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コロナから2年、拡大する業態と縮小する業態は?小売業、市場占有率2022

EC市場は10兆円台に!SMも一転し市場拡大へ

 新型コロナウイルス(コロナ)感染拡大から2年以上が経過した。コロナ禍では外出が制限されたことで、“巣ごもり需要”が発生し、消費者のライフスタイルは大きく変わった。小売業界では、その恩恵を受ける業態、逆に厳しい環境下に置かれる業態と、業績の明暗が大きく分かれている。本特集では毎年、小売業界の市場規模、上位グループの寡占化の直近の動向を業態別にまとめている。コロナ禍の影響がフルに反映された本年の結果からは、コロナ禍での業態間格差が浮き彫りになった。

 主要業態のなかでとくに市場規模を拡大させているのが、通信販売、ホームセンター(HC)、SM、ドラッグストア(DgS)だ。なかでも通信販売市場はコロナ禍で需用が急拡大したことで、2020年度の市場規模は対前年度比20.1%増の10兆6300億円と、著しい伸びを記録した。

 次に市場規模の伸び率が高かったのはHCだ。コロナ禍に伴うテレワーク関連需要や、DIY(日曜大工)人気の高まりにより、20年度の市場規模は同7.9%増の4兆2686億円と初めて4兆円を突破している。

 SMはコロナ感染拡大前の19年度には、競争激化や人口減少に伴う既存店売上高および客数の伸び悩みなどを背景に、市場が縮小傾向にあった。しかしコロナ禍の“巣ごもり需要”を継続してとらえ、21年度に入っても底堅い業績を維持している。20年の市場規模は18兆6584億円と推計され、前年から一転し5%ほど増加している。

 続くDgSの20年度の市場規模は同4.6%増の8兆363億円で、8兆円を突破した。コロナ禍では訪日外国人を成長エンジンとしてきた一部の企業が苦戦しているものの、大半の企業が特需を受け業績を伸ばしている。

デリバリーは急拡大、存在感を高める市場も

 一方で、CVSやGMS、百貨店にとってはコロナ禍が逆風となっている。

 CVSは、コロナ禍で近年出店を進めてきた都市部やオフィス街の店舗の利用が落ち込んでいる。日本フランチャイズチェーン協会(東京都)によると、20年度のCVSの市場規模は同4.5%減の10兆6608億円で、同協会がデータを公開している05年以降、初めて前年実績を割った。直近の21年度は同1.1%増となったものの前年度の落ち込みから回復するには至っていない。

 事業構造改革が指摘されて久しいGMSは市場縮小に歯止めがかからない。近年はGMSではなくSMを中心とした運営に舵を切る企業も増えており、本特集では近年の実態に合わせて一部企業の業態区分をGMSからSMへ移行したこともあり、市場規模は5兆円台にまで縮んでいる。

 同じくコロナ前から構造改革が求められてきたのが百貨店だ。コロナ禍では時短営業やインバウンド需要の消失という追い打ちを受け、20年度の市場規模は25.7%減の4兆2204億円と激減。21年度は同5.8%増となったものの、巻き返しを図れていない。

 縮小する市場がある一方、新たに存在感を高めている市場もある。コロナ禍で外食の利用が落ち込むなか、各社が注力するデリバリー市場だ。エヌピーディー・ジャパン(東京都)調べによると21年の市場規模(推計)は、対19年比で89%増の7909億円と大きく拡大しているという。近年、中食需要を取り込むことで売上増につなげてきたSMやCVSなどにとっては、新たな競合として見過ごせない存在になりつつある。

SMの再編が加速、異業種でのM&Aも

イオンは21年9月、マックスバリュ西日本とフジが経営統合すると発表。24年3月をめどに、経営統合し新会社を設立予定だ

 このように多くの主要業態が“コロナ特需”で活況を呈しているなか、コロナ禍ではM&A(合併・買収)が加速し、大手企業による寡占化が進んでいる。背景には、少子高齢化や人口減少、業種業態を超えた競争の激化などの課題は依然として変わらず存在すること、コロナ特需のなかでも有力企業とそうでない企業間の格差が生じていることなどが挙げられる。

 直近の21年にSM業界で最も耳目を集めたのは、エイチ・ツー・オー リテイリング(大阪府:以下、H2O)、とオーケー(神奈川県)による関西スーパーマーケット(兵庫県:以下、関西スーパー)の争奪戦だ。21年8月、関西スーパーがH2Oとの経営統合を発表したが、オーケーがこれに反対し、TOB(株式公開買い付け)による完全子会社化の意思を表明。法廷闘争にまで発展したものの、最終的には最高裁判所がオーケーの抗告を棄却しH2Oによる買収が決定した。21年12月にはH2O傘下のイズミヤ(大阪府)、阪急オアシス(同)と、関西スーパーの3社が経営統合し、これにより営業収益合計で4000億円規模の関西エリア最大シェアを持つグループが誕生している。

 イオンは21年9月、マックスバリュ西日本(広島県)とフジ(愛媛県)が経営統合すると発表。すでに、フジがマックスバリュ西日本とフジ・リテイリング(愛媛県:フジの事業会社として21年11月に新設したフジ分割準備会社から商号変更)を束ねる持ち株会社に移行しており、24年3月をめどに、経営統合し新会社を設立予定だ。

 SM業界は上位10グループのシェアが約4割といまだ細分化されている状況から、ここにきて寡占化が徐々に進んでいる。

 そのほか、DgS業界では21年10月、マツモトキヨシホールディングスと、ココカラファイン(神奈川県)が経営統合して、マツキヨココカラ&カンパニー(東京都)が誕生。上位企業の寡占化は75%を超えた。

 HC業界も上位企業によるM&Aが続いており、上位企業のシェアは64.4%となり寡占化が進んでいる。直近では22年3月にカインズ(埼玉県)が東急ハンズ(東京都)を完全子会社化した。

 業態を越えた競争が激化するなか、異業種でのM&Aも目立つようになってきた。DgSのクスリのアオキホールディングス(石川県)は、20年6月にナルックス(石川県)を子会社化したのを皮切りに、地方の中小SMを次々と傘下に収めている。最近では22年3月、中核事業会社のクスリのアオキ(石川県)が一二三屋(福島県)、ホーマス・キリンヤ(岩手県)とその関連会社フードパワーセンター・バリュー(岩手県)を吸収合併している。

22年3月にはカインズが東急ハンズを完全子会社化した

収益へのインパクト大、コスト増が再編の引き金に!?

 こうした業界再編の動きは、ますます加速しそうな兆しだ。

 なかでも再編の引き金となりそうなのが、流通小売業各社にとって深刻な課題となっている原価高騰、コスト上昇である。現在、ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに原材料価格や輸送費に直結するガソリン代、電気代の価格が高騰しており、これが大幅なコスト増として各社にのしかかっている。アクシアル リテイリングの原和彦社長は、「人件費を含む経費上昇ぶんは経常利益額の1割以上に相当する。流通小売業界にとって22年度は厳しい年になる」と述べている。

 しかし、経費上昇ぶんをそっくり販売価格に転嫁するのは、店舗間競争が激化しているうえに、消費者の収入が増えていないなかでは容易ではない。かといってこのままでは小売各社の収益は圧迫されてしまうため、コスト低減や、独自商品の拡充など価格だけで戦わなくて済む独自性の追求がいっそう求められる。

 こうした値上げ局面では、独自商品の獲得やバイイングパワーを求めるかたちでの「商品」を軸とする再編も活発化するかもしれない。

 実際、本誌が算出した国内主要食品小売チェーン上位10グループによる食品小売シェアはいまだ約3割にとどまる。巨大なマーケットに業種問わず大量のプレーヤーがひしめく状態で、再編の余地が多分に残されているといえるだろう。

 そのほか、インフレによる消費マインドの低下や、人手不足による人件費高騰、SDGs(持続可能な開発目標)への対応など、流通小売各社には中長期的に取り組むべき課題が多数突き付けられている。これらの対策を打ち生き残っていくには、ある程度の企業規模と投資が必要であり、そうしたなかM&Aという選択肢を選ぶ企業は今後、増えてくると考えられる。

 コロナの収束がいまだ見えないなか22年の小売市場はどのように変化するのか。次はどんなM&Aのニュースが飛び込んでくるのだろうか──。先行きの不透明な今だからこそ、各業態の現状を確認し時流をつかんでおきたい。

 

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