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モニター希望者が殺到!中川政七商店が開発した「水を一滴も使わない保湿化粧水」

日本の工芸品を扱っているイメージが強い中川政七商店(奈良県/千石あや社長)。そんな同社がオリジナル基礎化粧品の販売を開始した。特徴的なのが「水を一滴も使わない保湿化粧水」であること。販売にいたった背景や開発過程について、商品の企画者である田出睦子氏に聞いた。

“リラックス”をキーワードに、香りと粘度にこだわって開発

植物由来の保湿化粧水

 工芸品のイメージが強い中川政七商店だが、なぜ化粧品を手がけたのだろうか。企画担当の田出睦子氏はこう語る。

 「現在の代表になってから、『日本の暮らしの心地好さを改めて伝えていこう』という方針になり、工芸をベースにした生活雑貨だけでなく、土地土地の食文化を楽しめる食品なども手がけるようになった。化粧品を作りたいという構想は会社として以前からあったものの、商品化には至っていなかった」

 だが、田出氏が大阪の化粧品企画会社と出会ったことで、状況は一気に動き出す。

 「一般的に化粧水の第一原料は精製水であることが多い。しかし、この会社が無農薬アロエベラ液汁をベースにした化粧水を開発していることに興味をもった。実際に試すと、肌荒れをしているときでもピリピリした感じがないことに驚いた」

 開発から販売までの期間は1年。化粧品開発には23年の月日を要することも多いため、非常にスピーディーに進んだといえる。化粧水の原料自体に特徴があるため、オリジナルの処方を加える形で試作を進めていったのだという。

 「年齢を重ねた大人の肌にも優しい植物由来の原料であることにこだわった。また、しっとりするだけでなくリラックスできる化粧水にしたかった。リラックスには香りが欠かせない。天然の香りをつけたいと、ゆずをセレクトした」

 また、社員へのヒアリングからヒントを得て、化粧水の粘度にもこだわった。

 「『化粧水をつけてパッティングをするのが大変』という意見を参考にした。化粧水に適度な粘度があれば浸透しやすく、パッティングをしなくてもいい。また、『ナチュラルなイメージ』にするために容器はプラスチックではなく再生可能なガラス瓶を選んだ。粘度があってもスムーズに出てくるよう、調整を重ねていった」

シリーズで見せるためにパッケージを統一

シリーズラインナップ

 化粧水とクリームを発売するタイミングで、すでに販売していたオリジナルのハンドクリームやネイルオイル、入浴剤などのパッケージも一新した。

 「化粧水だけで戦わずに、組み合わせて使ってもらいたいと考え、ハンドクリームやネイルオイル、リフレッシュシート、入浴剤、石鹸などの周辺商品も成分を見直し、統一感のあるパッケージにした」

 江戸時代の植物図鑑『本草図鑑』からインスピレーションを得たモチーフがやわらかなタッチで描写されているのだが、実はここにも試みがあったのだという。

 「中川政七商店では、力強い木版画のようなパッケージを採用することが多い。しかし、見た目からも癒されるように、あえて繊細な線画のイラストにこだわった。これまでにないデザインだったが、コンセプトをしっかりと説明することで社内の同意も得られた」

 こだわりをつめこみながらも、気兼ねなく使える手が届きやすい価格設定にするため、化粧水とクリームの価格はいずれも2,750円に設定した(化粧水150ml、クリーム40g)。

中川政七商店の化粧品に対する期待は高かった

商品企画担当の田出睦子氏

 化粧品の販売に対し、顧客からは非常に好意的なリアクションが返ってきたという。

 「販売前にモニターを募集したところ、想像以上の希望者がいて期待値の高さを感じた。実際に使用した感想としては、中川政七商店の化粧品なら安心して使える、ゆずの香りに癒されるといったポジティブなものが多かった」

 直営店での売上も好調で、予定していた販売量を大幅に超えているという。「購入者は元々の顧客の方が多い。メイクよりも基礎化粧品を重視し、シンプルな暮らしを好む4050代の女性だ」

 これまで扱っていなかったオリジナル基礎化粧品の販売だが、店舗での接客もスムーズだという。「化粧品に限らず、重点商品は商品ごとに接客シートがある。シートには、企画やデザインの意図や開発の背景などを記載し、全スタッフが自分の言葉でコミュニケーションできる状態を目指している。今回は化粧品なので、大げさに効果・効能をうたってはいけないなどの注意点も共有した。そして、自信を持ってお客さまにおすすめできるよう、全スタッフに化粧水のサンプルを渡して、自ら試す機会をつくることも意識した」

 化粧水とクリームの2つを長く愛用してもらえるように、美容液などのアイテムを増やしていく予定はない。ただし、同カテゴリーで展開する工芸品のつげの櫛や爪磨きといった化粧道具は統一感が出るようにリニューアルした。

 今後はいかにリピートにつなげるかが課題だ。「スキンケア商品は、定期的に必要とされるもの。リピートされれば、来店回数も増える。それによって、化粧品以外の暮らしの道具に触れる機会を生み出したいと考えている」