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食品スーパーが2022年、PBと総菜に力を入れる事情と「総菜復活」への懸念とは

コロナ禍1年目の2020年、食品スーパーの需要が急伸する中で総菜部門だけは取り残されました。しかし21年はその他部門が反動減に見舞われる中、食品スーパー業界3団体の統計では総菜だけが前年比4%増(既存店ベース)になりました。コロナ以前、食品スーパーの成長分野と目されていた「エース」が復活したという印象です。仕入れ原価や光熱費の上昇が経営の負担になるはずの今期、粗利率の高い総菜は、収益面のエースとしていっそうの貢献を期待されています。

粗利率の高い総菜は稼ぐ力の源泉として期待が高まる(セントラルスクエア恵比寿ガーデンプレイス店)

コスト高に直面のスーパー 粗利率の高いPBと総菜を強化へ

 22年2月期の決算会見では、チェーン経営のトップからコスト上昇への懸念が多く聞かれました。食品スーパー最大手の一角である2社を例にすると、

「電気代の上昇は、経営上のかなりのインパクトになる。これまでも節電に取り組んできたわけで、この状況に対処するいいアイデアはない」(ライフコーポレーション岩崎高治社長)

「生活者は食品以外のウォレットシェアが上がっている。特にガソリン代の値上がりは、買い物に出る回数にも影響するだろう」(ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(USMH)藤田元宏社長)

 仕入れも光熱費も物流費も上昇するうえに円安の進行です。いずれも企業努力ではどうにもならない部分があり、今期への影響を想定しつつも、対応策は限られます。経費増への備えとしては積極的に稼ぐことが一番で、食品スーパーの多くは独自色を打ち出せるプライベートブランド(PB)と総菜の強化に一段と力を入れる意向です。

 まずPBに触れておくと、その役割は安く売ることではなく、稼ぐことです。NBのように価格競争に左右されないよう独自性を追求します。先に取り上げたライフは、自然派志向の「ビオラル」が21年度に前期の1.6倍・40億円規模になり、岩崎社長は早期に100億円を目指すといいます。USMHの「イータイム」も付加価値型のPBで、売価設定は同じカテゴリーのNB以上という商品も珍しくありません。

総菜が生鮮3品をしのぐ稼ぎ頭に

コロナ禍にあってメニューの多様化・深掘りが進んだ(マルエツ武蔵新城店)

 続いて総菜です。その収益性に対する期待は高まっています。

 USMHのデリカ部門は、21年度の粗利率が42.9%でした。売上構成比12.0%は、精肉(10.8%)・鮮魚(9.0%)を上回り、粗利高の構成比18.8%は加工食品(22.1%)、日配(22.9%)に続くもので、生鮮3品を上回ります。収益に占めるこの重要性を見れば、藤田社長が事業会社の取り組みテーマとして「デリカテッセンの構成比をいかに上げるかは粗利額を高める大きな鍵」と位置付けるのもうなずけます。

 ライフの21年度における総菜の粗利率は54.9%でした。売上構成比11.0%は、畜産(11.2%)と拮抗します。21年度は、総菜の売上増が全体の粗利率改善につながったといいます。

 イズミは、総合スーパー(GMS)を核とするショッピングセンター(SC)主体の事業展開から、食品スーパーとそれを核とする近隣型ショッピングセンター(NSC)による成長へと舵を切るべく、25年度までの中計で基盤づくりを進めています。

 このSM戦略で鍵となるのが、やはり総菜です。総菜は5分商圏のシェアを高めるためのドライバー役であるだけでなく、他の部門で価格訴求を強める際の原資を作り出す部門とも位置付けられています。

 山西泰明社長は「総菜の粗利率は21年度で45%くらい、構成比は12~13%という現状。この構成比を15%にもっていきたい。そうして増やした粗利を、新しい顧客を獲得する際の価格訴求に回していく」と語っています。

総菜拡大の順風満帆は続くのか?

 期待の高まる総菜は、確かにコロナ禍で一段と進化を遂げました。当初の逆風が多くのことを見直すきっかけになったという印象です。この間、自宅で過ごす時間が増えたことで、昼食や間食のマーケットが拡大したほか、家飲みのような機会も創出されました。

 消費機会の拡大に合わせて寿司や弁当のメニューは多様化し、インストアベーカリーもピザやサンドイッチなどが充実、デザートは新商品が精力的に開発されるようになりました。家飲み向けの一品料理も、和洋中や魚介・畜肉・野菜軸などさまざまなトライアルが続いています。

 利用シーンも需要も拡大した総菜ですが、無条件で前途揚々とは言えないかもしれません。

 食品スーパーの来店頻度が総じて低下していることは、客数減が示す通りです。食品スーパーにおける購入スタイルはまとめ買いの傾向を強めており、ストック型の消費スタイルは即食の総菜にとってプラスではありません。コロナ禍で広がった昼食・間食・家飲みシーンも、アフターコロナの揺り戻しが出てくる可能性はあります。こうした懸念が顕在化するのかどうかは、22年度の注目点だと思います。

 新たな販路としてネットスーパーの活用のほか、即時配送のQ(クイック)コマースを導入する実験も広がっていますが、今のところQコマースでも売れ筋はネットスーパーと似ていて、即食の総菜が上位に来るとは限らないようです。即時配送は総菜との親和性が高そうなサービスですが、総菜の利用機会を広げる手段になるのかどうか、今のところ未知数です。