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あのピエール・エルメ監修のドーナツを発売!ミスタードーナツが他社との共同開発に注力するワケ

2020110日、ミスタードーナツは世界的パティシエとして名高いピエール・エルメ氏が監修したドーナツを発売した。一部店舗では品薄になるほど人気で、店舗によっては1人につき1種類1個までと購入制限を設けるほどだ。このような他社と共同開発した商品はお客からの評価が高く、近年のミスタードーナツの業績回復に大きく寄与している。ミスタードーナツをフランチャイズ展開するダスキン(大阪府/山村輝治社長)が、積極的に他社と共同で商品を開発するようになった理由は――。

他社と共同開発した季節限定商品「misdo meets

 ピエール・エルメ監修の6種類のドーナツのうち、3種類はミスタードーナツの既存商品にアレンジを加えたものだ。たとえば、長年人気の「オールドファッション」(110円:以下、税抜)にピエール・エルメの代表的フレーバーの1つ「サティーヌ」(オレンジ、パッションフルーツ、チーズクリームを組み合わせた風味)を使用した「サティーヌファッション」(180円:以下、税抜)などを展開。残り3種類は既存商品ではなくフィナンシェをベースにした新しい生地を使用し、塩キャラメルクリームなど複数のクリームをサンドした「プレニチュード」(230円)などを販売する。

ミスタードーナツは2020年1月10日、世界的パティシエのピエール・エルメが監修した商品を発売した

 ミスタードーナツは17年、宇治茶で有名な祇園辻利(京都府/三好正晃社長)との共同開発商品を皮切りに、他社と共同開発した商品を「misdo meets(ミスド・ミーツ)」と銘打ち販売し始めた。このような企画は基本的に四半期に1度のペースで実施され、約2~3カ月の期間限定で商品を販売している。企画にもよるが、実施期間中はそのほかの時期と比較してドーナツ全体の販売数量が30%ほど伸長することもあるという。

17年の祇園辻利との共同開発商品を皮切りに、他社との共同開発「ミスド・ミーツ」がスタートした

今までにない高品質の商品で注目を集める

 前述のピエール・エルメや祇園辻利のほか、パンやカレー、和菓子などを取り扱っている新宿中村屋、堂島ロールで有名なMoncher(モンシェール)、パティシエの鎧塚俊彦氏など、ミスタードーナツはこれまで多くの企業や人物と共同で商品を開発してきた。

 このような協業先を選ぶ基準の1つとして、ダスキンの副社長でフード事業を管掌する宮島賢一氏は「自社だけでは実現できない商品を提供できるかどうか」を挙げる。市場に多くのスイーツが登場しお客の選択肢が多様化するなか、新鮮さや驚きを提供するため、自社の商品開発技術に加え熟練した技術を持つパティシエや質の高い商材を持つメーカーとタッグを組むことで、今までにない高品質の商品を開発したい考えだ。

 また、祇園辻利のように知名度は高いが店舗数が少なく、消費者が手軽に味わえる機会が少ないものを全国に広めることができるかどうかも重要な基準の1つだ。ミスド・ミーツでは、全国で約1000店舗を展開するミスタードーナツで協業先のコンセプトを気軽に楽しめるというコンセプトを打ち出したことも成功の要因の1つだという。

安売りをやめてブランド力を高める

 ミスド・ミーツのような高品質の商品を開発するのは、ミスタードーナツのブランド戦略の抜本的な見直しへの布石でもある。

 ミスタードーナツといえば、定期的に実施されていたドーナツ100円、パイ120円のセールに象徴されるように、「安い」というイメージを持っている消費者は少なくない。セール期間以外でも、店内で一から製造しているためかなりの手間とコストがかかっているにもかかわらず、ドーナツの定番商品の大半は100円台前半と非常に低価格だ。

 しかし、人件費や物流費が高騰するなか、原料の配送回数や仕入れ会社の見直しなどさまざまな手を打ってはいるが、現在の価格を維持するのも難しくなりつつあるという。

 こういった現状を受け、今後はミスド・ミーツや定番商品のリニューアルにより品質を向上させ、その価値に適した価格を設定する考えだ。そのため、前述のセールは16年に終了している。「セールをやめたことが現在のブランド戦略に生かされている。『ドーナツは100円』というイメージから脱却しつつあるからこそ、ブランド力が高まりミスド・ミーツのような付加価値の高い商品が売れるようになった」(宮島氏)。

事業開始後すぐに教育施設を開設

 ミスタードーナツは以前から品質向上のための取り組みを継続してきた。1号店がオープンした1971年にはすでに、フランチャイズによる多店舗展開を見据えた教育施設「ミスタードーナツジャパントレーニングセンター」(現ミスタードーナツカレッジ)を開設。同施設では各店舗の店長などを対象に、ドーナツの製造のほか、接客方法や品質管理などについて教育している。

 とくにミスド・ミーツでの他社との共同開発商品については、協業先のブランドイメージを損ねないようにするため、その都度エリアマネージャーがエリア内店舗の店長を招集し、製造方法について綿密なレクチャーを実施している。

 20192月期第2四半期決算では、ミスタードーナツを中核とするダスキンのフード事業は増収増益を達成している。ミスド・ミーツでの他社との共同開発商品や100円セールの終了などによるブランド力向上のための取り組みが、消費者に受け入れられ始めている証拠だろう。

 

「ダイヤモンド・チェーンストア」2020年3月1日号では、ミスタードーナツのレポートを掲載する予定です。商品だけではなく、ミスタードーナツの店舗政策・出店政策なども詳細に解説しています。お楽しみに!