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世界標準のD2Cを作るための5つの機能とは 顧客起点でビジネスモデルを再考せよ

将来性が全く見えない
メタバースのアパレル応用

メタバース上のアパレルのイメージ
onurdongel/iStock

 業界専門誌では、メタバースによるアパレル領域の応用をことさら強調し、また、百貨店の多くが多大な投資をしているようだ。さらに、最近ではNFT(非代替性トークン)やブロックチェーンという技術に触れ、仮想的空間の土地、商品に唯一性を持たせ、所有権をつける技術にまで発達しているということだ。731日付の日経新聞の報道によれば、住友不動産が不動産販売の「内見」にメタバースを利用するという報じられた。これは、なかなかおもしろい試みだと思うのだが、私は、アパレル産業への応用、また、百貨店の取り組みついては、大きなクエスチョンマークがつく。以下、データで証明しよう。

 まず、メタバースの利用率だが、男性が圧倒的に多く70%を占め、アパレ7兆円市場の80%を占める女性購買者と逆転している。さらに、同調査では、7255人に「メタバース」を知っているかと聞いたところ、「全く知らない」が57%で、「名前は聞いたことがあるが、サービスは知らない」が19%で、合わせると80%弱がメタバースについて知らないし、興味もないことになる。

 実際、私は自分が受け持つビジネススクールの授業で生徒にメタバースについて教えるときがあるが、今までゴーグルを持っているという生徒、および先生に会ったことがない。つまり、それなりに雄弁に語る御仁でも、実際自分で経験も無いのにあれこれ語っている実態がわかる。同調査では、メタバース内で購買をしたことがあるか、という問いに対して60%が買い物をしたことがある、と論じているが、そもそも、認知も経験もない人が圧倒的な技術の中で、60%が購買したことが何か意味のある示唆を表しているのだろうかということだ。

 極めつけは、興味のあるメタバースのジャンルでは、想定通り「ゲーム」が圧倒的であるということだ。ある日、突然変異が起きて、女子がメタバースに参入し、自分の服さえ自由に買えない可処分所得の中で、リアルの自分とはなんの関係もない、自分のアバターに着せる服にブランド品を買うと本気で思っているとしたら、私の常識を越える相当な分析力をお持ちか、何も考えていないかのいずれかだろう。https://mmdlabo.jp/investigation/detail_2062.html

VR、AR活用で、
販管費率を40%まで落とす

 私は、日本企業が世界で伍した闘うためには、「売上高販管費率を40%」にしなければ利益はでないと論じた。それでも、ユニクロやSheinの脅威の30%には遙か及ばない(Sheinは筆者想定値)。

 だが、販管費の大部分を占めるのは、地代家賃であり、日本のアパレル企業は、約20~30%が赤字店舗だ。これを退店・閉店し、VR(仮想現実)で世界観を醸成し、店舗がない場所にでも、ブランドが持つ世界観を見せ、AR (拡張現実)で着用着せ替えを行い、通常のECで購買する、という活用方法がいちばん理にかなっている。

 ところがメタバース導入企業が、このような一連の流れをデザインしているようには見えず、VRの中で「勇者の剣」を買うかの如く、服を買うなどということが、本当に閉塞感漂うアパレルビジネスの起死回生の一発になるとお考えなのか疑問だ。

メゾンのメタバース参入は
話題性と先進性を見せるため

 有識者会議での議論でもそうだが、ことあるごとに「LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)が」「プラダが」、「グッチが」といわゆるラグジュアリーブランドの名前を出し、「日本のアパレルも彼らのようにすべきだ」と論じる人が多い。こうしたメゾンがSDGsの観点からブランドエクイティ向上に利用しているのは事実だが、業界専門誌でもSDGsについて語るときは、トップメゾンの話ばかりである。

 日本のアパレル産業の話をしに来たと思ったらこの有様で、しまむら、TSI、パルグループ、オンワードなどの話しは一切でない。というより、知らないのだろう。トップメゾンは、昔から「変わったこと」をする。以前、日経新聞社の取材で、「最近、トップメゾンが、アニメや漫画をモチーフとしたデザインを多く出しているが、なぜか」という相談をうけた。答えは簡単だ。彼らは、他のアパレルとは異なり先進性をださねばならないため、「変わったこと」を積極的に行うことで、一般アパレルとの違いや差を出している。ただ、それだけだ。

 同様のケースが「D2C(ディレクト・トゥ・コンシューマ)」である。私はD2Cについて語って欲しいという依頼を受け、事前に関連書籍を2-3冊読んだのだが、それらのほとんどは、先進事例として挙げるのは化粧品ばかりで、なぜか、急に「アパレルは、、、」と話がすり替わる。資生堂、コーセー、ロレアルなど、化粧品は製造業がブランドを持ち、流通があって小売が複数のブランドを販売している。だから、自社ブランド群だけを集めた小売を自前で持つことは意味があるわけだ。またこうした流通構造から、製造業であるメーカーには消費者のダイレクトの声が届きにくく、ブランドホルダーである製造業は消費者調査ばかりやっている。今、フォーカスグループインタビューや定量調査は、こうしたブランドホルダー製造業ばかりだ。

ビジネスの自由度がない構造

 しかし、アパレル製造業はいわれたことをやるだけで、自社企画を持たない、自社ブランドも持っていないOEM工場である。彼らがブランドホルダーであるアパレル企業を飛ばして、消費者調査をやっても何の意味も無い。製造業のD2Cを考える上では、化粧品のビジネスモデルは、アナロジーとしては全く活用できないわけだ。

 

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アパレルのD2C その多くがしている誤解とは

 私は、役所からの依頼で地場産業のブランド化の仕事をしたことがある。必死にブランド化、世界化を考えた私は、ファンドが行った「鯖江のメガネの世界化」などを徹底研究したのだが、私に突きつけられた言葉はあまりに身勝手なものだった。

 曰く、「我々は、何もしなくても天から金が降ってくる。だから、先生(私)は、自分たちがつくった事業計画にサインしてくれるだけで良い。余計なことをするな」だった。

 私は、プロのコンサルタントとして、クライアントの事業価値向上に、それこそ命をかけて取り組んできたのだが、このようなイカサマのような仕事はしたことがない。それでも、内容が素晴らしければ、サインも辞さないと、中身をみせてもらったら、各工場が好き勝手に仕事をやって、それらを束ねるECをつくる。つまり、工場からECで直接消費者に売るD2Cだということだ。

 聞けば、大阪で同じようなことをやっていて、そのとき使ったコンサルは有名な御仁らしいが、未だに赤字のようだと悩んでいた。当たり前である。私は、「Acquisition(新規顧客の獲得)はどうしているのか」など、通販の「基本のき」を聞いたつもりだが、驚くことに、彼らは、CPA(顧客獲得コスト)やLTV(顧客生涯価値)という基本さえしらず、「また、コンサルが横文字を使いやがって」と私の言うことに耳を貸さない。

 消費者に認知させるための先行投資もせず、誰もしらないサイトが一つできただけで、さらに、そのポータルから入る工場は、ライダースウェアもあれば女性用ドレスもあり、紳士ドレスもある。こんなサイトを誰が訪れるのだろうか。

  これは、私が見た最悪のケースのD2Cだ。それでは、その他のアパレルは何をもってD2Cとしているのか。驚くことに、「企画段階で消費者を巻き込み、消費者のニーズを服に活かすこと」をD2Cと呼んでいるようだ。しかし、このD2Cも致命的な欠陥をもっている。なぜなら、このD2Cは、消費者は自分が着たい服がくっきりとした解像度をもって頭の中にあること。また、その服が市場にないこと、が前提だからだ

日本のアパレル企業が採用しているD2C

 アパレルの店頭現場にいる人であればおわかりと思うが、お店に来る女子達は、必ずしも自分たちの着たい服を明確に持っているわけではない。それ以上に「お買い物」という行為が楽しいのだ。さらに、販売員との接客を通して、「ありたい自分」に近づく服と出会い、購買が発生する。

 論理的に考えて、明確に自分の頭に買いたい商品がある人はネットで服を買うだろう。SPAという言葉も製造小売業と訳されるが、この言葉もメーカー系アパレルにとっては「自社店舗をもつこと」だし、小売系アパレルにしてみれば「時前で生産をすること」と解釈され、ゆくところによって定義がバラバラになっている。そして実務を知らないファンドなど金融機関は「SPAであれば競争優位を持っている」と、風が吹けば桶屋が儲かる論理を振りかざす人も多い。消費者企画の商品供給など、私は丸井やスクロールで15年前からやっていたし、おそらく、多くのアパレルが試し、何の効果もないことが実証されているだろう。

 ちなみに三越伊勢丹は、消費者の声をダイレクトに聞くことより、半歩、一歩先を提案することが大事だと考えている。

世界標準のD2Cを日本の製造業が持つために必要な5つの機能

atomicstudio/istock

 それでは、世界標準のD2Cを、ブランドさえもっていない日本の縫製工場などが持つためにはどうすれば良いか。以下の5つの機能を実装する必要がある。

  1. 強いブランド (適当に名前をつけても売れない)
  2. 消費者を魅了するライブコマース
  3. ビッグデータアナリティクスの技術
  4. 在庫を極小化するマーチャンダイジング技術
  5. 決済機能と個別配送可能な物流

  これらは、中国のモンスター企業 Shein の逆モデルと私は呼んでいる。当たり前だが、CPACPO(新規顧客の獲得単価)LTVRFM(最終購入日、購買頻度、購買金額の3つで分析する手法)ROAS)(広告回収率)など、英語を習うものなら、アルファベットに等しい言葉とその概念は知っていて当たり前であることも付け加えておこう。

 特に、私が驚いたのは、現役の戦略コンサルタントが、ストックビジネスにおいて、レスポンスレートと自社固定費から割り出される顧客データのクリティカルマスについて、このクリティカルマスを満たすまで投下される広告の意味さえ理解せず、私に「この企業は、広告ばかりつかって客を増やしており赤字を累積させている」など、ストックビジネスの投資回収手法とマネタイズ手法さえ理解していないことだった。

 私自身、通販企業で実務を6年以上やっており、また、再建も経験したため、こうしたコンセプトは当たり前のように知っている。確かに、広告投下がAcquisitionと繋がっておらず、代理店に広告を払いっぱなしで、一方で広告を止めるとブレークイーブンを割るという、初期設定(レスポンスレート、LTV、自社開発固定費などから割り出される顧客データベース設計)から間違っているケースも見てきた。それも、超一流メーカーだ。つまり、代理店の「カモ」になっているわけだ。私は、技術やSDGs対応などは、素人考えで進めるべきではないと思う。

 今後、間違いなく、「作り場」と「売場」はデジタルで繋がり短縮化されてゆく。ECをリアル店舗のように売場の一つと考えると火傷をすることになるのは、冒頭のメタバースも同様だ。

 

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プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。 現在は、プライベート・エクイティファンド The Longreach groupのマネジメント・アドバイザ、IFIビジネススクールの講師を務める。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
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