何かと忙しい現代、総菜は簡便性・即食性の高さからニーズが高まっている。コロナ禍1年目は不調だったものの、2年目以降は徐々に売上が回復しており、食品スーパー(SM)各社にとって、集客の重要な要素であることは間違いない。ヤオコー(埼玉県/川野澄人社長)も総菜に力を入れるSMの1つで、メーンターゲットのヤングファミリー層を中心に幅広い消費者から支持される総菜を開発している。本稿では、2022年7月12日にオープンした最新店舗「ヤオコー横浜磯子店」(神奈川県横浜市:以下、横浜磯子店)から、ヤオコーの総菜の幅広さをみていく。
ヤオコー名物おはぎをコーナー化
平年より1カ月ほど早く梅雨明けした2022年の夏。湿度が高く蒸し暑い気候のなか、横浜磯子店はオープンした。JR根岸線「磯子」駅からほど近く、少し先には根岸湾が広がる。玩具店「トイザらス・ベビーザらス磯子店」跡地への出店だ。
ヤオコーの横浜市出店は横浜磯子店が初。同店ではまずヤオコーの認知度を高めるため、商品政策(MD)では同社ならではの定番商品を中心に品揃えする。
総菜売場でもその戦略に沿って、ヤオコー総菜の定番商品が多く並んでいる。そのなかでも注力しているのがヤオコー名物のおはぎだ。既存店でも長年販売しており、ファンも少なくない。横浜磯子店ではおはぎを大きくコーナー化し、定番の粒あんのほか、ずんだやきな粉などの味を1個99円(以下、本体価格)で展開。「粒あん・ずんだ」「粒あん・きな粉」などの2個入りセットも198円で販売するほか、さらに新商品として、いちご大福と粒あんおはぎを3個ずつ入れた詰め合わせも販売開始。SKUを増やして品揃えの幅を広げている。
こだわりの手づくりおにぎりも
米飯の品揃えも豊富だ。売場では、店内製造したこだわりのおにぎりを大きく展開。「紅鮭」「辛子明太子」「ツナマヨネーズ」など、女性バイヤーを中心に約1年前に立ち上げた新ブランド「幸米(さちべい)」のおにぎりが多く並んでいた。また、「紅鮭・ツナのおむすびセット」(398円)など、手づくりおにぎり2個と唐揚げや漬物などのおかずをセットにした商品も販売。そのほか一風変わったアイテムでは、韓国風おにぎりの「韓流俵むすびチュモッパ」(2個150円)も展開する。この商品を使った「韓流俵むすびチュモッパうどんセット」(398円)も販売していた。
おにぎりだけでなく、弁当の品揃えも幅広い。横浜磯子店では、横浜名物の焼売を使った「厚焼玉子&手包み焼売弁当」(498円)を展開する。また、「デミハンバーグ&カニクリームコロッケ弁当」(同)、「厚切り銀鮭西京味噌焼弁当」(598円)などの定番商品のほか、「カレイ酒粕焼炊込みご飯重」(同)、「野菜を食べよう♪ビビンバ丼」(398円)、「サフラン香る! グリルチキンパエリア」(498円)など高付加価値商品やアジアンメニュー、洋風商材なども展開。多様化する食の好みに合わせて幅広い品揃えを展開する。
具材入りのフランスパン
弁当やおにぎりは店内製造の商品を中心に展開しつつ、和総菜などでは自社工場「デリカ・生鮮センター」で製造した商品が多くみられた。なかでも売場で訴求されていたのが、こだわりの「熟成八方だし」を使用した商品だ。「下仁田産生芋こんにゃく煮」(198円)や「アスパラのお浸し」(同)、「ほっこりカボチャ煮 M」(298円)など、同じだしを使った商品を集積して大きく展開していた。
インストアベーカリーではヤングファミリー層に人気が高そうなメニューが豊富に並んでいた。平台では「スパイスケバブバーガー」(298円)や「たっぷりタルタルフィッシュバーガー」(198円)などボリューム感のある肉やフライを使ったバーガーを販売。壁面では、「具OODチーズ」(298円)や「ほうじ茶と黒豆フランス」(同)などフランスパンに具材を巻き込んだ「具がたっぷりシリーズ」を、フェースを大きく取って展開していた。そのほか、クロワッサンに生ハムとメロンを挟んだ「クロワッサンサンド」も取り扱う。
ヤオコー総菜開発の巧みさ
ヤオコーの総菜売場を見ると、トレンドにあわせたさまざまな新商品開発に果敢に挑戦しつつ、同じ商材を複数の商品で共有したり、味の違いで組み合わせを変えたりするなどの工夫で、品揃えの幅を巧みに広げていることがわかる。前述したように、おにぎりでは単品だけでなく、おにぎりとおかずのセット、うどんとのセットなど同じ商材を使って異なる商品を展開し、「小腹が空いておにぎりだけ食べたい人」「昼食用におかずと一緒に食べたい人」など多様な消費者ニーズに対応している。
既存の商材を活用した新たなメニューの開発も進んでいるようだ。たとえば、生ハムメロンのクロワッサンサンドでは、クロワッサンという定番商材に生ハムメロンを組み合わせている。通常は食パンやコッペパンなどを使うことが多いサンドイッチでクロワッサンを使用したうえで、あまりSMではみられない生ハムメロンを挟むことにより、新しさ・物珍しさを演出している。
お客を飽きさせないという意味で、新商品を継続的に投入することはもちろん重要だ。しかし、これまでにないまったく新しい商品はそう簡単にできるものではない。実際、横浜磯子店での総菜の新商品投入は限定的だった。しかし売場からは、同じ商材を複数のメニューで活用したり、既存のメニューから発想を転換させたりするなど、継続的に品揃えを巧みに広げようとする姿勢が窺える。こうしたヤオコーの総菜開発の手法は、SM各社にとって参考になる部分が大いにあるのではないだろうか。