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全国の20歳~69歳の男女1,000人に聞いた「牛乳の購入意識」に対する調査

調査の背景

2018年9月6日に発生した北海道の大地震。広域に及んだ停電により、道内のほとんどの乳業工場が操業停止し、酪農家は搾乳作業や搾った生乳の冷蔵保管ができず、生乳の廃棄を余儀なくされました。この影響で、首都圏などのスーパー店頭で牛乳が品薄になりました。

調査概要

  1. 調査方法/株式会社ネオマーケティングが運営するアンケートサイト「アイリサーチ」のシステムを利用したWEBアンケート方式
  2. 調査対象/アイリサーチ登録モニターのうち、全国の20歳~69歳の男女 3.サンプル数/1000サンプル(性別×各年代 100S)

 

 牛乳は食生活に欠かせず、スーパーの店頭に当たり前のように並んでいますが、実は近年、国内の酪農家がかなり減少し、牛乳の供給はギリギリになっています。そこで総合マーケティング支援を行う株式会社ネオマーケティング(所在地:東京都渋谷区)では、2018年10月26日(金)~29日(月)の3日間、全国20~60代の男女1,000人を対象に「牛乳の購入意識」をテーマにしたインターネットリサーチを実施しました。

牛乳を購入する際の重視点

「価格」と「品質(安全性)」の2つが高く、次いで「味」「成分無調整」を重視。

Q:あなたが牛乳を購入する際に最も重視することについて、お答えください。

「国産牛乳」と「外国産牛乳」の購入意向 (仮に外国産が店頭にあったとした場合)

「価格が多少高くても国産のものを買いたい」が54.7%

Q:あなたは、牛乳について、国産と外国産どちらを買いたいとお考えですか。(※「牛乳」は国産100%ですが、仮に店頭で外国産の牛乳が売られている場合を想定してお答えください。)

国産の牛乳を買うための値上げ許容金額

「20円くらいまで」が約28%と最も多く、「10円くらいまで」が約25%、「30円くらいまで」が約18%と続きました。また、「50円くらいまで」との回答も約16%ありました。

Q:前問で、「価格が(多少)高くても、国産のものを買いたい」または「価格が同じなら、国産のものを買いたい」とお答えの方にお聞きします。国産の牛乳を買うために、あなたは、牛乳(種類別「乳」・紙パック・1リットル)の値上げは、いくらくらいまでなら許容できますか。

【参考】 総務省の平成29年の家計調査によると、牛乳1リットル当たりの平均購入価格は約196円( 平成29年の月毎の平均で算出)

日本の食や牛乳の供給に関しての考え

 日本の食や牛乳の供給に関しての考えについて全員に聞いたところ、「日本の酪農や酪農家を応援したい」が85.6% で最も高く、「食品の安心・安全を維持するのには、コストがかかるものだ」が85.2%、「現状より食品の価格が安くなるより、安心・安全を維持してほしい」が83.6%、「多少価格が高くても安心・安全と思われる牛乳を購入したい」が81.7%と続きました。

 

 食品や牛乳の安心・安全を求める意見が多く、そのためには多少価格が高くても購入したいという意識があることがわかります。

 

有識者インタビュー
「いま、日本の酪農を考える」~酪農の危機! 揺らぐ牛乳の安定供給~

牛乳は、工業製品のように消費量に合わせて生産量を調整することが難しい

 

 農業経済学(特に農産物流通の研究)が専門の北海道大学大学院講師の清水池義治さんに、生乳と牛乳の特性について、また牛乳を安定供給するために、いま何が必要かをお聞きしました。

生乳の特性

 日本の“生乳(搾ったままの牛の乳で、牛乳・乳製品の原料)”の生産量は夏に減少し、春、秋、冬には増えます、逆に、飲用“牛乳”は暑くなる6~9月に消費が増え、寒くなる冬には減ります。

 

 また、バター・生クリームはクリスマスに洋菓子需要が大量に発生して消費が増え、年末に需要が高まります。でも生乳生産量は、増やしたくても、簡単には増やせません。雌牛が子牛を産んで初めて生乳を出すわけですが、生まれた雌の子牛を育成し妊娠、出産を経て、乳が出るようになるまで約2年半の歳月がかかります。

 

 工業製品のように消費量に合わせて生産量を調整することが難しいのです。

生乳の安定供給に向け、飼養頭数増加の兆し

 生乳の生産量は近年、北海道がほぼ横ばい、都府県では減少が続いています。全国合計では特にこの15年間で、約100万トン減少しました。生乳の安定供給には乳牛の飼養頭数の増加が必須です。乳牛の増頭対策として、例えば、子牛の死亡事故を防ぐために、子牛が過ごすカウハッチ(育成牛舎)や分娩牛舎の整備、分娩事故防止のためのカメラや、低温に備えてヒーターの設置なども行われています。


 こうした酪農家の懸命な努力の結果、最近、乳牛の飼養頭数は下げ止まり傾向にあり、生乳生産の増加の兆しが見られます。

牛乳の商品としての特性

 厳しい酪農経営を背景に、実は飲用向けの乳価(酪農家に支払われる生乳の代金)は近年、4回ほど引き上げられ、それにともない牛乳の小売価格も一時的には上がっています。しかし、それを維持できず低下している状況を、下記の「牛乳価格の推移」から見て取ることができます。乳価が上がっているなかで、小売価格が低下しているということは、乳業メーカーの利益が得られにくい状況にあるといえます。購入頻度の高い牛乳は、特売対象になりやすい商品だからです。

 

 一方、牛乳の消費量については、下記のグラフの通り最近少し増えてきています。これは、ここ20年なかったことです。消費者の健康志向が高まるなか、最近、牛乳の健康栄養機能がメディアで多く取り上げられることなどがプラスに作用していると考えられます。

安定供給のためには、乳価と牛乳価格の見直しが必要

 最後に、安定供給のためには、乳価と牛乳価格の見直しが必要ということを述べます。特に、2015年4月以来、値上げが行なわれていない飲用向け乳価の見直しが必要と考えます。実は飲用向けの生乳に関しては、乳製品向けのような補給金(国からの補助金)が一切ありません。このため消費地に近く、飲用向け生乳を主に生産する都府県の酪農家にとっては、乳価が収入のほぼすべてと言っても過言ではありません。都府県酪農の生産の下支えの面でも、飲用向け乳価の見直しが必要です。

 

 また、牛乳の小売価格については、酪農経営および乳業メーカーの牛乳生産の持続可能性という面から、適切な価格水準かどうかの議論が必要です。

プロフィール

北海道大学大学院農学研究院・専任講師
清水池 義治
1979年・広島県広島市生まれ
専門:農業経済学、農産物流通、農産物・食品認証
2009年3月:北海道大学大学院 農学院博士後期課程修了、博士(農学)
2006年〜2008年:雪印乳業(株) 酪農総合研究所
2009年〜2016年3月:名寄市立大学 保健福祉学部・講師など
2016年4月〜現在:北海道大学大学院 農学研究院 基盤研究部門 農業経済学分野・講師