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シジシージャパン CGCグループ代表兼社長 堀内淳弘
家庭での料理を支援し、食品スーパーの存在意義を発揮する!

共同仕入機構のCGCグループは2013年度に創立40周年を迎えた。企業数は228社(13年4月現在)、グループ年商総額4兆2658億円に達した。大手小売グループに対抗するため、15年度にはグループ規模5兆円の達成をめざす。CGCグループの本部機能を担うシジシージャパン(東京都)の堀内淳弘CGCグループ代表兼社長に、グループの重点戦略を聞いた。

聞き手=下田健司 構成=太田美和子(フードマーケット・クリエイティブ)


シジシージャパン CGCグループ代表兼社長 堀内淳弘(ほりうち・あつひろ)
1946年東京生まれ。69年流通経済大学経済学部卒業、同年東急ストア入社。75年シジシージャパン入社。80年取締役社長室長。85年専務取締役。91年代表取締役社長。2007年CGCグループ代表

今年から「弁当の日」の普及に力を入れる

──現在のグループを取り巻く環境をどのように見ていますか。

堀内 今、大きな問題だと感じているのが、家庭で料理をしなくなっていることです。実際、食品スーパー(SM)では、パン粉や味噌など調味料系の食品の売上が毎年落ち続けています。SMとして非常に危機感を感じています。

 それに代わって伸びているのが、加工度の高い商品です。今は短時間で調理できる便利な商品がたくさん登場しています。総菜の種類も増えました。もちろん、それは時代の流れですから、SMが対応していかねばならないでしょう。

 しかし一方で、お客さまに家庭で料理をしていただくようにしなければ、家庭内食がダメになるのではないか、もっと言うと日本人がダメになるのではないかと強く感じます。

 現在、日本の20代女性の1日当たりの平均摂取カロリーは1595キロカロリー、30代女性は1651キロカロリー(厚生労働省「平成23年国民健康・栄養調査」)です。終戦直後の摂取カロリーよりも少ないと言われています。低すぎるうえに、さらに減少傾向にあります。それなのに、体重が増えることを気にして多くの人がダイエットをする。本当は、まったく逆で、もっとカロリーをとらなければいけないのです。

 また、以前から問題になってましたが、朝食をとらない子どもがいまだに増え続けています。7歳から14歳の朝食欠食率は男子で5.9%、女子で5.4%(厚生労働省「平成23年国民健康・栄養調査」)です。こうした子どもたちの健康は、給食に支えられている部分が大きくなっています。夏休みになると栄養失調になる子どももいるほど、家庭の食事は乱れていると言われています。

 こうした状況を知ると、事態の深刻さがあらためてわかります。家庭に、しっかりとした「食」の知識と料理の技術を身につけてもらいたいと痛切に感じます。地域密着で地域の食を預かっているSMとしても見過ごすわけにはいきません。今、CGCメンバー(加盟企業)に呼び掛けて、活動を起こしているところです。

──具体的にはどんな活動ですか。

堀内 CGCグループでは、朝食を食べることを推進するキャンペーンを、20年前から開催してきています。6、7年前からは、関東地区を中心に農業体験や工場視察など食育の企画を実施しています。そのほか、さまざまな食育活動を行っています。

 CGCの基本姿勢は、家庭での料理を支援することです。

 1983年から料理情報誌『ふれ愛交差点』を発行しています。メンバー179社で合計100万部以上が毎月配布されています。この中で、1カ月分の毎日のレシピを紹介したり、昨年3月から「タニタ食堂」監修のオリジナルレシピを掲載したり、毎号約60品の料理とレシピを紹介しています。情報誌は、店舗で無料配布されるだけでなく、レシピと関連商材を連動させたり、メニュー提案に役立てたりと、メンバー各社で工夫して活用しています。

 さらに、今年から「弁当の日」の普及に力を入れるつもりです。昨秋、「子どもだけでつくる『弁当の日』」を提唱されている竹下和男先生の本に出合いました。竹下先生は香川県の小学校と中学校で校長をされていたときに、子どもたちだけで弁当をつくって学校にもってくる日をつくった方です。

 最初は父兄や教師の反対にあい、いろいろな問題にも直面します。しかし、多くの人の理解と協力を得て、最終的には弁当の日を実現させます。すると、親子の会話が増えたり、学校でのいじめが少なくなったり、いい効果がたくさん生まれたというのです。

 10年以上前に始まった「弁当の日」の活動は今、全国の小中学校に広がりを見せていて、現在1100校を超える学校が実施しています。

 食は非常に重要です。家庭料理には親の愛情が注ぎ込まれています。それを、簡単で便利な商品ばかりで済ませてしまうと、大げさではなく、家庭の崩壊につながりかねません。料理をしない親に育てられた子どもは料理をしない親になります。

 「弁当の日」に自分で食材を買い、台所に立つことを通して、子どもは食や調理に興味を持ち、食材の旬や、生産者の苦労や親の有難味がわかるようになります。それが、自立した生活を送ることにつながるのです。

 今、給食や「弁当の日」など、学校はいろいろなかたちで努力されています。それをメンバー各社にも伝え、「弁当の日」の普及しようと、CGCメンバー、お取り組み企業のトップ718人が集まった今年1月の「新春総会」で、竹下先生の著書を紹介したところです。

CVSやDgSとどう戦うか

──実際にそうした活動に取り組んでいるメンバー企業はありますか。

堀内 「弁当の日」の普及にいち早く動き出したメンバー企業が、キヌヤ(島根県/領家康元社長)さんです。キヌヤ東町店の近くの益田東中学校では、2010年度から1年に3回「弁当の日」を実施しています。昨秋、キヌヤ東町店は、益田東中学校に「弁当の日」の応援を申し出ました。

 具体的には、地元産の商品コーナーを設置したり、生徒が弁当用の食材を購入する際にレジでアルミケースをプレゼントしたりしています。また、「弁当の日」応援POPを店内随所に設置し、生徒がつくった弁当の写真を店内に掲示して「弁当の日」を盛り上げています。こうした活動が、地域でのSMの存在意義を示すことにつながると考えています。

 今は家庭で漬けた梅干しなど、本来の味を知っている人が少なくなってきています。そこで、CGCの開発商品で昔ながらの本来の味を提供しようという取り組みも始めています。

 現在、CGCでは食品の廃棄ロス削減と災害時対応の食料保存の観点から、プライベートブランド(PB)の賞味期限延長に取り組んでいます。12年度にもいくつかの商品の賞味期限を延長しました。

 一方で、賞味期限が短い商品の開発にも挑戦しています。簡単に言うと、あまり日持ちのしない商品です。これは、潤沢に供給できるだけの製造量を確保することは難しいでしょう。ある程度、限定的にはなると思いますが、基礎調味料などから開発に取り組んでいるところです。

──コンビニエンスストア(CVS)が生鮮食品を販売したり、ドラッグストア(DgS)が食品の品揃えを強化しています。依然、価格競争も続いています。家庭で料理を支援する余裕をSMは持てますか。

堀内 業態間競争はますます激しくなっています。CVSの商品開発力は脅威ですし、販売管理費の低さと食品売上高構成比の高さを武器にするDgSの台頭にも脅威を感じます。価格競争によって、疲弊した現場があることも事実です。このような状況で、料理を支援する取り組みに目を向けてもらうのは大変だということは十分理解しています。

 しかし、それでもやらねばいけないと思うのは、危機感からです。今、SMの存在理由が問われています。生鮮食品を買って、家庭で調理する人が少なくなれば、SMの存在意義を発揮できなくなります。逆にいえば、料理をしてくれる人を増やす以外に、SMがお客さまを増やす方法はないのです。

 CGCメンバーの中には、料理教室を開催している企業や、レシピを紹介するコーナーを売場内に設けている企業があります。たとえば、静鉄ストア(静岡県/竹田昭男社長)さんは、32店舗中2店舗にフードスタジオを併設し、料理教室を開催しています。お客さまに大好評です。

 料理教室やメニュー提案のスペースが確保できない店舗でも、やりようはあるはずです。今、メーカーさんにもご協力いただき、企画案を出していただいているところです。とにかく、お客さまに料理をしてもらう運動を何とか全国的に展開していきたいと考えています。そのために、CGCメンバー企業に対して、さまざまなかたちで情報発信をしていくつもりです。

 たとえば、恵方巻きの提案の仕方を変えようと思っています。CGCメンバーのぎゅーとら(三重県/清水秀隆社長)さんは昔から恵方巻きを扱っていて、今では節分の日だけで全店合計で10万本以上を販売します。これはハレの日の提案なので、ほかのメンバーも挑戦しようということで全国に広まりました。ところが最近は、CVSはもちろん、DgSまで恵方巻きを販売しています。それならば、われわれはやり方を変えて、「わが家」をテーマに手づくりを提案しようと考えています。

2015年度にグループ年商5兆円をめざす

──さて、先ごろ、イオン(千葉県/岡田元也社長)がピーコックストア(大阪府/川口高弘社長)を傘下に収めました。SM業界の再編をどう見ていますか。

堀内 再編はまだまだ進みます。売上高が1兆円や2兆円の大手チェーンになると、たとえばバイイング1つとっても、味噌、飲料などに担当分けされています。食品でバイヤーが1人しかいないような小さな企業は、大手に太刀打ちできないでしょう。

 PB開発にしても、結局のところ販売力に左右されます。販売力が仕入力につながるわけですから、商品開発するにもある程度の年商規模がどうしても必要になります。

 SMは、少なくとも年商300億円以上ないと、地域で存在感を発揮できません。商品開発の観点からすれば、年商1000億円以上ないと難しいでしょう。

 地域のSMは、CGCグループのような組織に入らないと生き残れない状況になっています。そういう意味では、今年はCGCグループにおいてもいろいろな動きが出てくるかもしれません。

 13年度、CGCグループは創立40周年を迎えました。企業数は228社(13年4月現在)で、グループ年商総額4兆2658億円です。大手小売グループの総合力に対抗するため、15年度にはグループ年商規模5兆円の達成をめざしています。また、現在の規模を生かして、PB開発を強化したいと考えています。

──PB開発の強化ポイントは何ですか。

堀内 CGCグループでは、今年のPB開発の最重要施策に「CGCパワー100」を据えました。「CGCパワー100」とは、圧倒的な競争力を持ち、開発ストーリーが語れる商品を指します。このような商品を100アイテム持つことを目標に開発を急いでいます。

 圧倒的な競争力を発揮するために、生鮮・日配品の年間30億円以上、グロサリー・日配品で同10億円以上の販売力のある単品の開発をめざします。まずは年間販売額10億円の達成ですが、現時点で10億円商材は28アイテムあります。

 販売規模にこだわるのには、理由があります。商品の品質や安全を確保しながら採算ベースに乗せるには、相当規模の生産量と販売量が必要だからです。

 たとえば、「CGCパワー100」の対象商品の1つに鶏卵「CGC森林そだち」があります。03年に開発した商品で、CGC開発商品の中でも屈指の供給高を誇る商品です。種鶏から育雛、採卵、最終製品までを一貫管理し、生産履歴を管理できることが特徴です。これを可能にするには、最低でも100万羽の養鶏が必要なのです。そして当然ながら、100万羽が生む卵を売り切り続ける販売力も必要です。「CGC森林そだち」は現在、全国で年間計4300万パックの販売規模があります。

 もう1つの最重要施策が「EDLP100」です。DgSやディスカウントストアに対抗するための価格訴求型商品の開発を強化します。現在、「断然お得」「ショッパーズプライス」の価格訴求型ブランドがありますが、これらブランドから購買頻度の高い生活必需品100アイテムをまず目標に開発を進めていきます。

 いずれにしても、小売業界のサバイバル競争は今年が正念場ととらえています。それだけの強い危機感があります。スピード感を持ってグループを運営していきたいと考えています。