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焦点:「インドア農業」コロナ禍で脚光、投資・参入が加速

インドア農業
2月18日、インドア(屋内)農業は、パンデミックがもたらした農産物の収穫・輸送・販売の混乱に対するソリューションの1つとして浮上しつつある。写真は ケンタッキー州モアヘッドーの温室でトマトを栽培するアップハーベストの職員。同社提供(2021年 ロイター)

[18日 ロイター] – エレベート・ファームズの「垂直栽培技術」により、人工光を使って屋内で大量の葉物野菜を生産する――アミン・ジャダブジ氏がそんなアイデアを売り込んでも、投資家はこれまで相手にしてくれなかった。

トロントに本拠を置くエレベート・ファームズのジャダブジCEOは、「それは凄い、でも科学実験みたいな話だね、と言われるのが常だった」と語る。

だが今やインドア(屋内)農業は、パンデミックがもたらした農産物の収穫・輸送・販売の混乱に対するソリューションの1つとして浮上しつつある。

「状況を一変させるキッカケになった」とジャダブジCEOは語る。彼の企業はオンタリオで「垂直農場」を運営しており、ニューヨークとニュージーランドにも新たな農場を建設中だ。

気候変動への懸念も追い風に

米農務省も含め、インドア農業の推進派は、インフレ率が上昇し、グローバルな供給に限りがある時代において、都市農業は食糧安全保障の向上につながる、と主張する。北米大陸における農業生産はメキシコとカリフォルニア州など米国南西部に集中しており、原野・森林火災や天候不順の影響を受けやすい。

気候変動に対する懸念も、インドア農業への投資を加速している。農業ビジネス大手のバイエルAGは、多層構造の垂直農場やサッカーグラウンド50面分の規模の温室に投資している。

こうした流れにより、エレベートのような小規模な北米企業もインドア農業による生産を拡大し、ブライトファームズ、エアロファームズ、それにアマゾンの創業者ジェフ・ベゾス氏が出資するプレンティといった既存企業と競争できるようになっている。

だが、インドア農業は大量の電力を必要とするため環境負荷が高いのではないかという批判的な疑問もある。

垂直農場では、倉庫や輸送コンテナ内に設置された多層構造の棚や茎・葉を這わせる壁を用いて、屋内で葉物野菜を栽培する。生産を支えるのは、人工光と温度管理、そして伝統的な農法における広大な農地の代わりに、最小限の土と給水装置やミスト(霧)散布装置を備えた栽培システムだ。

温室の場合は、太陽光を利用するため必要な電力は少なくなる。アジアや欧州では定着しているが、北米地域でも自動化の度合いを高めつつ拡大している。

アグファンダーで調査部門を率いるルイザ・バーウッドテイラー氏によれば、2020年、屋内農場に対する投資額は、世界全体で過去最高の5億ドル(約528億円)に達したという。

監査法人KPMGでコーポレートファイナンス担当ディレクターを務めるジョー・クロティ氏は、投資は今後も大幅に拡大すると語る。パンデミックにより、北米で農産物収穫を担ってきた移民労働者の新型コロナ感染など、食糧生産に混乱が生じたことで、供給途絶への懸念が高まったためだ。KPMGでは垂直農場への経営コンサルタントサービス、投資銀行サービスを提供している。

「本格的に拡大するのは今後3~5年だ」とクロティ氏は言う。

垂直農場や温室で栽培された野菜は、依然として生産量全体のごく一部にすぎない。米農務省によれば、2019年に被覆のある環境で栽培された食用作物は、トマト、キュウリ、レタスなど7億9000万ポンドに達し、2014年に比べ50%増となっている。

だが、カリフォルニア州の屋外で生産された結球レタスの生産量だけでも、その4倍近い29億ポンドである。

米農務省では、インドア農業その他の新たな農業手法の奨励に向けて、新設する都市農業諮問委員会のメンバーを求めている。

種子開発も屋内に軸足

2月18日、インドア(屋内)農業は、パンデミックがもたらした農産物の収穫・輸送・販売の混乱に対するソリューションの1つとして浮上しつつある。写真は ケンタッキー州モアヘッドーの温室。同社提供(2021年 ロイター)

世界最大の種子開発企業の1つであるバイエルは、垂直農業拡大のために植物テクノロジーを提供したいと考えている。8月、バイエルはシンガポールの政府系投資会社テマセクと共にシードマネー3000万ドルを拠出し、カリフォルニア州に本社を置く企業アンフォールドを設立した。

アンフォールドのジョン・パーセルCEOによれば、同社は、屋内栽培用のレタス、トマト、ピーマン、ホウレンソウ、キュウリの種子設計を主力事業とする初の企業であるという。そこで用いられるのが、バイエルが提供するジャームプラズム、すなわち植物遺伝資源である。

アンフォールドは、既存の農場、シンガポール及び英国の新興農場をターゲットとする販売事業を、2022年初頭に開始したいと希望している。

温室農業も、露地栽培よりも高い収量を売り物に拡大しつつある。

ケンタッキー州モアヘッドで60エーカーの温室を使ってトマトを栽培しているアップハーベストは、昨年、同州内でさらに2カ所の温室を着工した。同社は2025年までに栽培施設を12カ所に増やしたいとしている。

ジョナサン・ウェッブCEOによれば、同社の温室は、自動車ならば1日で米国の総人口の70%に製品を届けられる場所に立地しており、南西部のトマト生産者に比べて輸送面で優位にあるという。

「カリフォルニア州とメキシコからトマト生産事業を奪って、こちらに持ってくるのが狙いだ」とウェッブCEOは言う。

予想されるグローバル人口の増大を考えれば、食糧生産を大幅に増やす必要があるが、頻発する災害と天候不順を考えれば、屋外の農業で対応するのは困難だ、とウェッブCEOは言う。

ニューヨークに本社を置くブライトファームズは4カ所の温室を運営しているが、スティーブ・プラットCEOによれば、いずれも米国の主要都市の近郊に配置しているという。クローガーやウォルマートなどを顧客とするブライトファームズは、今年、ノースカロライナ州とマサチューセッツ州に、同社として最大規模になる農場を開設する計画だ。

米国における葉物野菜のうち屋内生産が占める比率は、現在の10%未満から、10年以内に50%にまで上昇するというのがプラットCEOの予想だ。

「この方向への大きなうねりがある。現在のシステムは、国中の人々に供給できる体制になっていない」と同CEOは言う。

「荒唐無稽」との批判も

だが、NPOランド研究所のスタン・コックス研究員は垂直農場に懐疑的だ。垂直農場は、照明や温度管理に要する電力コストの増大分を食料品店への請求に上乗せして相殺している、とコックス氏は指摘する。

「そもそも私たちが農業をやっている理由は、毎日地上に降り注ぐ太陽の恵みをいただく、ということなのだ」とコックス氏は言う。「太陽光は無料で得られる」

ユタ州立大学のブルース・バグビー教授(環境植物生理学)は、NASAのために宇宙農業を研究してきた。だが、地球上での大量の電力を投じる垂直農法は途方もない考えだと同教授は考えている。

「ベンチャーキャピタルはありとあらゆる荒唐無稽な話に投資しているが、垂直農法でまた1つその実例が増える」

バグビー教授は、従来の方式で生産された作物をカリフォルニア州から全米にトラック輸送する燃料を考慮に入れたとしても、垂直農場は屋外の農場と比較して、作物生産に要するエネルギーが10倍にも達すると試算している。

ニュージャージー州の製鉄所跡地で世界最大級の垂直農場を運営するエアロファームは、屋外での農業とエネルギー使用量を単純に比較することはできないとしている。デビッド・ローゼンバーグCEOは、長距離輸送を必要とする農作物は廃棄率も高くなり、また屋外の農場の多くでは灌漑用水や農薬を使っていると指摘する。

垂直農場は、この他にも環境面でのメリットをうたっている。

エレベートは、作物に自動給水するために閉鎖循環式のシステムを用いており、作物が排出する水蒸気を回収し、再び給水に使っている。こうしたシステムにより、屋外でロメインレタスを栽培する場合に比べ、必要とする水の量は2%で済む、とジャダブジCEOは語る。また、同社では農薬をいっさい使っていない。

「私たちは問題を解決しつつあると思っている」とジャブダジCEOは言う。