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イトーヨーカドー食品館川越店レポート 首都圏スーパー戦略の実験店か?

セブン&アイ・ホールディングス(東京都/井阪隆一社長:以下、セブン&アイ)傘下のイトーヨーカ堂(東京都/三枝富博社長)は1128日、埼玉県川越市に「イトーヨーカドー食品館川越店」(以下、川越店)をオープンした。商圏特性に合わせて簡便・即食と地域商品を強化したほか、売場づくりや商品ではさまざまな実験を行うなど、イトーヨーカ堂が首都圏で進める食品スーパー新戦略の足掛かりとなる店舗だ。

イトーヨーカドー食品館川越店

地域住民向けの商品政策に注力

 川越店は西武新宿線「本川越」駅から徒歩約1分の場所にある。もともとは総合スーパー(GMS)の旧「イトーヨーカドー川越店」があった場所で、201610月に閉店して以来、約3年の時を経て食品スーパーとしてマンションの12階部分への出店となった。

 店舗周辺は古くからある住宅街に住んでいるシニア層に加え、近年では大宮や池袋などへのアクセスのよさから駅前の再開発が進行し、単身者や子育て世代のファミリー層が増加しているエリアでもある。加えて、江戸時代の街並みが残り「小江戸」で知られる川越は観光客が18年に年間700万人を超えるなど増加を続けており、多様なニーズが想定される地域となっている。

 川越店では、GMSだった旧店舗が広域から集客していたのに対し、今回はSMとして足元の地域住民向けの商品政策に注力した。そのための大きなテーマが「簡便・即食」と「地域商品」だ。

 店舗周辺は単身者の比率が埼玉県の平均よりも高いことから、1階は「おかずデリカゾーン」として総菜を中心にパンや冷凍食品、飲料などの簡便・即食商品を展開。一方、2階は「小江戸マルシェゾーン」として生鮮食品や調味料などを品揃えし、料理をするファミリー層に向けた売場を展開。お客のニーズに合わせたフロア構成とした。

 また、「川越は多様な食文化を持つ街」(齋藤健太郎店長)であることから、旧店舗ではほとんど取り扱っていなかった地域商品の品揃えを強化。1階、2階合計で約300アイテムの地域商品を展開する。

少容量の新商品を発売

 売場を写真とともに見ていこう。1階の総菜売場では、弁当や揚げ物、サラダなどに加えて鮮魚部門が製造する寿司や刺身を展開。とくに刺身を2階の鮮魚売場ではなく1階の総菜売場で展開するのはイトーヨーカ堂として初めての試みで、「おつまみとしてお酒と一緒に買って帰りたいというニーズに対応した」(齋藤店長)という。また、ネタは通常サイズのままでシャリをより少なめにした「これぞ定番!自慢の握り(10貫)」(798円:以下、税込)や、1切れずついろいろな種類の刺身を食べたいという需要に対応した「刺身盛合せ6種盛(えび入)小」(398円)など、単身者のニーズを想定した新商品も販売する。

単身者のニーズに対応したシャリが少なめの寿司

 そのほか、地元で親しまれている辛味噌だれを使用した焼き鳥や焼とん、肉汁うどん、名産の狭山茶を使用したスイーツなどの地域商品も多数展開する。

狭山茶を使用した川越ロール

地元メーカーの商品を多数品揃え

 2階でも地元商品を積極的に売り込む。青果売場では9つの農家から直送された地場野菜を、地元農協「JAいるま野」の「あぐれっしゅ川越 出張所」の名称でコーナー展開している。

青果売場で展開しているJAいるま野の野菜

 精肉売場では、地元の老舗醤油メーカー「松本醤油」のタレで味付けした豚肉や鶏肉を品揃えする。また、加工食品売場でも松本醤油の商品約30アイテムをエンドでコーナー化したほか、壁面で展開する駄菓子売場では川越市内のかりんとうの銘店である「蔵屋久兵衛」の商品を品揃えした。

地元の老舗醤油メーカー「松本醤油」のコーナー

 そのほか和日配では、川越市内の学校給食でも使用されている「高橋製麺」のうどんや焼きそば麺などを展開している。

首都圏SM戦略の実験店?

 GMSの構造不況がささやかれて久しい。そうしたなかでイトーヨーカ堂は数年前から直営の非食品売場を縮小しテナントの比率を高めるテナントミックス型の売場づくりにシフトしつつ、直営の食品売場を強化することで収益性の改善に取り組んできた。また、今回の川越店のように、GMSだった店舗を食品スーパーに業態転換して食品強化型の店舗につくり変えるといったケースもある。

 セブン&アイの202月期第2四半期の決算発表では、イトーヨーカ堂の食品スーパー業態である「イトーヨーカドー食品館」の分社化が発表されている。また、ヨークマートやシェルガーデン、フォーキャストなどのセブン&アイ傘下の食品スーパー企業と連携し、首都圏で収益性の高い食品スーパーのビジネスモデル構築に本格的に取り組むことも発表された。

 川越店はその発表後オープンした最初の食品館であり、什器などのハード面ではグループの食品スーパーの店舗づくりを一部参考にしたという。また、2階の加工食品売場では、大豆ミートや低糖質商品など健康志向の商品をコーナー化するなど、川越店は新しい商品やカテゴリー、売場づくりを実験する場としても活用されているようだ。同店を端緒として、イトーヨーカ堂は今後首都圏で収益性の高い食品スーパーのフォーマットづくりを進めていくとみられる。