メニュー

イトーヨーカドー曳舟店で実証実験 テクノロジーを使ったフードロス削減3つの取り組みの全貌

イトーヨーカ堂(東京都/三枝富博社長)と日本総合研究所(東京都/谷崎勝教社長)が共同して、経済産業省の委託事業である「フードチェーン3領域における食品ロス削減の実証実験」を、1月よりイトーヨーカドー曳舟店(東京都墨田)で始めた。IoT技術を活用し、産地、小売、消費者の3つの領域で狙う食品ロス削減の取り組みとは。

左から:日本総合研究所社長の谷崎勝教氏、経済産業省商務・サービス審議官の畠山陽二郎氏、イトーヨーカ堂社長の三枝富博氏

家庭内での食品ロスは年間約261万トン
フードチェーン改革でロス削減狙う

  日本国内における食品ロスは、2019年度に約570万トンで、その内消費者が排出するのは約261万トン。一方で、家庭の中での食品ロスという社会課題は消費者にとって身近で、参加し易いものでもある。3つの実証実験をリードする日本総研のリサーチ・コンサルティング部門マネージャーの和田美野氏は「(社会貢献意識の高い)人たち以外も、我慢するのではなく楽しみながら食品ロス削減に貢献できる仕組みをつくれないかと考えた」と話す。

  今回の実証実験は、フードチェーンを3つ(①産地・②小売・③消費者)に区切り、それぞれの領域で食品ロス削減を目指す。具体的には、①青果物(アイコトマト・ほうれん草・なめこ)のデジタル販促②ダイナミックプライシングで売り切り促進③Bluetooth・アプリを活用した家庭内在庫の「見える化」、を行う。それぞれの取り組みを見ていきたい。

産地から、その日の「生情報」を売場で発信する「価値販促」

  一つめの実証実験は、①産地の領域で行う、「野菜の産地から店舗における『価値販促』」である。農家が野菜を電子タグ付きコンテナでヨーカドー曳舟店に出荷する。この電子タグ(ZETag®)に、農家がその日に採れた野菜の情報を動画でアップロードすることができる。その動画は売場のサイネージと電子チラシ(Shufoo!)で発信される。

Shufoo!で農家の解説動画、野菜を使ったレシピ集を確認できる

 電子タグを開発した、凸版印刷のパッケージソリューション事業部新商材営業本部部長の山岸祥晃氏は、「農家が農場から直接野菜の説明をすることで、その魅力がより伝わりやすくなるのではないか」と話す。

 「例えば、『今日採ったほうれん草は、寒さに耐えているので根っこが赤く、糖度が高い』という説明がサイネージで流れると、消費者にほうれん草の美味しさが伝わるのではないか」(凸版印刷・山岸氏)

売場のサイネージ。商品の詳細とレシピを知るためのQRコードが張り付けられている。動画では、収穫日の野菜の情報が発信される

 今回対象となる青果品は、アイコトマト、ほうれん草、なめこの3つ。それぞれの野菜の包装袋とサイネージにはQRコードが張り付けられている。これを読み込むと、野菜の特長や、生産者が考案した野菜を使ったレシピ動画を見ることができる。

 「同質・大量・安価」な品ぞろえを売りとするチェーンストアでは、『小ロットでの商品物流やそれに紐づく情報伝達』が難しかった。ZETag®を活用することで、農産品の魅力をよりダイレクトに消費者に届けられるようにしたい。『価値販促』により、多くのお客が野菜を買い、結果的に食品ロスが削減できれば、と思っている」(凸版印刷・山岸氏)

 

消費者・小売WIN-WINの「ダイナミックプライシング」

  実証実験の2つ目は、②小売の領域で行う、「ダイナミックプライシングを活用した、売り切り促進による食品ロス削減」である。菓子パンや洋菓子、豆腐などデイリー・日配品10SKUを対象に、賞味・消費期限別の複数の価格に分ける、デジタル棚札を活用したダイナミックプライシングを実施する。
※同じ棚に陳列される同一SKU内で、賞味・消費期限のバラツキの多いものを選択

 「ダイナミックプライシング」実施の流れは以下の通りだ。①商品の入荷時に、賞味・消費期限別のコードが印字されたラベルを発行し、貼り付ける、②ラベルの発行データ(SKU×賞味・消費期限)をデジタル棚札と連動した専用ツール(サトー・ダイナミック・プライシング・ソリューション(SDPS))に取り込み、値段を表示させる、である。

  このデジタル棚札を活用した一連の作業で、手作業による値引きラベルの貼り付けでは難しかった、より細かな金額幅での値段変更が可能になる。値段は賞味・消費期限と連動して自動更新されるので、人手がいらない。

電子棚札と商品。賞味・消費期限が長いC→B→Aの順

 SDPSを開発した、サトーのグローバル営業本部リテール市場戦略部SDPS担当の小口健太郎氏は「『同じ値段なら賞味・消費期限のできるだけ長いものが欲しい』と考える消費者が多いが、期限別に値段を変化させ、お客が自身のライフスタイルに合わせて商品を購入できる仕組みをつくりたい。また、小売業にとっても手作業による値引きラベル貼り付け業務がなくなり、効率的に廃棄になりそうな商品を販売することができる。消費者、小売業双方にとってメリットのある取り組みにしたい」と意気込んだ。 

アプリで冷蔵庫の在庫を確認し、ゲーム感覚で足りない栄養素を補う!

  実証実験の3つ目は、③消費者の領域で行う、「『健康』を価値とした食品の購入・調理・保管の支援による食品ロス削減」だ。2060代の男女約100人にイトーヨーカドー曳舟店で買い物をしてもらい、食品管理アプリ(SIRU+)、カート内のセルフスキャンアプリ、重量センサーを活用した家庭内の食品ロス削減を狙う。

  アプリのSIRU+(シルタスが開発)は、買い物を「見える化」する機能が搭載されている。アプリ内には5つの栄養バランス(美肌ちゃん:ビタミン等、ダイエットくん:食物繊維等、免疫隊長:亜鉛等、マッスルン:タンパク質等、回復魔導士:鉄・カルシウム等)に応じて見た目が変化するキャラクターが表示され、足りない栄養素を教えてくれる。不足する栄養素を補う食品を買う際、割引されるクーポンも発行される。

栄養素の状態に応じて変化するキャラクター

 例えば、買い物をする際にビタミンが足りないと判明すると、「美肌ちゃん」が不足を教えてくれ、ブロッコリーの「30円引き」クーポンが付与される。

買い物履歴と連動し、不足した栄養素を補う食品のクーポンが付与される

  参加者は買い物を終え、帰宅すると購入した食品にBluetoothタグを張り付けて、アプリに食材の在庫を登録する。料理をする時、食材を重量センサーで測り、「何がどれだけ残っているか」を手入力でアプリに記入する。キャベツが余ると、SIRU+アプリが「家庭在庫からのレシピ」として在庫を有効活用する調理方法をおしえてくれるのだ。

  これら全ては、今村商事が開発した「イエナカデータクラウド」で一元管理され、実験参加者はリアルタイムで余っている食材、足りない栄養素を確認できるのだ。

 

 今回の実証実験は、日本総研が設立した「SFC(スマートフードコンサンプション)構想研究会」が主導する。同会は、「食品消費の最適解」を起点に、フードチェーンの新しいビジネスモデル、技術的実現可能性を研究する。