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体験はコモディティ化しない!FAR EASTに学ぶ「顧客の心の掴み方」

「世界にはみんなが知らない素晴らしいものがまだまだたくさんある」と、世界約24カ国から厳選された食材を直接輸入して販売する企業がある。FAR  EAST(埼玉県飯能市大河原33-1)だ。「世界各地の文化が一堂に会する遙か東の果てのバザール」をコンセプトに、東名阪をはじめとする大都市の百貨店や駅ビルに輸入食品専門店「FAR EAST BAZAAR(ファーイーストバザール)」を展開。2017年には、本社近くの断崖絶壁に地中海・アラビアレストラン「CARVAAN(カールヴァーン)」もオープンさせた。知る人ぞ知る、食にこだわりを持つ人が集まる唯一無二のレストランだ。代表取締役社長の佐々木敏行氏の言葉を借りれば、「怪しくあること」が人気を牽引する理由だという。そんな佐々木氏が率いるFAR EASTとは一体、どんな会社なのだろうか?魅惑的な佇まいのCAARVAAN(カールヴァーン)で話を伺った。

食の「起源」である塩からすべての道は繋がった

FAR EASTは、2004年、塩の販売自由化を機に、パキスタンなどで採れるピンク色の岩塩を取り扱う輸入業者として貿易業を始めた。20代の頃、旅人として世界中を放浪していた佐々木社長は世界各地の豊かな食文化に魅せられ、なんとか日本に持ってくることができないか、と模索していた。

帰国後は、縁日などで実演販売をする商売が原体験となり、やがて、塩やドライフルーツ、オリーブなどの希少な品揃えに目が止まり、大手百貨店で販売する機会を得た。その後は、様々な経験を経て、FAR EAST BAZAARを二子玉川(世田谷区)や渋谷ヒカリエにも構えるまでになった。しかし、当時は物珍しさで成功を収めていたが、競合も現れ、徐々に現商品がコモディティ化していくのを感じていた。

佐々木社長は、レストランであれば、客との接触時間を長く保ち、FAR EASTの目利きで選んだ「非日常」を、ゆっくり説明できる、と気づいた。実演販売していた頃から、「ストーリー性に富んだ未知なるモノ」にはニーズがあり、「知的経験価値」という顧客インサイトを掴んでいたのだ。そのストーリーを説明する時間と空間さえあれば、必ずFAR EASTのコンセプトは伝わるし、「体験」は決してコモディティ化しない、という確信があった。

プライベートで訪れた飯能市の美しい自然に魅せられ、同地で最適な物件が出たことからレストランを開くことを決意した。飯能市は都心から電車で1時間あまりの距離にあり、遠方からわざわざ来店するという客の主体的行動から、より「密」な体験を届けることができるという判断だった。

そこにしかない出会い、食の体験をプロデュース

アラビア料理を選んだのは、それが現存する西欧の食文化に影響を与えた「食文化の起源」ともいえる存在であり、「非日常という体験」そのものだと感じていたからだという。

元をたどれば、実演販売で顧客の心を掴むリアルマーケティングを体得してきた佐々木社長にとってはこうしたストーリーを描くことはあくまで日常だ。日本でアラビア料理を出す店は少なく、過剰な宣伝はせずとも一度訪れた客は、その「珍しさ」「怪しさ」に魅せられ、自然と誰かに話したくなる。そうすれば、話を聞いた友人や、SNSを読んだユーザーが話のネタに訪れ、また次に来店する際には新しい誰かを連れてくる、というサイクルが生まれるわけだ。その戦略は見事にハマった。唯一の難点は、アラビア料理に「うま味」が不足していることから日本人の舌に合わないことだった。そこで、フランス料理で使われる、うま味をベースにしたところ、中東の大使館の職員からも「こんな美味いアラビア料理食べたことがない」とお墨付きをもらったという。

CAARVAANのレシピ開発についてもやはり触れておかなくてはならないだろう。コロナ禍でECサイトでも販売を始めた砂糖を使わないジェラートは、試行錯誤を繰り返して開発したものだ。一般的なアイスクリームに比べて空気含有量が極端に少なく、まるで、果実などの食材そのものを凝縮して味わっているかのような芳醇な味わいだ。佐々木社長自らがヤフーオークションで中古のアイスクリームの機材を買い揃えることから始まり、家族、社員総出で味見や食材の調達など協力した結果、今日の人気商品となっている。

商品部部長で執行役員の須田典子氏は「基本的にFAR EASTでは『できない』という言葉は使わないことになっている」という。社長の熱“を感じながら、日々、試行錯誤を重ね、「社員一人ひとりがまだどこにもない味(商品)」を探求しているのだ。だから、CAARVAANで接客を受けても料理やその背景にある思いが伝わり、まるでどこか異国を旅して辿り着いたかのような充足感を得られるのだ。

また、近隣にある農園ではホップを育て、自社ビールの醸造を行っている。それだけではなく今年は、オリジナルワインのぶどう栽培も進み、来年にはジンの蒸留所もできる。昨今のコロナ事情から、ノンアルコールビールにノンアルコールワインもレストランでは飲むことができる。

社員とともにアラビア×ウェルネスで新境地を拓く

アイスクリーム、ビール、ワイン、古代小麦を使ったお菓子、ゾロアスターカレーなど、次々とオリジナル商品を生み出すFAR EASTでは執行役員、現場のマネージャー職含めて、90%以上が女性だという。同社では、大学やNPOで開発学を学んだ社員も多く働いている。彼女たちはFAR EASTが現地の農家と「ウィンウィンの関係を築いていて、結果的に途上国の発展を支えている点に魅力を感じているのだ。

貿易業をバックグラウンドに持つ同社は、バイヤーたちが世界各地を飛び回り、定期的に現地の商品を買い付けている。そんな彼女たちが、現地に降り立ち、最初に向かうのはホテルではなく、「市場(バザール)」だという。「私たちの原点は『バザール(価値の決まる場所)』です。現地の人たちがどんな食文化に接しているのか、どんなモノに価値を感じているのか、徹底的に肌で感じるために、出張中は生産現場や、市場、食堂に張り付きます。一日7食は食べていますね」(佐々木社長)

FAR EASTはコロナ禍の逆風もなんのその、古代小麦を使った砂糖不使用のクッキーサンドなどの限定商品のオンライン販売を開始させ、横浜高島屋地下1階では、アラビア料理のテイクアウト専門店(デリカ)を出店するなど、爪を磨き続けている。

さらに積極的に攻めているデリカでは、「アラビア×ウェルネス」をテーマに、ヴィーガンやハラールといった最新トレンドを意識したラップサンドやお弁当などを販売、容器は、90日で土にかえる環境循環型パッケージを採用している。売れ行きは好調で、日常的なお惣菜が並ぶデパ地下で「エジプト弁当」を売るFAR EASTのデリカは、佐々木社長いわく「怪しさ満点」だ。

EC、デリカ、レストラン、自社開発商品と、どんな時でもチャレンジを続ける佐々木社長だが、その根底には、生産国と消費国を真摯な商売でつなぎ、さらに古代の歴史や食文化を再発見して伝えることにミッションを感じているのではないだろうか。あくまでその姿勢は自然体だが、どんな逆境も物ともせず、笑顔と行動力、社員一丸となって走り続ける元気な企業がFAR EASTだ。