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カスミの顧客価値創造をめざすSMデジタル変革への取り組み「新しいビジネスモデルづくりに挑戦」=ダイヤモンド・リテイルメディア・カンファレンス

カスミ山本様メインイメージ

“攻めのICT”で業務改革実現ねらう

 従来のスーパーマーケット(SM)の収益拡大策は新規出店が中心だった。しかし社会情勢の変化、人口減や労働人口の減少などで、これからの成長には出店拡大だけでは限界がある。ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングスでは、2017年に中期経営計画のスタートにあたりPB商品開発や商流統合など商品改革、守りと攻めのICT改革の推進、戦略的視点による聖域なきコスト構造改革の推進、グループとして最適な効率を追求する物流改革の4つを掲げた。

 このうちICT改革については、モード1として守りのICTである運営について、クラウドサービス利用などハードやソフト、運営に必要な固定費の最適化、AI・IoT・ロボットなどの活用による省力化・自動化・コスト転換を図るとした。そしてモード2では攻めのICTによる成長と変革をめざしている。17年の段階からオムニチャネル化やストレス・フリーなど新しい購買体験の創出やライフスタイルの変化に対応した魅力的な品揃えをねらいとして、23年までにICT改革を実現する。

USMHデジタル変革の取り組み

 また、業務改革では部門の垣根を越えた店舗運営や作業横断化、多能工化による効率的な人員配置を意識したオペレーションの改革、小型店舗へのセルフレジの導入拡大、省力化ツールの導入拡大により生産性改革をねらった。

米国大手流通業も相次ぎビジネス改革打ち出す

 こうした変革を続けるのは小売業が変化しなければ生き残れないからだ。かつてEDLPを前面に打ち出していた米ウォルマートも、最近では「Save money. Live better」を掲げている。実際に店舗に行けば、5年前と比べて客層も変わり、店内の配置も変化した。ターゲットもアマゾンと同様に「店舗配送」や「同日配達」などを打ち出し始めている。

 クローガーも変化対応ではなく自ら切り開き成長モデルを変革する、フィジカルとデジタル両方を提供しシームレスな顧客体験を提供する、新たな企業を巻き込んだエコシステム構築といった変化の必要性を訴えている。

 新たな変革を主導するのはデジタル。現在のICTの性能は、40年前と比べるのも愚かなほど進化を遂げた。かつては高性能のメーンフレームをもってしてもチェーンストアの情報を処理するのは大変だった。限られた乏しい性能の中で、いかに資源・時間内に処理するかがシステム設計の課題だった。言うまでもなく現在は高性能のコンピューター、高速回線などインフラが整備され、プラットフォームも充実していることで高速処理が可能になっている。

アジャイル開発で変化に対応した柔軟なシステム構築を

 しかし現実的には、既存の業務プロセスは、メーンフレームやオフコン時代の技術で開発され、C/S型技術で糊塗された過去の情報システムに支えられている。処理能力の低さや伝送路の遅さを前提に最適化されたシステムが現在のオペレーションを規定しているのが実際だ。これらを新しい技術をベースに再構築し、プロセス改革を実行しなければならない。これまでのICTを「Retail1.0」とするならば、「Retail2.0」へつくり変えることが急務ということだ。それがデジタル・トランスフォーメーションでありビジネス・トランスフォーメーションとなる。

SMデジタル変革の取り組み

 ただICT改革も柔軟な発想で取り組まなければならない。データがあるため分析過多や計画過多、コンプライアンス過多などルールを厳格化すると身動きできなくなる。要件定義から設計、システムテストまで従来型のウォーターフォール開発では柔軟性に欠ける。これからは理念やビジョンを明確化し、現実を直視してとにかく行動を起こすことが重要だ。変化に柔軟に対応し、自ら変化を生み出していくダイナミズムを備えるためにはアジャイル開発に切り替えることが大切だろう。

 さらに多様なユーザーを認知し満足させるためには、1人の人間の知恵では限界がある。チームで対応して知識を融合して結晶化させなければならない。縦割り組織が、やるべきことの矮小化や勘違いを生む原因にもなる。見えないものを創造でつくってはならない。システムはカットオーバーから本当の意味での開発が始まると思わなければならない。

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カスミのICT導入実例

■日本ユニシスとAIロボットを共同開発し実用化

ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(U.S.M.H)傘下カスミでは16年からロボット・AIの情報収集や導入検討を行ってきた。

 米ペンシルべニア大学バーバラ・カーン(Barbara E. Kahn)教授の「流通業を成功に導くマトリクス」を例に取るなら、縦軸に「優れた競争優位性」、横軸に「小売の価値命題」を置くと、製品の効用では製品ブランドの優位性、低価格を実現する優れたオペレーションと絶対的低コスト、顧客の体験ではその体験の強化や包括的な顧客理解などのストレスフリーという方向性が出てくる。従来は、4方向のうちの一方向が秀でていればよかった。しかし、これからは優位にある部分だけではなく、すべての方向性を兼ね備えていなければならない。

SMデジタル変革の取り組み

 小売の価値として購買行動の可視化では、カスミ筑波大学店の事例を挙げる。店舗がキャンパス内にあることで若い学生の抵抗感も少ないのでキャッシュレスレジの導入に踏み切った。さらに店舗オペレーションでは、客が多く訪れる時間帯を把握し従業員の最適配置を行うとともに、部門の壁を取り払って多能工化することで、正社員、パートナー社員、アルバイトも従来型の店舗より大幅に削減することが可能となった。

 カスミでは16年からロボット・AIの情報収集や導入検討を行ってきた。そして18年から日本ユニシスと共同で閉店後にPOPチェックなどを行うロボットの本格運用を開始している。レジはセルフ/セミセルフレジからモバイルPOSの実用化に向けた検証なども進められている。最終的にはRFIDは難しいかもしれないがスマートカメラを活用し、ノースキャンで無人レジを通過するというシステムも可能になっている。カスミでもキャッシュレス・セルフレジに対応しレジ運用の人員を3分の1に圧縮でき、3分の2の人員はプロフィットを創出するシフトへの転換を可能にしている。