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経営戦略にサステナブルを組み込み、持続可能な小売業に変革する方法

サステナブル大

原価高騰や価値観の変化…もはや必須の経営施策に

 「SDGs(持続可能な開発目標)」や「サステナビリティ」──。少し前まで食品小売業界においてこれらの活動は社会貢献の一環という域にとどまっていたように思う。しかし今、経営戦略上、欠かせない重要施策として各社が一気に活動を加速させている。

 背景にあるのは、国内全体でサステナビリティへの関心が高まっていることだ。日本政府は「SDGsアクションプラン」を掲げ、2030年までの目標実現のための具体的な優先課題を示すようになった。また株式市場においては22年4月、東京証券取引所の上場区分が再編され、グローバル企業を中心とした「プライム企業」を主に、非財務情報の開示義務が強化された。上場企業にとって「SDGs経営」とその情報開示は、社会的責任や資金調達などの点で必須の状況となっている。

 次に、食品小売企業を取りまく外部環境の急激な変化がある。

 世界的なインフレに円安、ウクライナ情勢に端を発する燃料高などの影響を受け、電気代や原価が高騰。これが急激なコスト増となり企業の経営に重大な影響を与えている。こうしたなか、あらゆるコストやロスを見直し、ムダを削減することが財務面でも求められている。

 加えて、価格競争の激化だ。競争が熾烈を極めるなか食品小売企業が今後、生き残っていくためには、価格以外で他社と差別化を図れる付加価値の創出が求められている。そうしたなか、「健康」「地域密着」「環境に優しい」などのサステナビリティの領域となるこれらの価値が、提案の切り口として注目を集めている。

 もう1つ見過ごせないのが消費者の変化だ。近年では学校教育において、学習指導要領に「持続可能性」が盛り込まれるなど、若い世代を中心にサステナビリティへの関心が広がりつつある。

SDGs経営と業績には相関関係がある!

 そんななか先進的な食品小売企業はサステナブルな施策を加速させている。

 最近の注目すべきトピックスは、中期経営計画といった成長戦略の中に「SDGs」や「サステナビリティ」を組み込み、これを実行することで企業成長の実現をめざす企業が増えている点だ。

 たとえば、食品のサブスクリプションサービスを提供するオイシックス・ラ・大地(東京都)は21年5月、新たな成長戦略として「サステナブルリテール戦略」を発表。テクノロジーの力も掛け合わせて、食の社会課題解決と収益性向上をともに実現する、小売業のリーディングカンパニーをめざすとしている。

 東京都を中心に首都圏で食品スーパー(SM)を展開するサミット(東京都)も、22年度までの3カ年中期経営計画「GOGREEN2022」において、SM事業を通じて、地域の社会課題の解決にも貢献する組織となることで、選ばれる存在になると経営戦略に掲げている。

サミットは中期経営計画に「GO GREEN2022」を掲げ、SM事業運営を通じて、地域の社会課題の解決も図り、選ばれる存在になることをめざす

 また、国連持続可能な開発サミットで採択されたSDGsや、COP21(国連気候変動枠組条約締約国会議)で採択されたパリ協定で掲げる2030年、50年の目標に向けて、自社で達成をめざす独自の数値目標を掲げる企業も増えてきた。

 しかし、このように経営における重要指標として掲げるほど、サステナブルな施策は企業の成長につながると本当にいえるのだろうか。

 この疑問に対して今年6月に発売された書籍『小売業の実践SDGs経営』の著者である渡辺林治氏・篠原欣貴氏は「SDGs経営と小売業の業績との間には有意な相関関係がある」と指摘する。調査・分析したデータでは、直近の業績好調な企業はSDGs経営を重視し、CSR(企業の社会的責任)報告書の作成や環境配慮型商品の導入などに積極的に取り組んでいるという。そして厳しい外部環境下でかつ競争が激化する今だからこそ、小売企業はサステナビリティを経営戦略に融合させた、SDGs経営に取り組むことが重要だと説いている。

ユニークさを発揮して1つの差別化要素に

 このように、サステナビリティを重要な競争戦略としてとらえる企業が増えてきた。では小売各社はどのような活動を実践していけばよいのだろうか。

 コンビニエンスストア大手のファミリーマート(東京都)が重視しているのは「独自性」だ。他社とは異なるユニークさを発揮することが差別化となり、今後、消費者に選ばれる重要な「付加価値」になると考えている。

 そうした方針のもとファミリーマートは、同社の3つの基本理念「家族のように」「地域に寄り添う」「お客さま一人ひとりに」に沿った施策を実践。有志の加盟店とともに近隣の子育て世帯向けに「ファミマこども食堂」を開催したり(現在はコロナで中止中)、看板商品の「ファミチキ」のパッケージにLGBTQ(性的少数者)理解を意味するレインボーカラーを採用したりといった施策を打っている。なお、後者のような「多様性尊重」を訴求する施策は、全国に店舗を持ち、多くの人手を確保する必要がある同社のような企業にとって、「働きたい」と思ってもらえる組織となるためにも有効的といえそうだ。

 サステナビリティの取り組みは自社の活動だけで完結するものではなく、サプライチェーン全体に目を向けることも重要だ。

 本特集に登場する食品容器メーカー最大手のエフピコ(広島県)や、食品卸大手の日本アクセス(東京都)のように、小売業の取引先であるメーカーや卸も同様にサステナビリティに取り組んでいる。同社らは小売業との連携を積極的に推進しており、たとえば日本アクセスは「物流の2024年問題」で宅配ドライバーの人手不足がさらに深刻化するのを見据え、メーカーや小売、物流パートナーと協業して物流改善に乗り出し、成果をあげている。サプライチェーン上のプレイヤー間で互いに手を組めば、より大きなインパクトを持って改革・改善が図れることから、今後さらにこうした連携が進むことが期待される。

生産者やZ世代も!仲間を増やし輪を広げる

 外部機関や消費者も巻き込むことで、サステナビリティを進めようとしているのが生活協同組合だ。日本生活協同組合連合会(東京都)は「生協の環境・サステナビリティ政策に関する第三者評価委員会」を設置。委員には研究者やコンサルタントといった有識者のほか、Z世代に当たる大学生も名を連ね、さまざまな外部人材から助言やサポートを得る体制を整備している。このように、外にも開かれた活動にすることは、多様な意見を聞くことで課題解決のヒントが得られるほか、ともに活動を推進する仲間の輪を広げることにもつながりそうだ。

 これらを見ると、サステナビリティ活動は大掛かりで、中小企業にはリソースを割くのが難しいと感じるかもしれない。しかし、決してそうではなく独自の工夫とアイデアがあれば経営にサステナビリティを取り入れることができる。徳島県に本拠を置くローカルSMのキョーエイは、地場商品を集約した「すきとく市」の開催や、店頭で資源ごみを収集する「はっぴいエコプラザ」を実施。地域の生産者やNPO法人と連携し、ローカルSMの強みで「地域密着」を生かすことで、地域でも存在感を発揮する活動に発展させている。

 このように食品小売業にとってサステナビリティ活動は、コスト削減、付加価値の提案、地域や消費者、ステークホルダーとの結びつき強化など、社会貢献の枠に収まらない、今後の成長に欠かせない施策であることがわかる。

 このように経営戦略としてサステナビリティを実行するには、もはや部署単位ではなく会社全体で、従業員を巻き込んで進める必要がある。アクシアル リテイリング(新潟県)やサミットのようにいち早くサステナビリティを推進できている企業は、従業員同士での話し合う文化や、改善を行う組織文化がすでに存在し、それが土台となりサステナビリティ活動が継続・活発化している。つまりサステナビリティの推進には、自社の組織力が問われ、これを強める活動であるともいえそうだ。こうした点も含めて、サステナビリティに取り組む企業・取り組まない企業では今後、大きな差が生まれることになりそうだ。

経営戦略としてサステナビリティを実行するには、会社全体で従業員を巻き込んで進める必要がある

 今こそ、食品小売各社はサステナビリティを通じて業績、さらには組織としても成長を実現する「サステナブル・リテイリング」をめざしたい。本特集が一歩を踏み出す契機となれば幸いだ。

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