成できるのか

 とはいえ、PPIHに期待したいのは、正統的なチェーンストア戦略に対するプラスアルファの部分です。特に、商いの達人をどれだけ育成できるのか、ぜひこのポイントを注目していきたいと思います。

 最後に、少し脱線しますが、PPIHは創業経営者から非創業経営者へのバトンがうまく引き継がれつつあるように思います。最近、日本電産の永守重信さんの後継者について不透明感が強まっていますが、PPIHの事例は分析に値すると考えます。何かの機会にこの話題もご案内できたらと思っています。

 

プロフィール
椎名則夫(しいな・のりお)
都市銀行で証券運用・融資に従事したのち、米系資産運用会社の調査部で日本企業の投資調査を行う(担当業界は中小型株全般、ヘルスケア、保険、通信、インターネットなど)。
米系証券会社のリスク管理部門(株式・クレジット等)を経て、独立系投資調査会社に所属し小売セクターを中心にアナリスト業務に携わっていた。シカゴ大学MBA、CFA日本証券アナリスト協会検定会員。マサチューセッツ州立大学MBA講師