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リアル店舗との相互送客ねらう三井不動産のライブコマース SC巻き返しの“救世主”となるか?

中国のEC市場で急成長を遂げているライブコマース。長期化するコロナ禍を背景に日本の大手ショッピングセンター(SC)でも検討・導入する動きが出てきた。いち早く動いたのが、ららぽーと、ラゾーナ川崎プラザ、ダイバーシティ東京プラザなどの「三井ショッピングパーク」を展開する三井不動産(東京都/菰田正信CEO)だ。202012月にライブコマースサイト「MEETS SHOP」を立ち上げ、週3本程度のペースでライブ配信を行っている。コロナで大打撃をこうむるSCの“救世主”に、ライブコマースはなりうるか。

昨年12月より試験的に導入

MEATS SHOPのトップページ

 「こちらのジャケット、ドライタッチの清涼感のある素材で、真夏でも快適に着ていただけます」

「すごく肌ざわりが良さそうですね。色合いも素敵で……さっそく『ストレッチ感はありますかー?』とコメントが届いています」

「はい、縦・横にストレッチ機能が付いています。肩回りもリラックス感があるのでデスクワークでもご着用いただけます!」

 「ユナイテッドアローズ グリーンレーベル リラクシング」のスタッフが、春夏シーズンの新作のセットアップを手に、おすすめポイントを説明する。ららぽーと・ラゾーナ・ダイバーシティなどを含む「三井ショッピングパーク」のライブコマースサイト「MEETS SHOP」のライブ配信での一コマだ。

 スタッフがカメラに近づいて商品をアップで映したり、画面上に流れる視聴者のコメントにもMCがすぐ反応して、その場でスタッフが回答する。ライブ配信の特長を活かした視聴者とのやりとりもあり、リアルな買い物体験さながらの臨場感を演出している。

 202012月より、この「MEETS SHOP」を立ち上げた三井不動産。対象をららぽーと、ラゾーナ川崎プラザなど6施設に限定した試験運用で、週に3本のペースでライブ配信を行っている。顧客の反応も上々だと、同社商業施設本部 &mall事業室の飯原隆弘氏は笑顔を見せる。

 「普段リアル店舗をご利用いただいているお客さまからも、『なじみのあるお店の配信が視られて、コメントや『いいね!』でコミュニケーションできるのはいいですね』『配信を通じて商品の価格や情報を詳しく知ることができて便利です』などのお声を頂いています」。

コロナを契機に急ピッチで立ち上げ

ライブ配信中の店頭の様子

 社内でライブコマースの導入検討を開始したのは、20205月頃。「それ以前から、新たな販売チャネルとして注目していました」と飯原氏は言う。「ららぽーと全体では約5万人のスタッフが働いているので、そういったスタッフとお客さまとの新しい接点をつくれないか考える中で、ライブコマースも俎上には上がっていました。また、2017年から三井ショッピングパークのECサイト『&mall(アンドモール)』を運営しており、リアル店舗とECサイトのオムニチャネル化の観点からもライブコマースには注目していたのです」。

 強く背中を押したのが、やはり2020年初から続く新型コロナウイルス禍の影響だ。1回目の緊急事態宣言によって運営する商業施設のほとんどが休業を余儀なくされたことで、社内の動きが加速。急ピッチで準備を進め、当初計画より前倒しで同年12月、「MEETS SHOP」のローンチにこぎつけた。1回目のライブ配信は1214日。Instagram25万人強のフォロワー数を持つなど主婦層に絶大な人気を誇るタレントの藤本美貴さんを起用し、アパレルブランド「AZUL BY MOUSSY」の商品紹介を行った。

 「MEETS SHOP」は、三井不動産と、三井ショッピングパークの運営主体である「三井不動産商業マネジメント」の合同チームで運営されている。各ショップから配信希望を募り、撮影スケジュールを調整し、台本の作成や現場進行のフォローも行うが、テナントスタッフの出演が大前提だ。「必ずしも動画撮影に慣れている方ばかりではありません。多くのショップに参加してもらうためにも、丁寧なフォローを心がけています」(同)。

コンバージョン率が25%ほどに跳ね上がるショップも

ライブ画面上に商品名・価格・購入への導線が表示される

 「MEETS SHOP」を立ち上げて半年近くが経過。週に3本のライブ配信を定期的に行う中で、少しずつ手ごたえを感じていると飯原氏。「当日の視聴者数は400人前後の配信が多いのですが、中には視聴者数が5,000人を超える配信もありました。また、アーカイブ配信を含めると視聴者は34倍になります。各ショップからは『自社配信より視聴者数が多く、自社だけでは取り込めないお客さまの認知につながっている』との評価を頂いています」。

 オウンドメディアや各ショップのSNSアカウントでの配信告知に加え、Instagram広告も利用。「ライブコマースの視聴者はインスタライブの視聴者が非常に多いので、重要なターゲットだと考えています」(同)。著名ゲスト(タレント、モデル、スタイリストなど)を起用した動画づくりも企画しながら、そうしたインフルエンサーのインスタアカウントからの流入も図る。

 また、画面上に表示されたタグをタップすると、「&mall」の商品ページに遷移する設計になっているため、コンバージョン率(成約率、この場合は購入者数/&mallサイト訪問者数)も着実に上昇しているという。「『&mall』のコンバージョン率は1.01.2%前後ですが、ライブ配信時には25%ほどに跳ね上がるショップも出てきています」(同)。

 さらに、リアル店舗ユーザーが「MEETS SHOP」を通じて「&mall」を認知・利用する、また逆に、「MEETS SHOP」からリアル店舗に来店するといった流れも生まれつつあるようだ。

ライブコマースを軸に実店舗とECの連携を強化

 6月までの試験運用という位置づけの「MEETS SHOP」だが、一定の手応えを得られたことで、テナント主導の配信へと徐々に移行しながら、配信したいショップが配信したい時に自由に実施できる運用体制を目指す。「当社の商業施設の魅力は、出店舗数とカテゴリーの多さ。その強みを活かすためにも、まずは参加ショップ数を増やし、カテゴリーの幅を広げていくことが課題ですね。現在の参加数は30店舗ほどで、女性とユニセックスのアパレルが8割ほどを占めていますが、化粧品やインテリアショップなどの配信も始めたところです」(同)。

 コロナ禍でリアル店舗が苦戦を強いられる中、リアル店舗とECサイトの相互送客を促進するツールとして、ライブコマースを軸に巻き返しを図るかまえだ。「ECサイトへの誘導だけでなく、リアル店舗にいかに送客できるか。この2軸をライブコマース推進の重要なKPIと位置づけています」と、飯原氏は力強く語る。

商業施設本部 &mall事業室の飯原隆弘氏